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未来が見えると勘違いされていますが、全部AI先生のおかげです 〜異世界で私だけが自考型AIを使えるので、今日も相談しながら生きていきます〜  作者: 紅茶伝
3章

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第二十五話 この石、電池みたいです

 

 レオルの指先から消えた炎を見つめながら、結衣はどうやって聞けばいいのか考えた


 火を見せてほしい、なら今の自分でもなんとか伝えられるかもしれない


 けれど知りたいのは火そのものではなく、どうして何もないところから火が出たのかだった


「AI先生、これ聞ける?」


『何を質問しますか』


「今の火、どうやって出したのって」


『現在までに取得した語彙だけでは、正確な質問文を構成することは困難です』


「じゃあ、分かる範囲でいい」


 結衣はレオルの前へ右手を出し、人差し指を立てた


 さっき炎が生まれた場所を指し、それから首を傾げる


「フィア?」


 以前聞いた、火を指している可能性の高い言葉を使う


 レオルは一度瞬きをしてから、結衣の意図に気づいたらしい


「ああ」


 自分の指先を見せ、短い言葉を返す


 結衣には意味が分からない


「もう一回お願い」


『記録しました。音声を分離して再生します』


 胸元から、今レオルが口にした音が再生される


 結衣も真似してみる


 発音が少し違ったらしく、レオルが首を振り、ゆっくり言い直した


「……難しい」


 結衣が眉を下げると、レオルが笑った


 もう一度


 今度は指先へ手を添えながら発音する


『身体内部に存在する何らかの能力、または力を示している可能性があります』


「魔力みたいな?」


『候補の一つです。ただし、現時点では確定できません』


「うん」


 結衣はすぐに決めつけず、レオルの動きを待った


 するとレオルは通りの先を指した


「え、行くの?」


 レオルが頷く


 ガルドも特に止める様子はなく、そのまま歩き始めた


「見せてくれるのかな」


『その可能性があります』


「行こう」


 結衣は二人についていった


 連れてこられたのは、通りに面した小さな店だった


 入口には木や金属で作られた道具がいくつも並んでいる


 用途の分からないものが多い中で、結衣の目を引いたのは、店の奥で淡い光を放っている小さな道具だった


「……光ってる」


 ランプに似ている


 けれど炎は見えない


 透明な覆いの中から、青白い光だけが静かに広がっていた


 結衣は思わず近づいた


「AI先生、これ見えてる?」


『確認しています。可視光の発生を確認しました』


「火じゃないよね?」


『少なくとも、映像上で炎は確認できません』


 レオルが店の人へ声をかける


 奥から出てきた男はレオルと短く話したあと、結衣が見ている道具へ手を伸ばした


 側面を操作すると、光が消える


「あ」


 もう一度触れると、また点いた


「……照明?」


『用途としては照明器具に近いと推定できます』


「電気?」


『不明です』


「ですよね」


 男は結衣が興味を持っていることに気づいたらしく、道具の一部を開いた


 中から取り出されたものを見て、結衣は目を細める


「石……?」


 親指の先ほどの大きさだった


 完全な透明ではなく、曇ったガラスのような半透明の石


 ただし内部には淡い青色が溜まっているように見える


 男がその石を指して、ゆっくり言った


「マナリス」


 結衣が瞬きをする


「……マナリス?」


 男がもう一度頷いた


「マナリス」


『音声を記録しました』


 結衣も石を指す


「マナリス」


 今度も男が頷いた


「これがマナリス……」


 名前を覚えるため、結衣は小さく繰り返した


 男は棚から別の石を取り出した


 形も透明感もよく似ている


 けれど、こちらには青い色がほとんどない


「あれ?」


 結衣は二つを見比べた


「同じ石?」


『外観上の特徴には高い類似性があります』


 男も二つを並べ、どちらも指して同じ言葉を使った


「マナリス」


「じゃあ、両方マナリスなんだ」


『その可能性が高いです』


「でもこっちは青くない」


 結衣が色のない方を指すと、男は頷いた


