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ヘヴンリー・ガーデン~天界の庭~  作者: 石田あやね
第4章【蘇りし追憶】
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Saelum 49

「はじめに、ふたりが最も知りたいのは僕のことですね」


 ヨンギはふたりを交互に見てから、ゆっくりと語り始めた。


「クレナさんの言っていることは半分当たっています」


「半分?」


「確かに、今あなた達と話しているのは“神”と呼ばれている僕です」


「どういう意味だ?」


 アランは未だに信じられずにいるのか、困惑の瞳を浮かべている。

 きっと、クレナ以上に戸惑っているに違いなかった。一緒に護衛隊(カンボーイ)をしてきた仲間がいきなり“神”だったなんて言われて、直ぐ納得できる筈がない。

 そんなアランの様子を見ながら、ヨンギはまた小さく微笑む。


「僕には実体がありません。正確に言えば、魂だけが存在し、肉体はないんです……だから、人間からは姿なきもので見ることはできません」


「なら、ヨンギの体を乗っ取ったってことか?」


「悪く言えば、そうなってしまいますね」


「なら、本当のヨンギさんは?」


「誤解なさらないでください。決して、彼から体を奪い取った訳ではありません」


 そっと、彼は自分の胸に手を押し当てた。


「僕は彼の中であなた達を見守っていたにすぎません。今は彼には眠ってもらっていますが……あなた達と旅をし、クレナさんに好意を抱いたのもヨンギ本人の意思です」


「なら、いつから()()……俺と会った時からか? それとも、クレナがここへ現れた時か?」


「いいえ、もっと前ですよ」


 その言葉を聞いたクレナは、前にヨンギと交わした会話であることに気が付いた。


「ヨンギさんが言ってました。物心ついた時に力が使えるようになったって」


「よく覚えてましたね。けど、それより前にいました。彼が生を受けた瞬間から僕は既にここにいたんです」


 あまりにも衝撃的すぎて、クレナとアランは同時に言葉を失ってしまう。その様子に、ヨンギはゆっくりとした口調へと戻した。


「僕は“神”として世界を築き、人間を生み出してきました。しかし、人間が増えていけばいくほど争い、傷付け合う出来事が多くなり……見守るだけと決めていたのですが、放って置けなくなったんです。だから天界の庭(ヘヴンリー・ガーデン)を創りました」


 足元に咲くスノードロップを一輪摘むと、それをいとおしそうに眺める。


「傷付き彷徨う死者と苦しみを背負う生者たちを癒し、新たなる希望の道筋となればいいと願いを込めて」


「スノードロップの花言葉って、確か“希望”でしたよね」


 クレナの声に反応するように、ヨンギは頷き微笑む。しかし、その笑顔はどこか悲しみを含んだように見えた。


「この花のもつ言葉のように、この世界も希望に満ち溢れたものになれればと考え付いたのですが……上手くはいきませんでした」


 するりと、ヨンギの手から擦り抜け落ちていくスノードロップをクレナはただ見つめる。


「天界でも悪い行いをする者たちが出始め、仕方なく護衛隊(カンボーイ)を各場所に待機させ、守護するようにしました。しかし、それでも人は争いを続ける……僕は分からなくなってしまったんです」


「それで、どうしたんですか?」


「僕には人間の心が分かりません。あまりにも複雑で、理解に苦しむ……だから一度、人間として生きてみようと考えたんです。愛や憎しみ、怒りといった感情を経験すれば、人間を理解できるのではないかと」


「それでヨンギに?」


 アランの問いに“はい”と答え、まだ胸に添えていた手をぎゅっと握り締める。


「彼に入ったのは偶然でした。彼の中を通し、悲しみ、苦しみ、嬉しさ、そして妹ソユンに対しての直向きな愛情……様々な感情を知ることが出来ました」


「なら、どうして? あなたが中にいたのに、何故ヨンギさんとソユンさんを助けることが出来なかったんですか?」


 力を使えていたら、ふたりは助かったかもしれない。そしたら、ヨンギが大きな後悔を背負うこともなかった。


「人の死は神であっても予測不可能な事です。ですが、ヨンギの想いを無視した訳では決してありません。あの時は僕もふたりを救いたかった」


「出来なかったんですか?」


「ええ、助けたくても出来なかった。僕の魂はヨンギの中にあり、確かに力を使える時もありました。しかし、人間の感情に直接触れてしまったことで、力が不安定な状態になっていたんです。感情とは本当に厄介なものですね」


 そう言えば、自分の力には浮き沈みがあり、使えない時もあったとヨンギが話していた。もしも、ヨンギ自身が力を受け入れていたとしたら、あの悲劇は起きなかったのだろうか。


 ――それとも、何も変わらないままだったんだろうか?


 そんなことを考えていると、黙ったままだったアランが直ぐ隣に来ていたことに気が付く。その表情は、いつもにも増して真剣だった。


「さっきお前が見せたクレナの記憶……あれが本当なら、ソユンは生き返ることが出来たのか?」


 そう、あの映像は漆黒の森(ニーグル)でノアに助け出されたところで終わってしまっていた。


「ええ、彼女は試練を乗り越え、戻っていきました。ヨンギに会えないままだったのが残念でしたが」


「ヨンギを妹に会わせなかったのか? 人の感情を知れたなら、会わせてやりたいと思わなかったのか?」


「アラン、僕は神であっても全てを救えるわけではありません。生と死に関しては手を加えてはいけない……それが道理。ひとりの人間を特別に扱うのはご法度なんですよ」


 ヨンギはクレナに目を向ける。


「それに僕たちは再び出逢う運命にあった。兄弟の絆の結び付きが強かったから……これは運命によって定められた必然的再会です」


 それはやはり、ソユンの生まれ変わりは自分だったことを再確認する。


「アランもまたクレナさんとは出逢う運命にあった。記憶にはなくとも、強い結び付きがふたりの間には存在していたんです」


 アランと目が合う。

 この出逢いが決められたものなら、自分たちの行き着く場所はどこなのだろうか。


 ――その答えは、やはり“神”ですら分からない未知なるものなのだろうか?

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