↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘヴンリー・ガーデン~天界の庭~  作者: 石田あやね
第3章【桎梏の瞳】
39/66

Saelum 39

 朝になり、アランとクレナは三途の川(テルミヌス)へと向かい歩き出していた。


「ヨンギさん、どの辺まで来てるだろう?」

「あの岩山が近道だったから、かなり回り道して来てるはずだ」

「一人で大丈夫かな?」

「あいつなら大丈夫さ。とにかく俺たちは先へ進むしかない」


 川沿いを辿りながら進んでいくと、広い草原が目の前に広がる。所々で花が咲き誇り、風が吹くたび宙を舞う花びらが、はらはらと散っていく。


「こんな綺麗な場所もあるんだ」


 クレナは辺りを見渡し終えてから、アランの方へ顔を向けた。


「三途の川(テルミヌス)ってどんな所なの?」

「いや、俺も行ったことがないからわからないけど……村の中間に大きな川が流れてて、そこにかかってる橋を渡ると、二度と戻ってこれなくなるってことしか知らないんだ」

「それ、ルカくんも言ってた。けど、その先に光の庭(ルックス・ホルトゥス)があるんだよね?」

「その話が本当かどうかは怪しいけど、これの手がかりも欲しいから行ってみるしかないな」


 アランの左手首に付けられたブレスレットを見て、思わずクレナははにかむ。昨夜はいろんなことがありすぎて、思い出すとつい頬が緩んでしまう。


「なにニヤニヤしてるんだよ。これからまた危険なとこに行くってのに余裕だな」

「そんな、ニヤニヤなんてしてないよ!」

「この先、また何があるかわからないから……ちゃんと俺の近くにいろよ」

「うん、大丈夫。絶対に離れないから」


 クレナがそう返すと、アランは満足そうな顔を浮かべる。初めて出会った頃の、仏頂面をしたアランの姿が懐かしく思えてきてしまった。さんざん睨まれて、本当に苦手だと思っていたあの日のことが嘘のようだ。


(この出逢いも必然だったりするんだろうか?)


 不意にヨンギの言葉が思い出される。


「神様は本当にいるのかな?」

「なんだよ、急に」

「だって、気にならない? なぜ、神様はこんな世界を作り出したのか。どうして、神隠しなんかするのか」

「まあな。けど、神がいるとしても俺たちの前に現れることはないだろ……簡単に現れたら、アグレアスはとっくに神に会ってただろうからな」


 確かに、アランの言う通りかもしれない。人々がどれだけ祈りを捧げ、神の言葉に耳を傾けても、返事なんて返っては来ないだろう。それでも絶対的存在である神をひたすら崇め続けるのは、必ずいると信じているからだ。


 見ることができない程の尊く偉大な存在。


 思い返すと、アグレアスが神殺しをしようとしていたことが今更ながら、なんて無茶なことだったのかと思えた。


 ――神が出てくる核心的なものでもあったのだろうか?


 やはり、魔女の血筋を受け継いだからこそ分かる何かがあったのだろう。

 今になっては、それを確かめることはできない。


「また森だな……」


 その呟きに、クレナは初めて自分の目の前に広がる森に気がついた。

 漆黒の森(ニーグル)の森のような不気味さはないが、何かが潜んでいそうで不安になってしまう。


「悪しき人(マーム)みたいな人たちとかいるかな?」


「わからないから……ほらっ」


 アランの左手が目の前に差し出される。


「手、繋いでた方が安心だから」

「う、うん」


 なんの前触れもなく握られるのも緊張するが、こうやって言われる方がすごく照れ臭く感じた。とりあえず指示通りにアランの手に自分の手を重ねる。


「森に入るか」


 力強く握り締めながら、アランとクレナは森へと足を踏み入れた。


「静かだね……」


 太陽の光が所々から差し込んでいるため、怖いという雰囲気は一切感じられない。


「気配とかはどう?」

「いや、全く感じないな」


 なら安心かと思い、安堵感に胸を撫で下ろしていると、突如背後に人の気配を感じた。


「誰だっ!」


 いち早く振り向いたアランはクレナを背中へと隠し、目の前に立つ人物に警戒の姿勢をとる。


「悪しき人(マーム)ではございません。ご安心ください」


 そこに立つ人物は無表情のまま、真っすぐこちらを見据えていた。


「あれ? あの人って確か……」


 黒いスーツを着こなす、容姿端麗な女性。身に覚えがあった。

 クレナは記憶を辿り、その人物の正体を口にする。


「天使さんっ」


 はじまりの地(イニティウム・テッラ)を離れる際に、自分たちを見送ってくれた天使の一人だった。


「天使の登場ってことは、これの回収か?」


 アランは左手を差し出し、天使に向ける。

 見せたのは指輪だ。

 それが意味するものをクレナはすぐに察した。


「護衛隊(カンボーイ)を任された上の規則(ルール)のもと、この先へ進むなら返していただきます。それが嫌ならただちに持ち場へ戻りなさい」


 初めて会った時とは印象が少し違う。

 どこか威圧的に感じる。


(そういえば、ルカが天使は偉そうだから嫌だって言ってたっけ……)


「神のもと、護衛を任されたあ(・)な(・)た(・)方(・)は規則(ルール)違反を犯しています。ここから先へ進むのであれば、見逃すわけにはいきません」


 天使は右手を差し出し、アランに厳しい目を向けた。


「早く決めなさい。護衛隊(カンボーイ)を続けるの? それとも、その女のために外すの?」


「アラン……」


 外せば、もう護衛隊(カンボーイ)ではなくなってしまう。もしも、アランが生者側ではなく死者側だったとしたら、自分の居場所を失うことが確定してしまう。それを覚悟で来てくれたのは知っているが、現実を前にするとクレナは複雑な気持ちになった。


「答えは決まってる」


 アランは躊躇うことなく指輪を抜き取り、天使に向けて投げ捨てた。天使は焦ることなく指輪を拾い上げ、少し不機嫌そうに眉を顰める。


「なら行け」


 その一言を言い残すと、天使は瞬きする一瞬の間に姿を消してしまった。


「大丈夫なの?」

「新しい護衛隊(カンボーイ)を見つけなきゃいけないから、機嫌が悪いんだろ」

「そうじゃなくて、アランが」

「いいんだ。俺はお前と帰れるって信じることにしたんだから」


 アランは笑顔で振り向き告げる。


「クレナのいない世界に居続けるより、地獄(イーンフェロス)へ行った方がよっぽどマシだ」

「それ、冗談に聞こえないっ」

「これは冗談じゃ……なんだ?」


 話の途中でアランが異変に気付く。

 いつの間にか、明るかった森の中は白い霧に包まれ、視界が徐々に遮られようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。