 そして青い方を指しながら、別の言葉を口にする


「マナ」


「……マナ?」


 男は青い部分を指す


 もう一度


「マナ」


 今度は色のない石を指して首を振った


 青い石へ戻る


「マナ」


「待って」


 結衣は二つを交互に見る


「マナリスが石で……中の青いのがマナ?」


『現在の実演からは、その解釈が最も有力です』


「マナ……」


 日本にいた頃ならゲームや小説で何度も見た言葉だった


 けれど、目の前に本当に存在しているものへ同じ音が使われていることが妙に不思議だった


 レオルが色のないマナリスを受け取った


「何するの?」


 結衣が身を乗り出す


 レオルは石を掌へ乗せ、もう片方の手で包むように持った


 すぐには何も起こらない


 結衣は黙って見ていた


 やがて、半透明だった石の内側に小さな青い色が現れた


「え……」


 結衣の目が大きくなる


 青は外から付いたものではなかった


 石の内側へ滲み込むように少しずつ広がっていく


「AI先生、見えてる?」


『記録しています』


「さっきまでなかったよね?」


『はい。映像記録上でも内部色の変化を確認できます』


 結衣はレオルの手元へ顔を近づけそうになり、邪魔になると思って途中で止まった


「どうやってるの……?」


 レオルは結衣の言葉を理解できない


 それでも表情で質問だと分かったらしく、自分の胸へ手を当てる


 何かを言う


 そこから掌へ向かって手を動かし、最後にマナリスを指した


 もう一度同じ動き


 胸


 手


 マナリス


 結衣はじっと見てから、自分でも同じ動きを真似した


「中にある何かを……石に入れてる?」


『その可能性があります』


 店の男が補うように話し始めた


 知らない言葉が多い


 AI先生が音を拾い、これまで記録した語彙との比較を続ける


 レオルは胸へ手を当てたあと、今度は何も持っていない指先へ小さな炎を出した


「あ」


 炎を消す


 胸へ手を当てる


 次にマナリス


 そこへ青い色が増えていく


「……同じところから?」


『実演上は、そのように示している可能性が高いです』


 結衣の頭の中で、少しずつ繋がっていく


「レオルが火を出す時に使ってる力があって……それを、そのままじゃなくて……」


 言葉を探す


 店の男が何度か説明する中で、AI先生が一つの音を拾った


『先ほどから、力をマナリスへ移す過程で同じ語が複数回使用されています』


「どういう意味?」


『文脈上、変える、整える、作る、などの意味を含む可能性があります』


「じゃあ……魔力みたいなものを、そのまま石に入れてるわけじゃない?」


『現時点の観察では、内部の力を何らかの形でマナへ変換した後、マナリスへ蓄積している可能性があります』


「……充電みたい」


 思わず口から出た


 結衣は青くなっていく石を見つめる


「これ、電池みたいじゃない?」


『機能的な類似性は考えられます。ただし、蓄積されているものが電気エネルギーである証拠はありません』


「分かってる。でも、何かを貯めて、使えるんでしょ?」


『その点については追加確認が必要です』


 ちょうどレオルが手を離した


 先ほどまでほとんど色のなかったマナリスには、今は淡い青が溜まっている


 男はそれを受け取ると、最初に見せてくれた照明のような道具へ入れた


 側面を操作する


 青白い光が灯った


「……やっぱり」


 結衣の声が弾んだ


 思わず一歩近づく


「貯めて、それで動かしてる」


『観察結果はその仮説と一致します』


 男は道具をしばらく光らせたあと、マナリスを取り出した


 結衣には僅かに青が薄くなったように見えた


「使ったら減る?」


『画像を比較します』


 少し待つ


『内部の青色領域が減少しています』


「電池じゃん……!」


 思わず笑顔になった


 もちろん本当に電池ではない


 それでも、何も分からなかったものに、自分の知っている仕組みと似た部分が見つかった


 それだけで急に近く感じる


「AI先生、これ使えないかな」


『何に使用することを想定していますか』


「充電」


 答えながら、結衣は胸元のスマートフォンを軽く押さえた


「だってエネルギー貯められるんでしょ?」


『マナを蓄積できることは確認できました。ただし、それを端末が利用可能な電気へ変換できるかは不明です』


