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未来が見えると勘違いされていますが、全部AI先生のおかげです 〜異世界で私だけが自考型AIを使えるので、今日も相談しながら生きていきます〜  作者: 紅茶伝
3章

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20/31

第二十話 今夜、どこで寝るんですか


 食事を終えて通りへ戻ってから、結衣はしばらくレオルたちの後ろを歩いていた


 お腹に温かいものが入ったせいか、身体はさっきまでよりずっと楽になっている


 足には歩き続けた疲れが残っているし、スニーカーの中も少し蒸れて気持ちが悪いけれど、空腹のまま森を歩いていた時とは比べものにならなかった


 それに、たった一回食事をしただけなのに、ナールという町が少しだけ現実的な場所に思えてくる


 食べ物を出す店があって、それを買うためのお金があって、人が働き、客が払い、また次の人が入ってくる


 当たり前のことばかりなのに、その当たり前を一つずつ確かめられることが今の結衣には嬉しかった


「赤茶色の一枚で一食かぁ」


『先ほどの食事については、その可能性が高いと判断しています』


「名前も知りたいね」


『貨幣名称に関する音声データは蓄積していますが、額面との対応はまだ確定していません』


「間違えて覚えたら面倒だもんね」


『はい』


「じゃあ、もう少し集めよう」


 そんな話をしながら歩いていた結衣は、前を行くレオルが大きな通りから横道へ曲がったことに気づいた


「あ、そっち?」


 慌ててついていく


 一本入っただけなのに、人の数が少し減った


 大きな荷車が頻繁に行き交っていた道とは違い、こちらには歩いている人の方が多く、建物同士の間隔も狭い


 開いた窓から話し声が聞こえる


 洗った布らしいものが建物の間へ渡した紐に掛けられ、少し先では女性が桶の中で何かを洗っていた


「なんか急に生活してる場所って感じ」


『主要道路沿いと比較して、物品販売を行っていると推定される建物の割合は低下しています』


「住宅街っぽいってこと?」


『その可能性があります』


 結衣は少しだけ歩く速度を落とした


 店を見るのとは違う


 ここでは誰かが暮らしている


 窓の向こうに食器らしいものが見えたり、入口の前に小さな靴が並んでいたりするだけで、この世界にも家へ帰って食事をして眠る人たちがいるのだと分かる


 その時、結衣の頭に一つの疑問が浮かんだ


「……あれ?」


『どうしましたか』


「今日、私どこで寝るの?」


 足が少し止まる


 食事の前にも考えていたはずなのに、お金や言葉のことに気を取られているうちに、いつの間にか後回しになっていた


「宿……あるよね?」


『ナールに宿泊施設が存在する可能性は高いと考えられますが、まだ確認できていません』


「でも私、お金ないよ」


『はい』


「レオルにまた出してもらうのは……」


 言いながら、結衣は眉を下げた


 門でも払ってもらった


 食事も払ってもらった


 ここまで連れてきてもらっただけでも十分すぎるほど助けられている


「さすがに宿まで全部お願いするの嫌だな」


『では、別の宿泊手段を探す必要があります』


「野宿は?」


『町の治安、夜間の気温、野外での宿泊に関する規則が不明です』


「なし寄りだね」


『推奨できる情報はありません』


「だよね……」


 結衣は前を歩くレオルを見る


 結局、聞くしかない


「AI先生、泊まるとか寝るって言葉、分かってる?」


『「眠る」に関連すると推定される語は記録されていますが、宿泊施設を示す語はまだ確定していません』


「じゃあ寝る方でいい」


 AI先生が候補の発音を教えてくれる


 結衣は歩きながら何度か真似した


「こう?」


『第二音節がやや長いです』


「これ?」


『近似しました』


「よし」


 結衣は少し足を速めてレオルの横まで進んだ


「レオル」


 呼ばれてレオルが振り向く


 結衣は自分を指す


「ユイ」


 次に両手を合わせ、頬の横へ持っていく


 少し子どもっぽい仕草だと思ったけれど、今は分かりやすさの方が大事だった


 AI先生から教わった言葉も添える


「寝る」


 レオルは結衣の仕草を見たあと、何か答えた


 その中に今使ったばかりの「寝る」と同じ音が入っている


「AI先生?」


『解析します』


 レオルが前方を指す


 さらに何か言った


『「寝る」に関連する語と、場所を示す可能性がある表現を確認しました。全体として、宿泊場所について回答している可能性があります』


「場所あるの?」


