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ヘヴンリー・ガーデン~天界の庭~  作者: 石田あやね
第3章【桎梏の瞳】
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Saelum 32

 岩の塊はクレナの横ギリギリを落下していき、崖下の川へと沈んでいった。防ぎようのない危険に冷や汗が吹き出し、両足は小刻みに震え出す。この世界にいれば、いくら怪我をしないとはいっても、落石の下敷きはさすがに体験したくはない。


「早く進まなきゃ……」


 またいつ何があるか分からない状況下。怖気付いている場合ではない。

 またゆっくり、崖すれすれの細い道を歩き出した。足元を気にして目線を下げると、どうしても崖下に目がいってしまう。その度に緊張が走り、足元に力を入れる。


 それがいけなかった。

 次に踏み出した岩が脆く、足を着けた瞬間に崩れ落ちた。片足が一気に持っていかれ、体は急激に傾いていく。あまりにも突然で、悲鳴すら上げられなかった。


 宙を仰ぎ、青い空が視界に入る。もう、諦めるしかなかない。


 だが、突然体がガクンと揺さぶられ、前へと引き寄せられる。目に映っていた筈の空は消え、何も見えなくなった。それでも、クレナには何が起きたのか直ぐ分かってしまう。


 感じる体温に、懐かしい匂い。思わず泣き出しそうになった。


「……なんで、来るのっ」


「馬鹿っ……ひとりで行かせるわけないだろ」


 顔を上げると、いつもの仏頂面が近くに見える。急いできたのか息は乱れ、額には汗が滲んでいた。そんな姿に堪らず、本音が口から零れる。


「馬鹿はどっちなのよ」


 そう言いながらも、自然と手はアランの服を強く握り締めていた。


「クレナさん、大丈夫ですか?」


 直ぐ近くに、変わらない笑顔を見せるヨンギが目に映る。込み上げてくる嬉しさを押し殺し、クレナは訴え掛けるように言い放った。


「ヨンギさんまでっ……どうして戻らなかったんですか!? ふたりとも護衛隊(カンボーイ)出来なくなっちゃうんですよ!?」


「ルカさんたちから聞いちゃったんですね……いいんですよ。それでも構いません」


「何言ってるんですか! 全然、良くないです!! ヨンギさん、ソユンさんに会えなくなっちゃうんですよ!?」


「いいんです……もう、十分待ちましたから。今はあなたが一番大事なんです」


 その優しすぎる眼差しに、クレナの目から涙が溢れだす。幾度となく頬を伝う涙をアランの手がそっと拭い取った。


「お前と最後まで付き合うって決めたんだ。だからもう単独行動禁止な……」


「そんなの勝手に決めないでよ」


「そうさせたのは、お前のせいなんだから……責任もって俺たちの側にいろ!」


 静かにヨンギの手が頭に乗せられる。


「今はクレナさんがもとの世界へ帰ってしまう事よりも、ひとり危険に飛び込んでいくことの方が僕たちは心配なんですよ」


「ヨンギさん」


「あなたが後悔ない決断をしたのなら悔いなんて残りません。だから一緒に行かせて頂けませんか?」


 離れる怖さ、忘れてしまう悲しき予感。それは本心で、今も感じている。なのに、ふたりの姿を見たら心の奥底にあった本当の気持ちが溢れてきた。


「アラン、ヨンギさん……来てくれてありがとう」


 この世界は、やはり優しすぎる。そんな風に思えるのは、ふたりとこうして出逢えたからだろう。


「ふたりともう少しだけ一緒にいさせて下さい」


 儚い数ページの夢物語だとしても、彼らと共に過ごしたい。たとえ、どんなに悲しい結末が待っていたとしても、それを受け入れようとクレナは決意した。


「けど、三途の川(テルミヌス)で何か変だと感じたり、危険があるようなら止めるからな……他にもブレスレットの謎を解く手懸かりだってあるかもしれないだろ?」


「わかった……」


「なら、行こう。ここじゃゆっくりお前を叱れないから……まだふたつ目の石を隠してた事とか、勝手に居なくなった事とか、言いたいことが山ほどあるから覚悟しとけよ!」


 アランの言葉に、クレナはふっと違和感を感じた。


「アラン……ふたつ目の石のこと誰から聞いたの? ローマンさんと話した?」


 その言葉に、アランの瞳が動揺に揺らぎ、目を背ける。


「え、ああ……リリーから聞いたんだ。それにお前が手首見せないように隠してたのも変だったしな」


「そう……」


 明らかに様子がおかしい。

 けど、リリーも話は聞いていたから、アランたちに話していたのなら変ではない。なら何故、アランは動揺を隠すように目を逸らすのだろうか。

 そういえば、()()()のアランが言ったことにも疑問が生まれる。


「アラン、もしかして……」


 浮かび上がった答えを口にしそうになった時だった。


「ふたりとも、避けてください!」


 ヨンギの声とともに、頭上からまた岩の破片がバラバラと散らばり降ってきた事に気が付く。


「クレナ、こっちだ!」


 アランに手を引かれ、道の先へと進み出した時、それは霧の中から現れた。先ほどよりも一回り大きな岩の塊がクレナに迫り、転がり落ちてくる。


「危ない!」


 思いっきり引っ張られ、またもアランの腕の中に閉じ込められた。それと同時に、岩がぶつかった衝撃音が揺れとともに伝わる。


「大丈夫か?」


 耳に届く声で、無事に岩を避けられたことを知った。しかし、顔を上げたクレナは目の前の状況に驚愕する。


 「ヨンギさん!」


 落ちてきた岩は、わたし達とヨンギの間の道を削り取ってしまっていた。


「僕は大丈夫です」


「けど、これじゃ……」


 ちょうどカーブを描くような道だったため、ジャンプして移ることは不可能だ。これでは、ヨンギが先へ進めない。そして、クレナとアランも引き返すことが出来ない状態に陥ってしまっていた。


「アランたちは先に進んでください!」


「ヨンギはどうするんだ?」


「僕は他の道を探してみます。三途の川(テルミヌス)で落ち合いましょう!」


「わかった!」


「ヨンギさん、気を付けてくださいね!」


「ありがとうございます。クレナさんも気を付けて……アラン、後は頼みましたからね!」


「了解っ」


 ヨンギは急ぎ、来た道を引き返していく。その姿を見送り終え、アランの手が自分の手と重なるのを感じた。


「アランっ!?」


「また何かあっても嫌だからな……」


 アランに手を引かれ歩き出そうとした途端、地面から不吉な音が聞こえるのに気付く。足元の道にひび割れが広がっていくのを見たクレナは、咄嗟にアランの手を振り払った。


「おい、離すなよ」


 そう言って振り向いた刹那、クレナの立っていた道が一気に崩れ落ちていく。


「クレナ!!」


 崖下へと落ちていく姿を目の当たりにして、アランは迷うことなくクレナの後を追うように飛び降りた。

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