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注目型 こっち見てや

深緑。

花は一度、終わってるはずやのに、

街はまだ、どこかで咲いてる。


百花繚乱、って言葉が浮かぶ。


でもそれ、今の季節にはちょっと早い。

まだ、見つかってへん。

木屋町の通り。

ガラスに映る自分を、歩きながら直す。

光はやわらかい。

影は深い。


このぐらいがちょうど。

派手すぎんと、でも埋もれへんし。

「……悪くないやん」

口には出さん。


でも分かる。今のうち、ちゃんと見える位置におる。

カウンターの奥。

イェーガーマイスターが一本、やたらええ顔してる。


ライト、よう当たってる。

「売りたいんやな」

目、合うた気がする。

「しゃあないやん」

肩すくめる。

「飲むしかないやん」

グラスが来る。


濁り色が、ちゃんと光を吸う。

ええね。

一口。


強い。

喉の奥で、熱が広がる。

「……ええな、これ」

少しだけ表情を作る。

誰かが見てる前提で。

視線を流す。

一瞬、目が合う。すぐ外れる。


それぐらいが、いちばん。

「……つかみはオッケーやな」

小さくつぶやく。


スマホを見る。

通知は、ない。

分かってる。

それでも、閉じへん。

「……今やなくてもかね」

もう一口。

アルコールで、輪郭が少しぼやける。

見られる自分と、ほんまの自分の境目が、ゆるむ。


それも、悪くない。

カウンターに肘つく。

少しだけ前に出る。

光を拾う位置。

この位置、昔から分かる。

どこに立てば、ちゃんと見えるか。

どの角度が、いちばん“選ばれそうに見えるか”。

誰も教えてくれてへんのに、

いつの間にか覚えてた。

「……まあ、ええか」

小さく息を吐く。

ほんまは、一人でええのよ。


一人でええのに、

その一人が決まらへんから、

こうやって、ばらまく。

視線も、仕草も、全部。

百花繚乱。

でも——

「まだ、見つかってへんだけや」

自分のことやと、分かってる。

グラスを置く。

「……なあ」

小さく、口の中でだけ言う。


「こっち見てや」

心の地獄から絞り出した言葉遊び。


誰にも届かん声。

せやけど、ちょうど。

見られてる間は、消えへんから。

もう一度だけ、ガラスを見る。

少しだけ角度を直す。

誰も見てへんのに。


「……しゃあないやん」

笑う。

その笑いは、ちゃんとしている。

いややなあ。

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