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第7節② 『On the day of calamity... ~禍津日に~』



【紹介文】


警告はなかった。

金属音が空気を裂き、

世界は別の法則で動き出した。


轟音、爆発、火柱──

そして“彼ら”が現れた。


「その男だ。連れていく。」

その一言で、日常は終わった。


選ばれることは、ときに奪われること。

紬は、煙の中へ消えた──






54階オフィス──


オフィスの天井スピーカーから、突如──破裂するような金属音と、耳の奥を刺す高周波ノイズが放たれた。


「ギィイイイイ……イィィィィィ……ンンン……!」


人の声とも、機械音ともつかない、異様な音──


建物が

振動する──


社員たちが一斉に頭を抑えた──


「ッ……なんの音だ、これ……!?」

「頭が……割れる……ッ!」


脳に直接響くような異音──



「なんか様子がおかしい!……おい、これ……! 電源、切れッ!」

悲鳴が拡がる──




次の瞬間──


──ズゥゥゥン……


階下から、不穏なうねりのような音が上がってきた。

ほんの数秒の沈黙。空気が膨らんだ──


そして、轟音。


一瞬で床が跳ね上がり、壁が吹き飛んだ。

爆風に煽られた机と人影が、紙のように宙を舞う。


「ぐあああっ!!」

誰かの悲鳴が、白煙と血の匂いにかき消された。


火災報知器が悲鳴のように鳴り響く中、

天井のパネルが一枚ずつ、焼け落ちていく。






THALIEL Inc.、54階・中央会議室──


会議中だった大型ディスプレイの一つが、突如としてブラックアウト──その直後、デスクトップ端末の背面から鋭い“爆音”が鳴り響く。


ドンッッ!!


天井まで吹き上がる火柱──

衝撃波が椅子を跳ね飛ばす──


蛍光灯が明滅し、スプリンクラーが誤作動──

白煙が襲う──


「爆発した……!?」「火事だ!!!」


野狐が席を立ち上がり呟く。


「ねぇちょっと…早すぎない?

まだわたし、ビルの中なんだけど」


ドンッ!!


焦げた電子臭が一気に室内に広がる。

初期対応モジュールが作動したのか、スプリンクラーが一瞬反応しかけて止まる。


「さっきの音はなんだ!?」


「バックアップ電源も落ちたぞ…ハッキングか…!?」


「社内LAN、切断されてる!誰か非常ラインで連絡を……!」


「また爆発するぞ!」


「……え? ちょ、ちょっと待ってってば♪」


背筋に冷たいものが走る。火災発生は予定よりも早い。動揺しながらも、野狐はひとまずエレベーターを避けて非常階段へ向かう──


そして誰も気づかなかった——


混乱の5秒前、ここTHALIEL Inc.に“やつら”が侵入していることを。








THALIEL社・地下第2駐車場、南側シャッター裏──


“彼ら”は、ただの闇よりも静かに重力を忘れた亡霊のように、闇と壁の隙間を滑っていた。

黒のナノファイバースーツに身を包んだ4人の戦闘員。


鉄とコンクリートの境界を這うように進む。

無言。無灯。無音。


レーザーの補助もなく、暗視内蔵ゴーグル越しに周囲の熱源と磁界を読み取りながら、先頭が指を2本立てて前方を指す。


「ピア0。動体なし」


低く、耳元の骨伝導通信にだけ乗せて、確認の声が届く。


背後では、もう一人がハッキング用端末を壁面パネルに接続していた。

社内ネットワークの一部は、すでに“内部協力者”によって構成ファイルを書き換え済み。

彼らが操作するのは、もはや“裏口”ではない。“勝手口”だ。


「14階エレベータホール。熱源反応、ゼロ。目標位置固定。ブリーフィング通り」


隊長がアイコンタクトと手信号で“進行”を伝えると、即座に一人が静音グラップルを使い、垂直シャフトへと身体を滑り込ませた。


**“カッ”**というわずかな音とともに、磁着装備がエレベータレールに張り付く。


上昇開始。

スーツの駆動音は、外部には漏れない。全て筋肉連動式の動力アシストでノイズレス設計されている。


「ノイズスキャン、外部異常なし。上層へ移行」


その間に、残りの3人はシャッター裏に展開し、周囲のカメラを“録画ループ”で騙しながら警備動線を洗い直していく。


隊長は、静かに小型ライフルを構えた。銃口には、音も火花も残さない特殊サプレッサー。


万が一、接触があっても──


その者は、気を失うか、気づく前に終わるかのどちらかだ。


「上はパニックじゃ済まないだろう」


黒に映える赤の一閃──

部隊長の持つ銃口が怪しく煌めいた。

彼は首筋にある古傷を指でなぞった。









14階・社内メンテナンスルーム付近──



静けさに満ちた廊下。

蛍光灯がチッ、チッと明滅を繰り返す中、警備員が監視端末に目を落とした。


「……? 非常サブライン……? 断線……?」


警告音が鳴る直前。

天井裏で、わずかな“パシュッ”という空気圧の音が鳴った──


──ゴォンッ!!!