 結衣は前を指す


「寝る、場所?」


 かなり不格好な言い方だったけれど、レオルは頷いた


「あ、よかった」


 とりあえず今夜寝る場所そのものはありそうだった


 ただ、次の問題がある


 結衣は自分の指で小さな円を作る


 さっき見た硬貨のつもりだった


「お金」


 現地語の名前はまだ分からないので、日本語で言いながらレオルの腰の袋を指す


 次に自分のポケットを裏返す


「ない」


 レオルはその動きを見て、すぐ意味を理解したらしい


 少し笑って何か答えた


「また笑われた」


『敵意を伴う表情には見えません』


「それは分かってるけど」


 レオルが自分を指す


 次に前を指す


 そして結衣を指した


「……一緒に来いってこと?」


『動作だけでは複数の解釈が可能です』


「聞こう」


 結衣は胸元へ顔を少し近づける


「AI先生、今の言葉は?」


『これまでの用例との照合では、「問題ない」に近い表現が含まれている可能性があります。また、その後に場所を示すと推定される語が続いています』


「とりあえずついていけばいい?」


『その意図である可能性は高いと判断します』


「じゃあ行く」


 結衣が頷くと、レオルも歩き出した


 横道をさらに進み、二度ほど角を曲がる


 結衣は途中で不安になり、胸元へ小声で尋ねた


「AI先生、道覚えてる?」


『端末センサーと映像から移動経路を記録しています』


「帰れる?」


『現在までの経路を逆方向へ移動する補助は可能です』


「よかった」


 知らない町では、少し角を曲がっただけでも方向感覚が怪しくなる


 似たような建物が続いているせいで、結衣一人なら元の大通りへ戻るだけでも迷っていたかもしれない


「これ便利だね」


『何を指していますか』


「AI先生が道覚えてくれること」


『記録可能な範囲で対応します』


「お願いします」


 少し安心して周囲を見る余裕が戻った


 すると、さっきまで気づかなかったものが目に入る


 建物の壁や入口付近に、同じ形の印が何度か現れていた


「AI先生、右の壁にあるやつ、さっきもなかった?」


『確認します』


 数秒後、


『類似する記号を二地点で記録しています』


「文字?」


『文字または識別記号の可能性があります』


「何の印だろ」


『現時点では判断できません』


「こういうのも後で分かるようになるかな」


『使用される場所と意味の対応例が増えれば、推定できる可能性があります』


「じゃあ記録お願い」


『記録します』


 結衣は歩きながら、少しずつ町の形を頭に入れていった


 大きな通りには店と荷車が多い


 一本入ると人が暮らしているような建物が増える


 さらに奥へ進むと道は少し狭くなり、子どもが遊んでいたり、家の前で作業をしている人がいたりする


 日本の町とはまったく違う


 でも、何となく役割の違う場所が分かれているところには少しだけ親しみを感じた


 やがてレオルが一軒の建物の前で止まった


「ここ?」


 結衣も足を止める


 二階建てだった


 下側は石に近い素材で造られ、上は木材が多く使われている


 通りへ面した入口の横には、小さな看板が下がっていた


 文字だけではない


 簡単な絵も描かれている


「……ベッド?」


 結衣は看板へ近づいた


 四本の脚がある長方形の上に、何かが乗っているような図だった


『寝台を図案化したものである可能性があります』


「じゃあ宿?」


『その可能性が高いと判断します』


「ほんとに宿あった」


 安心した直後、結衣は自分の空のポケットを思い出した


「問題はお金だけど」


 レオルは迷わず扉を開けた


 中から話し声が聞こえる


 結衣もガルドの後について入った


 最初に見えたのは小さな広間だった


 机がいくつか置かれているものの、さっきの食事をした店ほど広くない


 壁際には階段があり、二階へ続いている


 奥には人が立つための台のような場所があった


 その向こうから、年配の女性が顔を出す


 レオルを見るとすぐに何か話しかけた


「知り合いなのかな」


『親密度は判断できません。ただし互いに警戒する様子は確認できません』


 レオルと女性が話す


 結衣は会話を聞きながら、知っている言葉を探した


 ナールではない


 食べるでもない


 途中で「寝る」に近い音が聞こえた


「あ、今の」


『確認しています』


「泊まる話?」


『その可能性があります』


 レオルが結衣を指した


 女性の視線がこちらへ向く


 結衣は反射的に背筋を伸ばした


「こんにちは」


 日本語が出てから、街道で覚えた挨拶を思い出す


