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ヘヴンリー・ガーデン~天界の庭~  作者: 石田あやね
第3章【桎梏の瞳】
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Saelum 38

 一通り話し終え、クレナは一度深呼吸してからアランを見上げる。


「これがわたしの後悔……親友を守れず、傷付けた。最低でしょ?」

「お前のせいじゃないだろ」


 アランの言葉を否定するように、クレナは首を振った。


「ううん……夏紀の異変に本当は気づいてたのに、わたしは見てみぬふりをして、何もしなかった。あんな風になったのは、わたしのせいなんだよ」


 同じ場面が夢の中で幾度も繰り返されるたびに、あの日感じた罪悪感がリアルに蘇ってくる。そして、最後に必ず聞こえてくるのは決まってあの台詞だ。


 “あなたのせいだから”


 時に台詞が若干違ったり、自分自身が言ってきたり様々だが、この一言は重くクレナの心を蝕んだ。


「夏紀は両腕の骨に罅(ひび)が入って、バスケの試合に出れなくなった……それから学校にも来なくなった」

「会いには?」

「行けなかった……何度も何度も、謝りに行こうとしたけど、きっと夏紀はわたしを恨んでると思うと……どうしても行けなかった」


 気づくと、さっきまで握っていた筈のアランの手が背中に回され、そっと抱き寄せられていた。そのさり気ない優しさに身を委ねる。


「夏紀とはそれが最後だった。何も話せないまま別の学校へ転校しちゃって……それから、会ってないの」

「居場所は?」


 クレナは静かに首を振った。

 夏紀の居場所は何も知らされていない。

 ただ、唯一会える可能性がクレナには残っていた。


「居場所はわからないけど、会えるチャンスが一度だけあるの。わたしがこの世界へ来る前に、同窓会の知らせが来てたんだ……もしかしたら、そこに夏紀が来るかもしれない」

「もしも……ここから生きて戻れるとしたら、会いに行くんだろ?」

「うん、まだ怖いのが正直な気持ちだけどね。それでも、夏紀に会って謝らなきゃいけないって思えた……どんなに憎まれてても良い。それでも逃げずに伝えたいの」


 涙で歪む星空を見つめながら、記憶の中の笑顔する夏紀を想う。


「あの時は気付いてあげられなくて、わたしが腑甲斐無くて守れなくて、ごめんって……あと、わたしを親友と言ってくれてありがとうって」


 うまく伝えられるかわからない。

 もしかしたら、伝える前に拒絶されるかもしれない。


 それでも、夏紀に僅かでも会えるチャンスを逃しちゃいけないと思えた。


「必ず、わたしは生きて会いに行きたい」

「きっと会える……お前ならちゃんと伝えられる」


 再びアランの胸に頭を預け、規則正しい心音に耳を傾ける。過去を思い返した直後に、こんなにも心穏やかでいられるのは初めてだ。


「わたし、間違ってた。夏紀のことがあって、もう二度と他の人を傷付けたくないって思って人と距離をおいてきたけど……それじゃ駄目なんだよね。こうして、誰かが側に居るって凄く心強いんだ」

「それは俺も同じだ」


 腕に力が込められる。


「お前と会うまでは、俺は自分が嫌で人を遠ざけてきた。けど、お前と出逢って変化していったんだ」

「アラン?」

「どんな過酷なことも受け入れて、立ち向かうお前を見てたら、自分の情けなさを思い知らされた。強くて直向きなのに、どこか危なっかしい、そんなお前だから守りたいって本気で思えた」


 アランの声が少しだけ震えていた。その変化に気づいたが、アランにきつく抱き締められ、表情がわからない。


「クレナ……」

「なに?」

「必ずまた会おう。どんなに困難なことだったとしても、俺はお前を探し出してみせる」

「うん」


 やっと、相手の顔が見られる距離まで体が離された。アランの目尻にうっすら見える涙に、クレナは切なさでいっぱいになった。


「わたしも探すから」


 それが、どんなに無謀なことだと知っていたとしても諦めたくない。

 アランの頬を両側から手で包む。


 記憶が消されて、夢物語が覚めたとしても、この瞳に刻み付けよう。

 ――あなたとこうして見つめ合えた時間を。


 この感情がこの世界でしか存在しないものならば、心に焼き付けよう。

 ――あなたを全身全霊で愛する誓いを。


「だって、アランしか愛せない」


 こんなに惹かれ合える人は、きっとあなたしかいない。

 それはアランも同じだった。


「俺もお前以外は嫌だ」


 スッとアランの目から一筋の涙が零れ落ちた。その涙は緑色に輝き出し、クレナのブレスレットを光で包み込んだ。その光は宝石となり、クレナのブレスレットに新たな可能性の証を残す。


「こんなわたしを受け入れてくれて、ありがとう……アランっ」


 精一杯の笑顔を向けた瞬間、アランの顔が一瞬近づき、またすぐに離される。


「それはこっちの台詞だろ」


 アランの頬は心なしか赤い。

 さっき、微かに唇を掠めていった感触を改めて思い出す。


「アランっ……今」

「うるさい! もう寝るぞ!」


 恥ずかしさからか、アランはクレナに背中を向けて横になってしまった。


「うるさいって何よ!」

「仕方ないだろ、したくなったんだから……」


 ぼそっと返された発言に、次はクレナの顔が赤く染まる番だった。

 そんな風に言われたら、何にも言い返せない。


「バカっ」

「バカになるぐらい、お前が好きになったんだ。だから頑張ってふたりで生き返るぞっ」


 ――どうして、いつも彼は望む以上の言葉をくれるんだろうか。

 嬉しさが溢れだし、照れた顔をしているであろうアランに、クレナは頷き微笑んだ。


「うんっ」


 ――約束より固い誓いを全身で感じよう。

 この先に待つ結末を不安とともに抱きながら、クレナはアランの背中に寄り添うように横になる。


「必ず、帰ろう」


 布越しに伝わってくる温もりを頬へと押し当て、瞼をゆっくり閉じた。



 ――どうか、全てが幸せに満ちる結末でありますようにと神に願いを捧げながら……



ごめん、ヨンギ。

出番なくしちゃって(笑)

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