バロック建築とデルウスの彫像
レッドツェッペリン54号はペルセポネ空港へ向かっています。飛行船はペルセポネの街のすぐ近くまでやってきました。飛行船の外からはバロック建築の高層建築物や教会が目に見えて来ます。空港に向けて飛行船は静かに下降していき着陸しました。エンジン音が静かに消えるとシートベルト着用のサインが消えます。ジェロームとロレーヌはシートベルトを外します。客室乗務員が確認すると飛行船のドアが開きました。ジェロームとロレーヌは荷物を持って席を立ちます。ドアを潜りペルセポネの街へと降り立ちます。ペルセポネの空気を吸ったジェロームは伸びをするのでした。
「短いフライトであったが、とても居心地が良かったな。このペルセポネの街は凄いぞ。サンピエトロ大聖堂が街のシンボルとして立っている。」
サンピエトロ大聖堂はペルセポネの中心街から少し離れた地域にあるので、寄るのは後半になる予定です。ロレーヌはペルセポネの街に立つ建築物を見ると感激します。ゲートに向かって2人は歩きます。ゲートを出て空港を出るとすぐ近くにはバロック建築の家が沢山並んでいます。空港からは送迎バスが出ていますが、今回はそのバスには乗らないのです。
「街全体がバロック建築の遺跡みたいな街。ペルセポネって素敵な街なのね、それで今回はこの街のどこへ行くの?ジャン。」
「ああ、実は今回は1人の彫刻家に会う予定なのだよ。彼はこの街で多いを振るう有名な彫刻家、ロナルド・マーギュストだ。ロレーヌ、ペルセポネの中心街に行こう。街の中心部には教会とモダスト・デウルスの彫像が立っている。エイルース、君の出番だ。」
ジェロームがエイルースを呼ぶスイッチを押します。するとエイルースと馬車が目の前に現れます。エイルースは帽子を脱ぐとお辞儀をします。エイルースは丁寧な口調でジェロームへと聞きました。
「ご主人様、本日はどこまで向かわれますか?」
「ペルセポネの中心街まで頼む。」
「かしこまりました。それではお乗りください。」
ジェロームとロレーヌは馬車に乗ると馬車の扉が閉まり馬車は出発します。馬車からはバロック建築が数多く見えて来るのでした。辺りはお店が立ち並んでいます。お店にはお菓子が、数多く並んでいるのが見えます。お菓子屋ではチョコレートが売っているのが目に見えて来ました。お菓子屋の名前はルマンエスクです。ジェロームはエイルースに言います。
「エイルース、止まってくれないか?あのルマンエスクというお店でチョコレートを買いたいのだ。旅をするとな不思議と糖分が欲しくなるのだよ。」
「あら良いと思うわ。私もルマンエスクに寄らせてください。ここのビターチョコは昔からの銘菓なのよね。」
馬車からジェロームとロレーヌは降りるとルマンエスクの店内へと入っていきます。お店はチョコレートに限らずケーキも売っています。ロレーヌは思わずケーキが欲しくなってしまいます。すると店員の女性がロレーヌに言います。
「是非こちらのラズベリーケーキも召し上がって下さい。当店自慢のケーキですよ。試食もなさってください。」
「わかりました。ありがとうございます。いただきます。」
店員の誘いを聞くとロレーヌはラズベリーケーキを一個試食します。その瞬間に口の中に広がるケーキの甘味はなんて魅力的なのでしょう。ケーキのスポンジとラズベリーの甘味画ほんのりと混ざっています。
ジェロームはホワイトチョコを買おうと考えています。チョコレートの中で一番ホワイトチョコが好きなのです。ジェロームは24個入りのホワイトチョコが入った箱を取ると、レジへと向かいます。ロレーヌはビターチョコを買う事にしました。ビターチョコの色は濃い茶色でありほんのりと苦いのが良いのです。ロレーヌも遅れてレジへと向かいます。レジには若いカンガルーの店員がいました。カンガルーの店員はジェロームの方を向くと背筋を凍らせました。マナティの男とアシカの女性が一緒に歩いていたからです。しかしその気持ちを押し殺しながら、ジェロームに聞きます。
「いらっしゃいませ、袋はお付け致しますか?」
「いえ、結構。お兄さん、もしかして俺が怖く見えるのかい?誤解しないで欲しいな。俺はそんな怖い人間じゃないぜ。」
お会計を済ませるとジェロームとロレーヌはお店を出ます。そして馬車へ乗ると再び出発しました。
バロック建築の動的な様式や空間的抑揚は象徴とも言えるもの。馬車に乗って20分ほど経つとおや見えて来ました。街の中心部にある野獣的でうねるような局面を宿した何かの彫像です。エイルースが言います。
「さあ到着しました。ペルセポネの中心街です。」
「ありがとう。」
ジェロームとロレーヌは馬車を降りると目の前に立っていたのはモダスト・デルウスの虎の彫像です。腰には剣を宿しており、虎の顔は激しく牙を出しているのです。ジェロームは彫像に近づくと言います。
「これは凄い、石を素材にしたカービングでありながら元々はサンピエトロ大聖堂に飾られていた彫像なんだ。この彫像を作ったモダスト・デルウスは彫像だけでなくフレスコ画や礼拝堂の天井画なども作った天才だ。それも大聖具室に実際に飾られていたんだからな。この大理石はどこから採石されたか知っているかい?」
「知らないわ。」
