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棄教

日曜日になると、

友達はサッカークラブに行ったり、

家でスマブラをしていた。


僕は…教会に行っていた。

信仰があったわけじゃない。

祈りの言葉も、賛美歌の意味も、

正直よく分からなかった。

それでも教会は好きだった。

年寄りも、眉毛の太いお姉さんも、

赤ちゃんも、知らない顔もいて、

ミサが終わると

みんながふわっと立ち上がり、

立ち話をして、笑っていた。

コーヒーとシナモンクッキーの匂いがして、

誰かが誰かの近況を聞いている。

僕はそこに立っているだけで、

なぜか「入っていい」気がした。

大人の世界に、

ほんのつま先だけ触れている感じ。

僕も、その一員になったようで、

世界の外ではなく、

内側にいる気がした。




ある日、歴史の授業で

天正遣欧使節を知った。

僕と変わらない年頃の子どもたちが、

船に乗り、海を渡り、

八年かけて

世界の中心に行ったという。

教皇に会った、と先生は言った。

黒板の文字を見ながら、

胸の奥が、じっと熱くなった。


悔しい。

正直、憎いぐらいに。

僕は日曜日に教会へ行って、

世界の一部になった気がしただけなのに、

彼らは

本当に世界の中心に立った。

どんな気持ちだったんだろう。


それから、

僕はいつの間にか教会に行かなくなった。

やめようと決めたわけじゃない。

神を疑ったわけでも、

否定したわけでもない。

ただ、

日曜日の朝に

別の行き先ができただけだ。


図書館に行った。

静かで、

誰も僕に話しかけない。

でも、拒まれている感じもしなかった。

地滑りの仕組み。

積乱雲の仕組み。

山が崩れる理由や、

空が荒れる条件が、

図と文章で説明されていた。

神様の機嫌じゃなく、

層と温度差と重力で

世界が語られる。

それが

少しだけ、安心だった。


母さんが作り置きしたサンドイッチを食べて、

友達の家に行った。

スマブラをやっている友達、

僕は後ろで観ていた。

勝っても負けても、

夕方になるだけの時間。

世界は狭くて、

でも、ちゃんと完結していた。

そのとき、ふと思った。


ああ、

こっちの世界も悪くないじゃん。

教会で感じていた

「世界に触れている」という

あの高揚は、

もうなかった。

でも代わりに、

分からないことを調べる時間と、

すぐ答えの出ない図と、

来週もたぶん続く日曜日があった。


教会が嫌いになったわけじゃない。

ただ、

迎え入れられる場所から

静かに離れて、

自分で歩く側に移った。


教会のホワッとした立ち話も、

世界の一部になった気がした感覚も、

あれは確かに本物だった。

でも、

世界は一つじゃなかった。

図書館も、

雲の図解も、

友達の家のテレビの前も、

ちゃんと世界だった。

だからこれは、

何かを棄てた話じゃない。

居場所が増えた話だ。

そう思うことにしている。

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