不思議な夢
部屋は白い壁紙で彩られた壁ですが、壁の中身は大理石で作られています。ベッドは2つ置かれており中央には電球が置いてあります。ロレーヌは窓に向かって走っていくと目の前にはトスカーナ運河が見えます。水色の綺麗な大空の景色を見ながらロレーヌは言います。
「素敵な景色だわ。ねえ、ジャン、あなたはいつもこのような景色が素晴らしい場所を選んでいるの?だからこそあなたの描く絵の景色ってあんなに素晴らしいの?」
「そう言ってくれる人には中々会えなかった。私の絵には常に風景があるんだ。それは動物達が歩く街も誰もいない大草原もその全てが風景なんだ。それに、あの美しい街や運河も全てが風景の中の1ページなんだよ。神はきっとこの美しい地球に自然という1ページを残してくれた。そろそろ聞こえるだろう。それにまたやってくるよ。レッドツェッペリンの影がね。」
ジェロームが空を見渡すと上空から真っ赤な飛行船が飛んできます。レッドツェッペリン54号です。飛行船は水面のスレスレを横切って行きます。飛行船の窓からは何人もの客が外の景色を眺めています。飛行船の警笛の合図が鳴ると飛行船はトスカーナ大橋の上を飛んで行くのでした。するとジェロームはキャンバス(画布)を張りその風景を描き始めました。大空と遺跡のような街、そしてトスカーナ運河を飛ぶ赤い飛行船を絵に描き起こしていくのでした。
「良いわね、この景色もあなたの思い出の一部として、絵に残る事になるのね。」
時間が経ち、夕食とお風呂を終え就寝に着く時間になりました。ジェロームは静かに眠りにつきます。ふと辺りを見渡すとそこには見た事のない生き物が歩いています。周囲には絵画が沢山飾られているのでした。絵画はデルヴィアのそして鏡に映った自分を見るとその姿はマナティではなくクマの姿をしておりジェロームの姿はデルヴィアの姿に変わっていました。壁に飾られていたのは、『東方の三博士の礼拝』『聖母子と2人の天使』『聖家族』の3枚の絵画です。デルヴィアの姿へと変わったジェロームは困惑します。
(私の姿は一体どうなっている?何故デルヴィアの姿に。)
突然辺りが真っ暗になると『受胎告知』に描かれた大天使ガブリエルがジェロームの方を見つめるのでした。ガブリエルは絵画から姿を現すとゆったりとした口調でジェロームの方へ近寄ると喋り始めます。
「私は大天使の絵画から生まれた存在です。様々な命のいく末を見てきました。この世界では今のあなたの心理状態が投影されているのです。あなたはデルヴィアという画家に投影しすぎてしまったのです。」
「ひぃ、絵の中の天使が動いただと?お前はガブリエルなのか?もしお前が神なる存在なら何故俺をこの姿にした?
「あなたは望むならどんな姿へと変化できる。さあ見るが良い、生に執着した画家が絵画に込めた情熱をこの目に焼き付けるが良い。」
ガブリエルがそう言うと突然場面が変化していきます。ジェロームの姿がマナティの姿へと戻るとそこはアトリエでしょうか。茶色に塗られた木製の壁に幾つもの絵画が飾られています。
ジェロームの前に今度は油絵を描く若き画家の姿がありました。その画家はクジャクの姿をした若き天才画家であるデルヴィアだったのです。その前にいるのは、デルヴィアの前でモデルを務める若くて美しいクジャクの少女であるマルガリーナ・ヴォルフではありませんか。デルヴィアとマルガリーナは何かを喋っているのです。しかし音は殆ど聞こえず、マルガリーナはデルヴィアに近づくとキスをするのでした。
マルガリーナの赤く美しい羽をデルヴィアは赤い油絵の具でゆっくりと描いていきます。どうやらデルヴィアはマルガリーナではなくヴェナウの顔を描いているのです。そして絵画はヴェナウの誕生へと変わっていきました。
「史実に基づく事が本当であったのか?本当にヴェナウのモデルはマルガリーナだったのだな。だけど、あの悪夢の夢に比較して何故この夢はここまで美しい。」
するとガブリエルが現れます。ガブリエルの姿は聖母マリアへと変身していくとガブリエルは言います。ガブリエルの口調はどこか説教くさく聞こえてきます。聖母マリアに扮したガブリエルの力により一斉に周りが大海原へと変化していきます。そしてジェロームはその大海原へと落下していくと激しい海水がジェロームの方を襲います。
「ジェローム、あなたに生きなさいという事を教えなければいけないからです。この作品は生の象徴です。ヴェナウは生の女神。先程見た夢のような死という恐ろしい世界はあってはならない世界なのです。呪いは全てを奪います。あなたの心の中にはその呪いを浄化する作用がある。」
「そうだ。私は死にたくはない。私は生きたいのだ。もっと多くの絵や風景を見てその風景を自分の絵画に描き起こしたい。ガブリエル、お前は一体何を伝えたいのだ。もうやめてくれ。私の中にあるあの悪夢のような光景を私に見せないでくれ。」
すると今度は再び真っ暗な場面へと変わると今度は燃え盛る幼稚園が写っています。そして、その幼稚園には1匹の白うさぎが倒れていました。うさぎだけではなくその隣には犬の姿があったのです。だが彼らは既に焼けてしまっていたのです。その風景を見たジェロームはガブリエルに問います。
「あの子達は一体誰だ?それに何故ここで亡くなっている?