「でも、可能性はある?」


『否定はできません』


「よし」


 結衣の顔が明るくなる


 さっきまで三十八という数字を見るだけで胸が苦しくなっていた


 今すぐ充電できるわけではない


 それでも初めて、何かに使えるかもしれないものを見つけた


 そんな結衣の前で、店の男が別の道具を持ってきた


「まだあるの?」


 今度は平たい金属製の器のようなものだった


 男は先ほどのマナリスをそこへ入れる


 何かを操作する


 しばらくすると、器の上へ手をかざしていた結衣の指先に変化が伝わった


「……あったかい」


 結衣は驚いて手を引き、もう一度そっと近づけた


「ほんとにあったかい」


『表面温度の上昇が推定されます』


「さっきは光だったのに?」


 同じマナリスだった


 同じ青いものが入っている


 それなのに、今度は光ではなく熱が出ている


 結衣が二つの道具を交互に見ると、男は意図を理解したらしい


 照明の道具を指し、次に内部を開いて見せる


 その中には細かな線が組み合わされたような模様があった


 熱を出した道具にも、別の形の模様が刻まれている


「……違う」


『形状が異なります』


 結衣はしゃがみ込むようにして二つを見比べた


「マナリスは同じなのに、こっちは光で、こっちは熱」


『はい』


「じゃあ、何をするか決めてるのは石じゃない?」


『その可能性が高いです』


 結衣の視線が模様へ向かう


 店の男もそこを指した


 知らない言葉を一つ口にする


 結衣が聞き返すと、今度は紙を取り出し、簡単な図を描いた


 円と線が組み合わさった形


「魔方陣……みたい」


『形状上の類似ではなく、機能から判断する必要があります』


「分かってるって」


 少し頬を膨らませながらも、結衣は目を離さなかった


 マナリスに貯めたマナ


 それを道具へ入れる


 中にある仕組みによって光になったり、熱になったりする


「じゃあ……」


 結衣は自分のスマートフォンへ視線を落とした


「スマホ用のやつ作れたら?」


 胸が少し速くなる


「マナリスの中のやつを、電気にできる仕組みを作れたら……」


『理論上の検討対象にはなります。ただし、マナから電気への変換が可能であることは確認されていません』


「でも光と熱にはなってる」


『はい』


「だったら、最初から無理って決まってないよね?」


『その通りです』


「……よし」


 結衣は嬉しくなってスマートフォンを両手で握った


 充電できる


 まだそこまで言える段階ではない


 それでも、昨日まで何もなかったところに、一本だけ細い道が見えた気がした


 その時だった


 店の男が棚へ戻そうとしている、色の薄くなったマナリスを見た瞬間、結衣の中に小さな引っかかりが生まれた


「……あれ?」


 半透明の石


 曇ったガラスのような質感


 どこかで見たことがある


「待って」


 結衣は自分の持ち物へ手を伸ばした


 ずっと残していた小さな石を取り出す


 草原を歩き始めた頃、火を作るために使ったものだった


 水滴と陽の光を使い、黒くした木の粉へ光を集めるために利用した半透明の欠片


 役に立ったから、そのまま捨てずに持っていた


「……これ」


 掌へ乗せる


 店にあるマナリスと並べると、結衣の目がゆっくり大きくなった


「似てない?」


『比較します』


 AI先生がカメラ越しに二つを確認する


『透明度、内部構造、表面反射の特徴に高い類似性があります』


「え……」


 結衣は自分の石を店の男へ見せた


 男は一目見ると、それを指した


「マナリス」


「……やっぱり?」


 思わず声が高くなる


「これも?」


 男が頷く


 結衣は掌の石を見つめた


「じゃあ私、最初から持ってたの?」


『その可能性が高いです』


「全然知らなかった……」


 少し呆然とする


 あの時はただ、光を集められそうな透明な石として使った


「でも待って」


 結衣は急に不安になった


「じゃあ、あの時の火って……これのマナで点いたの?」


『その可能性は低いと判断します』


「ほんと?」


『当時の映像記録では、この石に現在確認されている青色領域は存在していません。また、着火は水滴と石による集光位置を調整した後に発生しています。観察結果は光学的な加熱による着火と整合します』


