アルバイトを完遂せよ-31
「きましたか」
神官ジュールの目の前には、盗賊が迫っていた。逆手に持ったショートソードを腰の後ろに回し、気持ち姿勢が前側に下がっている。繰り出される剣の軌道が読みにくい、盗賊独特の構えだ。演習場の外周を回り込み、あっと言う間に剣の間合いに入り込もうとしていた。
「神よ、お力をお貸し下さい」
ジュールは両手を突き出し、指をいっぱいに広げた。指先に小さな魔法の光が点った次の瞬間、歌うように彼女の口から音がこぼれ出した。
『C、Db、F、G、Bb!!』
連続して発せられる単音節の神聖語。同時にジュールの指先の魔法の光が、次々と発射されていく。気合弾の魔法 (フォース)の呪文を分割して準備し、それぞれの指先から放つという、彼女にしか出来ない離れ業である。
『Bb、G、F、D、C!!』
右手の小さなフォースを全て発射すると、続いて左手の小さなフォースを発射する。左手の小さなフォースを発射し終わったときには、右手に新たな小さなフォースを準備しているという、冗談のような魔法運用である。
盗賊は放たれ続ける小さなフォースを、身体をひねって器用に回避していく。フォースの呪文は動きが直線的なので、回避するのはそんなに難しいことではないのだ。
しかし、ついに間に合わなくなり、思わずといった感じで剣を叩き付けた。普通サイズのフォースであれば、剣ごと身体が弾き飛ばされる所であるが、フォースの小ささが幸いして、呪文を弾き飛ばすことに成功した。
「ちょこまかとっ!!」
身のこなしが軽く、剣捌きが巧い。盗賊ならではの技能を惜しげもなく発揮し、次々と剣を使って小さなフォースを弾き飛ばしていく。そんな彼であったが、さすがに走りながらというワケにはいかず、その場に釘付けになってしまった。
前衛の戦士達が敵と剣激をはじめ、隣では、ジュールがフォースの呪文を巧く使った独特の技で盗賊の足を止めている。そんな状況の中、バルナスは大きく深呼吸すると、呪文の詠唱を開始した。
『マナよ。万物の根源たるマナよ。我が命に従い、ここに集え』
先ほどよりも詠唱が長い。中級以上の魔術師であれば、“マナよ”か“万物の根源たるマナよ”の一言で済むところであるが、講習ということもあり、バルナスは詠唱を省略せず完全に唱えているのだ。
ここまでがマナの圧縮の行程である。詠唱に伴い、空気中のマナが目の前に圧縮されていく。
『万物の根源たるマナよ。我が命に従い、その姿を現せ。3本の光の矢となりて、我が敵を射抜け……』
ここまでが魔法の定義付けの行程である。放とうとしている魔法のイメージを言葉にのせ、魔法を完成させていく。余分に精神力を投入することで、威力を増したり、本数を増やしたりするのも、この行程で行うのだ。
今回は本数のみを1本から3本に増やし、長さや太さは特に拡大していない標準サイズの呪文を準備している。




