プロテストオブサウンド
河原町通を南へ。
感傷の列が風にゆらぎ、太鼓の音がアスファルトを震わせている。
その中心で、私は声を張り上げていた。
汗と喉の痛みが混じる。けれど、それでいい。
この街の石畳に、いま確かに私たちの音が刻まれている。
「解放を!」
マイクを握る仲間の声が夜空に弾ける。
紙のプラカードが軋む音、
ドラムのリズム、拍手の渦。
その一つひとつが、過去の沈黙を塗り替えていく。
冷たい風が頬を打つ。
沿道の人々がスマートフォンを掲げ、
レンズの向こうでこちらを見つめている。
フラッシュが瞬き、データの光が夜空に散る。
私はそのすべてを受け止めながら、ただ声を重ねた。
──あの人は、今日も来ていない。
裏寺町の奥で、きっと静かに酒を飲んでいるのだろう。
彼女が選んだ“解放”の形を、私は知っている。
誰にも見せず、誰にも語らず、
ただ一人の愛を守るための沈黙。
けれど、それでも私は声を出す。
あの人の分まで。
この世界に沈黙が似合う人もいる。
けれど、私には声しかない。
私は、変われない側の人間だ。
太鼓の振動が、胸の奥の寂しさを押し流していく。
通り沿いのガラスに、私の姿が映る。
プラカードを掲げ、叫ぶ私の顔。
その表情を見て、ふと笑ってしまう。
泣いてるようにも見えるからだ。
叫ぶほどに、何かがこぼれていく。
右にドトールの灯りが遠くに滲む。
音が、風に千切れて消えていく。
街の喧噪の向こうに、
ふと──焼き魚の匂いが流れてきた。
知ってる。あの店だ。
あの人が、いつものカウンターに座っている。
髪を耳にかけて、盃を傾けている光景が、
まるで幻のように浮かぶ。
届くように、叫んでやる。
この声が、風を伝ってあの暖簾の奥に届くように。
この叫びが、彼女の静寂を震わせるほどに。
鼓膜の奥の、誰にも触れられない場所まで。
「あなたに届かなくても、
それでも私は、ここで叫ぶ。」
その瞬間、太鼓の音が一際大きく鳴った。
人々の歓声が波のように押し寄せ、
空気が震え、京都の夜全体が呼吸する。
私はその渦の中で目を閉じる。
音の奔流の奥に、私の沈黙が確かにあった。
解放とは、形の違う祈りだ。
誰かは沈黙を選び、誰かは声を選ぶ。
どちらも、同じ夜の片側で息をしている。
太鼓の余韻が遠ざかり、
プラカードをゆっくりと下ろした。
街の風が頬を撫で、
涙とも汗ともつかぬものが流れ落ちる。
今夜、京都の空を揺らした音は、
たしかに彼女の沈黙と、同じ時を刻んでいた。




