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扇塚下

五条大橋の下、こっち側は音が響かない。

靴音が湿った土に吸われて、

私のステップは、どこにも届かない。


それがちょうどいい。


ここなら誰にも見られない。

だけど川風と光だけは、見てくれる。


私は10年前まで、舞台に立っていた。

祇園のライブバー、時にはホテルのホール。

照明がまぶしくて、見下ろす客席の顔はいつも黒い影だった。

その闇に向かって踊るのが、

昔は好きだった。


でも、拍手と注文の音の区別がつかなくなって、

靴音がだんだん無力に感じてきた。

もっと深く沈める場所が欲しくなった。

もっと、聞こえない場所が。


最初にこの橋の下で踊ったのは、

たまたまだった。

酔っていた。

靴も履いてなかった。


でも、気づいたら、

ここにしか戻れなくなっていた。


土はやわらかく、冷たく、

それでも私の踏み下ろす音を受け止めてくれる。

誰にも「すごい」と言われない。

誰にも「まだやってるの?」と笑われない。

拍手も批評もない。


その代わり、川のにおいと、草のざわめきがある。

いつからか、私はフラメンコを踊っているふりをして、

自分を消そうとしていたんだと思う。


だけど、この橋の下でだけは、

私は私のままで立っていられる。


かかとが泥に沈む。

それでも、打つ。


もう誰にも届かない音を。

それでも打つ。

アオサギが笑う。


私はまだ、終わっていない。

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