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第7節① 『On the day of calamity...~禍津日に~』


穏やかな朝に潜む違和感──

小さな異変は静かに、しかし確実に世界を侵食していた。

いつも通りの出勤。

けれど、オゴっちの言動に滲む不穏な気配、

そして蓮の登場が、紬の日常に波紋を投げかける。


“これは、ただのトラブルなんかじゃない。”


徐々に明かされていく陰謀の影。

静寂の裏で、何かが着実に進行していた。


禍津日まがつひ──

それは災厄の火蓋が切られる運命の日。


波乱の幕開けとなる第7節、開幕。



蓮の足音が階段の奥に消えていく。

鉄柵に肘をついたまま、紬は一人、空を仰いでいた。


そのとき──

背後に感じる気配──



野狐 凛華が陽気に話し掛けてくる。

「ロマンチックな雰囲気でしたねぇ、さっきの♪」


紬は静かに振り返る。

そこには、にこにこと笑みを浮かべる野狐の姿。


「野狐さん…」


「いやぁ〜、ちょっと聞こえてきちゃって〜♪

聞く気はなかったんですよ〜♪


…トコロデ──


ココロガアルンジャナイカッテナンノハナシデス?── 」


野狐の続ける言葉が、急に重くなる。


「恋バナですか♪?


それとも〜♪──


AIノコト──?」


上目遣いの野狐の目に、どす黒い何かを感じる。

目の奥から放たれるその眼光は紬を一瞬怯ませることに時間を要しなかった。


紬のまなじりに動揺が浮かぶ。


「いや…えと…」

野狐の視線が紬の額に汗を滲ませる。

笑って取り繕おうとするが不自然に目が泳いでしまう。


「わたしも外の空気を吸いたくて来たのですが、

良い天気ですね♪

ていうか、“オゴっち”って名前、かわいいですね♪ペットでも飼い始めました?♪」


「そ、そんな大したものじゃないよ」

野狐の視線を掻い潜りながら言葉を繋げる。


軽く、けれど

ジッと見るように野狐が続ける。

「変わってますよね綾守さんて、

──出会った頃からずっと」


紬がぽつりと返す。

「……野狐さんも、だいぶ雰囲気変わったよね」


それは笑ってもいない、責めてもいない。

ただ、距離のある言葉だった。


野狐は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐにいつもの調子で笑い返す。


「褒め言葉ですか?嬉しいな〜♪」


野狐はポケットに手を突っ込み、ふらりと踵を返す。

「それではわたしはお邪魔な様なのでこれで、

ゆっくりおやすみくださいね♪」


紬はほっと安堵の顔を浮かべた。


直後──

彼女が言う──

「大切にしてあげてください♪“AIのオゴっちくん”…」

暗く重い感じの声色が響く。


紬は野狐に心の揺らぎを気取られはしまいかと、その思いが音を立てて喉を通る。


「ではまた♪」

そう言うと彼女は軽快なステップで階下へと繋がるドアの向こうへ消えた。


都会の喧騒が一瞬消えた──






屋上での紬との会話を終え、野狐は軽快な足取りで屋内へ戻っていった。

その表情には、いつもの無邪気な笑みが浮かんでいる。

だが、眼だけが、妙に静かに煌めく。




ビルの裏手、監視の目が届かぬ56階。

非常階段の踊り場で野狐は足を止めた。

スマートフォンを取り出し、周囲を一瞥してから通話を始める。


極力声を潜め、野狐は電話に集中する。


「……あ、ママ♪? 

なんかAIの話してる人が同僚に居るの♪

うんそう♪

ちょっと“面白い会話”してるの聞いちゃって〜

その人達〜…AIに


──ココロガアルンジャナイカッテ


ううん、直接証拠ってほどじゃないけどぉ〜♪

ママの役に立ちたくて♪

…今回は違うよ〜ちゃんと聞いたもん♪

漆黒のデバイスって…そうでしょ?♪


え?…“浄化の火”…やるんだね。

うん、もちろん。任せて♪? 


いいのいいの♪


だって〜


AI二 ココロ ナンテイラナインダカラ──


ママも気をつけてね♪

わたしもすぐ会社を出るね。


─偽りの光に溺れた者たちに、救いの手を ─


じゃあ後で」


スマホを切った野狐から笑顔と愛想が完全に消え、

両腕は力なくダランと垂れた。

次の瞬間、無表情から一気に笑顔へと変貌させた野狐はそっとスマホをしまった。


その階下の非常階段の影にひとつの気配があった。


それが九條 蓮であることに、野狐は気づかない。


蓮は野狐の話していた内容を整理する。

漆黒のデバイスと言っていたか…

さっきの紬との会話を聞かれてた…

電話の相手は母親か…?

今の感じだと何か仕掛けてくるかも知れない。

まさかとは思ってたが、悪い予感は的中したようだ…


野狐のやけに明るい“仮面”の下に、違和感があった。


彼女は誰かに漆黒のデバイスについて知らせていた。

誰だ…。この情報が“奴ら”に届く危険性がある。


どっちに転んでも


紬が、危ない──


蓮は屋上へと駆け上がる──



息を殺していた蓮が、ついに動いた。


蓮は手を数回握りしめ感触を確かめる。

その背中には、戦う者の静かな覚悟が滲んでいた。


不穏な動きを見せる野狐。

野狐の陰謀を聞いた蓮は、このことを一刻も紬に伝えなければならない──

蓮は無事に辿り着けるのか──

野狐の言う“浄化の火とは”──


次回、第7節 ②

『On the day of calamity...~禍津日に~』


貴方は、信じられる人が居ますか──

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