天井パネルが破裂し、床に設置された遮断装置が起動。

同時に、強烈な閃光と衝撃波が廊下を包んだ。


「っぐぅああッ……!!」


閃光とともに、制圧ガスが放出される。

警備員たちは目と耳をやられ、膝から崩れ落ちる。

一人が床に倒れた瞬間──


──ズンッ


重い足音と共に、影が立つ。

黒装束に赤いマーキング。無機質な戦術部隊が現れた。


「非殺傷、確認。進行、継続──」


合成音声の指示とともに、隊員たちは無言で散開し、

意識を失った警備員の通信機と端末を一つひとつ無力化していく。


誰一人として殺されてはいない。

だが、**このフロアは完全に“沈黙”させられた**。

一切の警告が届く前に──









10分前 屋上──


紬は野狐が去るのを確認した後、周囲を取り巻くビル群を見つめた。


もうそろそろ休憩は終了だと思いつつも、紬の気分は重く、意志に反して足は動きをみせてはくれない。


ふと顔を上げる──




あれ?




なんだろ…?

風が…止まった…?





妙な感覚に襲われる。


背筋を伝う得もしれぬ不安を感じた紬は、オフィスへと足を運ぼうとした。





その時──





地震の様な衝撃音と振動が足元を伝ってくる。


──揺れてる!!


揺れが多少収まったことを皮切りに、状況を把握するため54階のオフィスへ走り出した。

「何があったんだ…」







54階 オフィス前 廊下──




焦げた回路から漂う煙が、薄暗い空間をじわりと満たす。まだ混乱は収まらず、慌てて足早に逃げ出す者たちのざわめきが響く。


「これ、何!?なんで警報鳴らないの!」


「警備員をすぐ呼べ!!」


「まずは消防だろ!」


「落ち着け!とにかく避難しろ!」


声は交錯し、緊迫した空気が張りつめる中、会議室の外、廊下のセキュリティカメラ映像に突如“ノイズ”が走った。


監視モニターの画面が一瞬乱れ、そこに映るはずの廊下には人影が見えない。


だが——

記録されていない“存在”黒い影が4つ。









蓮は廊下の壁に設置された非常階段のサインを見つめる。

左右に二つ、ビルの両側に非常階段があることは知っていたが、今はどちらに紬が向かったのか分からない。


「紬……どこだ……!」


焦りに胸が締め付けられ、足音が速くなる。

蓮はイヤーピースを取り出し通信を開始する。


「ヤゴー!聞こえるか紬が危ない、居場所を特定してくれ。詳しいことはあとで話す」


彼は左側の階段に向かって駆け出した。









「……な、に……?」


エレベーターの扉が開いた瞬間、焼け焦げた鉄と煙の臭いが一気に流れ込んできた。

紬は反射的に口元を覆い、一歩、足を踏み出したところで――立ち尽くす。


そこは“オフィス”ではなかった。


壁は抉れ、天井の一部が崩落していた。

机は吹き飛ばされ、ガラス片が床一面に突き刺さるように散らばっている。

フロアの一角は爆風で吹き飛ばされ、外壁が裂け、空が覗いている。


「……爆発……?」


かすかに火災報知機の壊れたアラーム音が、途切れ途切れに鳴っている。

パソコンの筐体は黒焦げに歪み、書類が紙吹雪のように宙を舞っていた。


「誰かッ、こっち手伝ってくれ! 人が──!」


「火がッ、火がまだ──うわ、やめろ触るな、感電する!!」


「なにが起きてんだよこれ……え、襲撃? テロか!?」


誰かの叫び声が、煙とガラスの破片の中に消えていく──


床に倒れたまま動けず呻く者、机の下で震える者──


吹き飛ばされた机の下から、血に濡れた腕が覗いていた。


その混乱の渦をすり抜けるように、紬は足早に自分のデスクへ向かう。


自分の席。

椅子は粉砕され、ディスプレイは筐体ごとデスクから吹き飛んで壁に突き刺さっている。

焼けただれたキーボードの横には、見慣れたコーヒーカップの欠片が転がっていた。


血の気が引くのを感じた。


その時──


「ガタンッ!」


フロア奥。崩れた天井材の奥から、金属音。


……誰かがいる。


一瞬だけ、黒い影が通路の端を横切った。


作業服じゃない。スーツでもない。

軍用装備──?


デスク越しに、黒ずくめの人物たちが音もなく現れる。

全身を戦術装備で固め、顔はバラクラバで隠されている。


一人が、静かに手を挙げた。


「……動くな。」


緊迫した声。だが、訓練された者特有の静かさがあった。


「その男だ。連れていく。」


部隊の一人が紬の机を回り込み、正確な足運びで接近する。


「は……誰だお前ら!? やめ──ッ!」


紬が言いかけた瞬間、背後から鋭く腕を掴まれ、

肩と手首を封じられる。同時に、頬に拳が飛んだ。


「っ……!」


倒れはしないが、視界が歪む。

その隙に、口を塞がれ、両腕を後ろで拘束されていた。


「非殺傷、確認。連行を継続する。」


社員たちは茫然とその様子を見ていた。

誰も、声を上げることすらできない。


紬の姿が、煙の中へと消えていった。





coming soon…




【次回予告】


突如謎の部隊に連れ去られた紬。

紬は何処へ連れ去られるのか──

果たして蓮は、紬を助け出すことが出来るのか──



次回

『On the day of calamity... ~禍津日に~』③


貴方はその手を掴めますか──

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