「カッラーラの採石場さ。トスカーナ最大の採石場とされておりその大理石からはあの有名なダビデ像も生み出した。当時はその大理石も相当な価値のあるものだったんだ。さてと、それでは本日のメインとなるサンピエトロ大聖堂に行こう。エイルース、連れて行ってくれ。」
ジェロームはエイルースに言います。するとエイルースは丁寧にお辞儀をして言います。
「かしこまりました。」
馬車の扉が開きます。ロレーヌはゆっくりと馬車に乗るとその後からジェロームが乗ります。その彫像を見ているとロレーヌの頭の中にある一つの映像が浮かびます。頭の中では必死に大理石で彫像を掘るモダスト・デルウスの姿が浮かびます。必死に完成に向けて苦悩を重ねているのです。必死に石を大理石に向かうその姿は芸術家の鑑として尊敬できる部分が多いです。
(きっと何かに執着してあれだけの作品を作ったのね。そうよね。彫刻家って本当に自分の生き様を作品に込めるわよね。デルウスは熊の彫刻家でありながら、虎の彫像を作ったのはきっと野獣のように己の持つ芸術観を重ねていたに違いないわ。)
教会の鐘が鳴る中で遂に、馬車はペルセポネにあるサンピエトロ大聖堂に到着しました。大聖堂の入り口には多くの観光客が訪れています。大聖堂の入り口の前で馬車の扉が開きます。馬車の中でジェロームはホワイトチョコを食べています。一向に降りる様子が見られません。その様子を見たロレーヌはイライラしたのかジェロームに言います。
「ジャン、もう着いたわよ。あなた、あれだけサンピエトロ大聖堂に行きたいって行っていたじゃない?ホワイトチョコは行ってから食べるわよ。」
「ロレーヌ、そんなに怒る事はないじゃないか。芸術家にはチョコレートのご褒美が必須なのさ。」
そう言うとジェロームは馬車から降ります。そして目の前に広がる大聖堂の入り口を見てその荘厳さに思わず息を飲みました。サンピエトロ大聖堂に入るには高額な料金がかかります。しかし彼はそんな事など一切気にする様子はなく大聖堂の入り口に着きます。その入り口には券売機が置かれています。値段を見て見るとなんと270ユーロです。しかし値段など気にする事なくチケットを購入します。チケットを持つとバロック建築の象徴であるサンピエトロ大聖堂に入ります。その巨大な建物の入り口に入った瞬間に周辺には教会は中央に巨大なドームが掛かりあまりにも巨大で荘厳な空間の中に幾つもの彫像が飾られていているのです。
「これが本当にバロック建築の象徴なのね。ここでミサや礼拝を行っているのね。」
右側を歩いていくとその部屋の中にはピエタ礼拝堂が姿を現します。正式な名前はクロチフィッソ礼拝堂というのです。その中にはいよいよ見えてきました。それがデルウスが彫った有名な犬鷲のピエタ像です。そのピエタ像を眺めると大理石から流れ出る美しい光沢がジェロームとロレーヌの眼を包みます。美しいシャンデリアから漏れる暗い電気がピエタ像を包むのです。美しい聖母の膝の上には死んで十字架から下ろされたイエス・キリストが横たわっているのです。その姿を見たジェロームは言います。
「イエスが亡くなってもその亡骸をこうやって愛して抱き抱える聖母の姿は本当に美しい。これぞ母親の愛なのだろう。」
ピエタ像を見学して中央ドームの上を見るとなんとそこにはデルウスの傑作モザイク画が飾られているのです。モザイク画は圧巻ですが、ジェロームは目を光らせて聖遺物の方へ走っていきました。そこには四つの聖遺物があったのです。
「大鷹の聖ロンギヌス」「扇鷲の聖アンドレア」「孔雀の聖女ヴェロニカ」「蛇の聖女ヘレナ」です。「聖ロンギヌス」はキリストの脇腹を刺したと言われている聖。その巨像の持つ圧倒さにジェロームは感心しました。その時背後から低い声がします。
「素晴らしい彫像だろう。4体はそれぞれ違う彫刻家が作った。私は大理石で作られた4つの彫像の中でも、特に聖アンドレアを気に入っている。久しぶりだな、ジャン。」
振り向くとシルクハットに黒いスーツを纏ったシャム猫の男がジェロームに話しかけて来たのです。ロレーヌはジェロームの近くに寄っていたのでシャム猫の男の方を見て答えました。
「誰この人?」
「マーギュスト!まさかここの大聖堂に来ていたのか?ロレーヌ、私の友人のロナルド・マーギュストだ。彼はこの街で工房を開いている彫刻家だよ。私の兄であるラグターンと同じ大学に通っていたのだよ。」
「あら、ジェロームから聴いています。初めまして、ロレーヌ・ベルリーニと申します。」
ロレーヌは丁寧にお辞儀をします。するとそのお辞儀に合わせてマーギュストもお辞儀を返します。自己紹介をします。彼の話し方はどこか孤独を感じるのでした。
「私はロナルド・マーギュストです。そうかもしかしてジェロームの奥様ですか?ジェロームは独身と聞いていたので驚きだ。」
「いえ、そういう関係ではございません。私の旅仲間です。不思議なものですよ。同じ趣味があるとこんなにも素敵な美術館巡礼が出来る上に彫刻家のお知り合いにも会う事が出来るのですから。それで私も見て見たいのです。その彫像を是非。」
するとマーギュストは指をパチンとして誘うようにロレーヌに言います。自分に自信があるように自信を持つ言い方だったのです。
「では、私の工房に是非おいで下さい。」




