法則型 未定義動作
四月の終わり。
曇り。
この時期は、晴れているよりも曇っている方がいい。
行きも帰りも、上着が機能するから。
二条駅で降りる。
改札から地上まで一分三十秒前後。今日は一分三十四秒。
許容範囲。
コメダ珈琲店に入る。
ドアの開閉で空気が一度だけ揺れる。
音と温度の変化を、同じ順番で受け取る。
窓際の二人席。
曇りの日は光が拡散する。
ノートの罫線が歪まない位置。
ブレンドを頼む。
ここのコーヒーは味のばらつきが小さい。温度も味も、毎回ほぼ同じ範囲に収まる。
カップが置かれる。
湯気の立ち方を一秒だけ見る。
問題ない。
ノートを開く。
日付、天候、気温。
それから昨日のログ。
——起床、六時十分。
——通勤、二十一分。
——会話、三件。要約済み。
ペン先を紙に置く。
インクの出方を確認して、短い線を引く。
「……よし」
ここまでは、毎日同じ手順。
ページをめくる。
指が、わずかに止まる。
他の記録は三行で終わっている。
要点だけ。
再現できる程度に。
でも、その人のところだけ違う。
ページが分かれている。
時刻が細かい。
会話の断片まで残っている。
「……情報量が多い」
小さくつぶやく。
仮説を立てる。
「接触時間が長かったから——いや、違う」
「重要度が高いから、記録密度が上がっている……?」
ペン先が紙に触れたまま、止まる。
「重要……?」
その言葉だけ、少し浮く。
もう一度、ページを見返す。
彼が笑ったタイミング。
紅茶をこぼしたこと。
本来は削除しているはずの細部。
「……不要なデータが多い」
削除、という単語が頭をよぎる。
でも、指が動かない。
「……これは、ノイズ?」
違う、とすぐに分かる。
ノイズなら、とっくに消している。
ノートを一度閉じる。
開く。
同じページ。
視線が、そこに戻る。
「……例外?」
口に出した瞬間、それが例外ではない気がした。
もっと単純な、別の名前がある。
けれど、その感情をまだ知らない。
「……まさか、私」
声にすると、輪郭がわずかに現れる。
胸の奥で、何かがずれる。
曇りの朝は変わらないはずなのに、
ページだけが安定しない。
ページの端に、小さく書き足す。
——未定義
ペンを置く。
その単語だけが、やけに残る。