焼けてしまったのか?酷い、あまりだ。まるで戦場だ。」
「彼らは死の呪いに取り憑かれてしまった余り多くの犠牲を出してしまった。あの白うさぎの名はミミィ、犬の名前はケンタ。他の世界も見せてあげましょう。」
すると今度はまた風景が変わると今度は同じように燃え盛る幼稚園に三毛猫の少年と黄色いマルチーズの少女の焼死体が横たわっていたのです。その隣にはうさぎの少女の焼死体が2体あったのです。ジェロームは言葉を失います。
「お前はこの運命を知っていたのか?こんな残酷な運命を知りながらこの子達に何も救ってあげなかったのか?お前はただの傍観者だったのか?答えろ!」
「こういう残酷な運命にならぬようあなたは対照的な運命を送らなければなりません。あなたは、ロレーナを守ってあげてください。強い優しさと讃歌があればあなたの運命はきっと幸福に導かれるでしょう。ジャン・レオ・ジェローム!」
「待て何故私の名前を知っている!お前の正体は何者だ?」
「私はジュラーセ、命を導くものです!」
聖母マリアの姿はどんどん巨大な鳥へと姿が変わっていきます。そしてその鳥は遥か遠くへと飛び立っていくのでした。
ジュラーセの声が響くと夢の世界はふっと消えていき、ジェロームは目を覚ましました。ジェロームは荒い息を立てました。ジェロームは静かに立ち上がりトイレに向かいます。
トイレ内でジェロームは心の中で考えます。夢の世界の事を考えます。
(あのジュラーセとかいう鳥は私に生きろと伝えたかったのか?不思議な夢を見たものだ。私は、ずっと考えていた。彼女を絶対に守らなければならない。その使命を忘れてはならないのだ。)
ジェロームの横には、静かに眠るロレーナの姿があります。ジェロームは静かにベッドを降りると窓に向かって歩き始めます。トスカーナの街を流れる運河を見つめると運河の中をゴンドラがゆっくりと漕いでいく様子が見えるのでした。ジェロームはキャンバス(画布)を出すと油絵の具を取り出してトスカーナの運河を描いていきます。筆を止める事なく夜の運河と綺麗な星空を無心になりながら描いていくのでした。筆を止めると
気がつけば朝になっています。鳥の声が響き渡るとジェロームはゆっくりと開眼します。隣を見るとそこにはロレーナが寝ています。ロレーナはゆっくりと目を開けます。ロレーナは静かに喋り始めました。
「おはよう、ジャン。夜中何か窓で絵を描いていたわよね。何の絵を描いていたの?」
「おはよう、ロレーナ、トスカーナの運河と美しい夜景だよ。怖い夢を見てしまってね、おかしな夢であった。
夢から逃れる為に、筆を握ったのさ。画家というのは、怖い現実から目を逸らしたくなってしまうものだから。」
「そんなに怖い夢を見たの。夢って不思議よね。全然知らない世界にいるみたいだし。ねえ、明日はトスカーナの運河に浮かぶゴンドラに乗って行かない?私は運河から見る景色が好きなのよ。」
「ロレーナ、君が好きなようにしよう。俺も好きなんだよ。あの運河から見る景色は素晴らしいものさ。」
朝食を終えチェックアウトを済ませるとジェロームとロレーヌは運河の目の前にあるゴンドラ乗り場へとやって来ました。数隻もの小舟がゆっくりとジェロームの方へとやってきます。小舟の船頭はアザラシの船頭のようで舟歌を口ずさんでいます。そして桟橋へとやってくると船頭は帽子を取り挨拶をしました。
「トスカーナのゴンドラへとようこそ。何名様でお乗りになられますか?」
「2名で、それから船頭さん、良かったら、舟歌を歌ってくれないかい?これらのクルーズにはムードが大事なんだ。」
「かしこまりました」
ジェロームは船頭に頼みます。そしてジェロームとロレーヌが船へと乗ると船頭はゴンドラをゆっくりと漕ぎ始めます。ゴンドラが進むと川辺の街が続々と近くに見えてきます。街の人々はゴンドラをじっくりと見つめています。ジェロームとロレーヌはゴンドラの上で静かにキスをしました。そして、船頭は舟歌を口ずさみ始めたのです。




