おとめ座ごっこ
ここは、どこ?
まぶしい。
「おはよ。君は新しい参加者だね」
「参加、者?」
エニグマと名乗った蒼白な男性は、なんというか、うさん臭かった。
学校の保健室を髣髴とする室内に、清潔なベッド。
「せいふく……」
「そ、制服、これから君には殺試合をしてもらいまーす」
言っていることが飲み込めないまま、廊下へと追い出されてしまう。
はやく、帰らないと。
でも、どこへ?
ポケットに何か入っている感触が、スマホと学生証。
眠りすぎたような、そんな頭痛がする、行く当てもないし、履き替える靴もどうしていいかわからない。
保健室のドアに手をかけてみても、なんだかもう一度入る気にはなれなくって、その手を戻してしまう。
夢を見ているようなそんな、どこかふわふわとした感覚に吐き気がする。
トイレはじめっとしていて、誰もいない。
授業中ならトイレに人がいなくても不思議じゃない、けれど、学校にも誰もいない。
「……あしめ?」
鏡で見た自分の姿は高校生になっていた。
高校生のころビジュアル系バンドにはまってアシメトリーにしていたのを覚えている。
なんとなく、自分の年齢は30代くらいだと思っていたけれど、違ったらしい。
そんな違和感を拭いきれないまま、鏡の前に立ち尽くしていると、鏡に映った自分がにっこり笑った。
「……誰?」
『俺は俺だろ?』
そういうと、鏡の中から両腕が伸びてきて首を絞めてくる。
やっと、夢から覚める。
『俺って、こんなに馬鹿だったっけ?早く逃げないと、死んじゃうよ?』
高校生の力はこんなものだったか。
とてもじゃないが、すんなりと人を絞め殺せるほどの力ではない。けれど、苦しい。
これ、夢じゃない。
『あはは、おもしろーい。まだ夢だと思ってる。ってことは、常識はまだ残ってるんだ、もったいない。ここで死んだらほんとに終わっちゃうよ?』
死ぬ?
『死んじゃうよ、って言っても俺弱いねー。すぐには死なないと思うけど、だんだん死ぬ』
トイレで死ぬ?
『え、そこなわけ?苦しいね、ねぇ、自分に殺されるってどんな気分?どんどん死ね』
馬鹿にされて首にかかった手を振り払おうとする、行動に出たのが少し遅かったみたいでうまく体が動かない。
俺は死にたくない。
――何かやらないといけないことが、そう、学校に行かないと。
『もういけないんだけどね』
「うるさい、死ね」
イライラがピークになったとき、急に苦しくなくなった。
首にかかった手の感触もない。
触られているのに触られている感触がない、首元に手を当ててみるとやっぱり首は絞められている。
『これは、これは』
絞殺が難しいことに気が付くと、といっても彼が自分自身なら自分の握力のなさが不甲斐なくもあり、その首を絞める手から解放されたものの、小さな鏡から器用に抜け出てくる。
『さ、て、まだまだ終わらないよ』
ガシャン、片手で鏡を割ると尖った破片を、俺、ではなく自分自身へ向ける。
『俺はおまえ自身、ほら、自分の手を見てごらんよ』
「そういわれて、そうですかっていうのはただのバカだ。じゃーな」
トイレのドアは固く閉ざされたまま開かない。
それどころか、右手にはいつの間にか切り傷ができていて血がにじんでいる。
『ばーか』
抑揚のない挑発に握ったこぶしを相手に向ける。
よける様子のない、相手にはすんなりと握りこぶしはぶつかった。
結果、
「いってぇ!!」
『何もわからないまま、死ね』
鏡の破片を己の首へと向ける、もう一人の俺。
頬の痛みはどういうカラクリか、わからないけれど、とにかくあれは止めなければヤバイ。
『はやくはやくー、はやくしないと、死んじゃうって』
「っ!!」
『あ』
思わず、鏡の破片を自分へ刺した。
漫画で読んだことがある、こういう時は自分のダメージは相手に行くはず。
『半分正解、我が主は馬鹿になってしまったのか、それとも……』
首から血を噴き出し続ける自分の姿を見るのは何とも言えない不愉快なものがある。
「だまって、死ね!」
痛くないのをいいことに、もう一突き、首へと鏡の破片を突き刺そうとするのをもう一人の自分が制止する。
『俺はジェミニ、そして君はヴァルゴの力を写し取った、非力な肉体で不自由すると思うが俺の加護が少なくとも肉体は守ってくれる、はずだ。』
そういうと、俺に覆いかぶさるようにして、姿を消した。