「……よかった」


 結衣は胸を撫で下ろした


「私たちが頑張って作った火だったんだ」


『その認識で問題ありません』


「うん」


 それが分かっただけで、妙に嬉しかった


 結衣は自分のマナリスを見つめる


 今は店に並んでいた空のものと同じで、青い色はほとんどない


「これにも入れられるのかな」


 レオルを見る


 石を見せてから、青いマナリスを指し、自分のものを差し出す


 意図が伝わったらしい


 レオルが受け取った


 掌で包む


 結衣は息を止めるようにして見守った


 しばらくすると、半透明だった石の内側に小さな青が生まれた


「……わ」


 結衣の顔が一気に明るくなる


「入った……!」


 思わずレオルの手元へ身を乗り出す


 自分が最初に火を作るために使った石


 何の石なのかも分からないまま持ち歩いていたものが、今は内側に淡い青を宿している


「きれい……」


 受け取ると、何度も角度を変えて眺めた


 光の当たり方によって、内部の青が僅かに揺れて見える


「これ、私の電池になるかもしれないんだ」


『正確には、現時点ではマナを蓄積したマナリスです』


「今はそれでいいの」


 嬉しくて頬が緩む


 けれど、スマートフォンへ視線を落としたところで、すぐに表情を引き締めた


「……直接は繋げないよね」


『推奨できません』


「だよね」


 黒い編み込みのストラップケーブルを持ち上げる


 片方の留め具を外すとUSB-C端子が現れる


 その小さな金属端子と、掌の青いマナリスを並べてみる


 あまりにも違う二つだった


「こっちの中にあるのはマナで、スマホが欲しいのは電気」


『はい』


「だから、この間に何か必要」


『その認識で問題ありません』


 結衣は店の照明へ目を向けた


 マナリスを入れると光を作る仕組み


 その隣には熱を作る仕組みがある


「光にできる」


『はい』


「熱にもできる」


『はい』


「だったら……電気にするやつも作れるかもしれない」


『可能性については検証が必要です』


「分かってる」


 結衣は少し笑った


「でも、調べる価値はあるでしょ?」


『あります』


「よし」


 返事を聞いた途端、結衣の声が弾んだ


 店の男へ向き直る


 知りたいことが一気に増えた


 この模様を誰が作っているのか


 どうやって作るのか


 マナから別のものへ変える仕組みを変えられるのか


 そして何より、自分のスマートフォンが必要としている電気を作れるのか


 全部を今の言葉で聞くことはできない


 だから結衣は、まず照明の中にある模様を指した


 次に店の男を指す


 作るように両手を動かし、首を傾げた


「これ、作る人……いる?」


 男は結衣の動きをしばらく見たあと、何かに気づいたように頷いた


 そして店の外を指す


「いる?」


 もう一度尋ねると、男は同じ方向を指した


 レオルも意味を理解したらしく、結衣へ向かって手招きする


「連れてってくれるの?」


 レオルが頷いた


 結衣は掌のマナリスを大切にしまい、スマートフォンへ触れた


「AI先生」


『はい』


「まだ三十八%ある」


『はい』


「絶対間に合わせようね」


『充電手段の確立に必要な情報収集を支援します』


「うん」


 今度はその返事だけで十分だった


 結衣はレオルの後を追って店を出た


 さっきまで怖くて仕方なかった数字は変わっていない


 それでも、何もできないまま減っていくのを見ている時とは違った


 自分の手の中には、この世界で初めて見つけた可能性が残っていた

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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