別れのワイン
40過ぎて、私は順調だ。
役職もついたし、部下の信頼もあるし、社外での顔も立つ。
面倒なセクハラやパワハラからも、いつの間にか遠い存在になった。
ストレスは、ない。
その代わり、何かが足りない。
金曜の夜、同僚と軽く飲み、二軒目、三軒目とハシゴして、気づけば朝。
何も問題ない。
月曜にはまた、ちゃんと仕事をこなすのだから。
でも、毎週のように朝まで騒ぎ、土曜は昼までベッドで寝ている。
起きると、体の芯がぬるい。
胃の奥が、何かに火をつけられたみたいに熱い。
ここでやめておけばいいのに。
そう思いながら、冷蔵庫の白ワインを開ける。
グラス一杯、恐る恐る飲む。
胃が、ぎゅっと痙攣する。
吐く。
また飲む。
また吐く。
煮詰められたみたいに黄色い胃液を吐き出すと、冷や汗が止まらない。
でも、私はそれを止めない。
無理やりにでも飲み続けていると、空っぽになった胃が、ようやく酒を受け入れ始める。
やさしい、熱が広がる。
指先まで、じんわりと、やわらかくなる。
シャワーを浴びる。
髪をまとめ、リップを塗り、ジャケットを選ぶ。
街へ出る準備をしながら、鏡に映る自分の顔を見て、心の奥で思う。
ああ、酒飲み女の人生って、愚かだ。
危うい。
悲しい。
なのに、たまらなく幸せだ。
グラスを揺らしながら、今夜も街のざわめきに混ざっていく。
酔いが回れば、全部が自分の選んだ道に見える。
たやすく、危うく、悲しく、
でも――たまらなく。