 すぐに言い直した


 女性は一瞬驚いたような顔をしたあと、同じ挨拶を返してくれる


「通じた」


『はい』


 こうして返してもらえるたびに少し嬉しくなる


 女性は結衣の服装を見て、それからレオルへ何か尋ねた


 レオルが答える


 森に関連する言葉が聞こえた気がする


 結衣はすぐAI先生へ聞こうとして、やめた


 レオルが説明してくれているなら、今は会話を邪魔しない方がいい


 代わりに音声だけ記録してもらう


「AI先生、あとで教えて」


『記録します』


 少しすると女性が何か言い、指を立てた


 一つ


 続いて二階を指す


「一部屋?」


『宿泊に関する会話である場合、その可能性があります』


 レオルが頷く


 結衣は少し安心した


 ところが次に、女性が指を二本立てた


「二?」


 そのあと硬貨らしいものを指す仕草をする


「……値段?」


『可能性があります』


「二枚?」


 結衣が小声で呟く


 女性が使った言葉をAI先生が拾う


『先ほど食事の支払い時にも類似音列を記録しています』


「お金の単位?」


『その可能性が高まりました』


 レオルが腰の袋を開けた


「あ、待って」


 結衣は思わず声を上げた


 レオルが振り向く


「また払ってくれるの?」


 もちろん日本語は伝わらない


 それでも結衣は自分を指し、首を横へ振った


「私」


 レオルの袋を指す


「お金」


 もう一度首を横へ振る


「だめ」


 レオルが困ったような顔をした


「いや、だって門もご飯も出してもらったし」


 説明できないのがもどかしい


「AI先生、どう言えばいい?」


『「支払う」「借りる」「返す」に対応する語彙が確定していません』


「うーん……」


 結衣は少し考える


 そして自分の胸を指した


「私」


 レオルが持っている硬貨を指す


「お金、ない」


 ここまではいい


 次に、宿の女性を指し、硬貨を渡す仕草をしてから、今度は自分を指した


「私、したい」


 意味が通じる自信はまったくない


 レオルも少し首を傾げている


「やっぱり無理か」


 困っていると、女性が何か話した


 レオルへではない


 結衣へだった


「え?」


 女性はもう一度言う


 そして結衣のパジャマを指した


「服?」


 結衣が袖を見る


 女性は頷く


 次に階段を指し、そのあと何かを続けた


「AI先生、今の分かる?」


『解析します』


 これまでの音声と照合する時間が入る


『確度は低いですが、「先に上へ行く」または「部屋を見る」に近い意味である可能性があります』


「部屋見せてくれるのかな」


『可能性があります』


 女性が手招きする


 結衣はレオルを見る


 レオルが頷いた


「行っていいみたい」


『はい』


 結衣は女性について階段を上った


 木の階段は歩くたびに小さく軋む


 二階には細い廊下が伸び、左右にいくつか扉が並んでいた


 女性はその一つを開ける


「……おお」


 結衣は中を覗いた


 小さな部屋だった


 窓が一つ


 木製の台の上に、布を重ねた寝床らしいものが置かれている


 壁際には小さな机と椅子もある


 豪華とは言えない


 日本のホテルと比べれば驚くほど簡素だ


 でも結衣が最初に思ったのは、別のことだった


「屋根ある」


『はい』


「壁もある」


『はい』


「ベッドもある」


『寝台と推定される設備があります』


 結衣はゆっくり部屋へ入った


 窓から外を見る


 ナールの建物の屋根が近くに見える


 下の通りを歩く人の声も聞こえた


 森ではない


 草原でもない


 今夜は、外で眠らなくてもいいかもしれない


「……ここで寝たい」


 思ったより素直な声が出た


 女性が結衣の顔を見ている


 結衣は寝台を指す


 自分を指す


「寝る」


 そして頷く


「ここ、寝る」


 女性も頷いた


「あ、通じた」


 嬉しくなった直後、現実を思い出す


「でもお金……」


 結衣が眉を下げると、女性は少し考えたあと階下を指した


 レオルのいる方向だ


「やっぱりレオルが払うってことかな」


『可能性があります』


「それは申し訳ないんだけどな……」


 部屋を出て階段を下りる


 レオルはまだ受付らしい場所にいた


 結衣が戻ると、女性が何か話す


 レオルが頷き、袋から硬貨を取り出した


「やっぱり払うんだ」


 結衣は止めようとした


 けれど、その前にガルドが結衣へ何か言った


「え?」


 短い言葉だった


 聞いたことがあるような気もする


「AI先生?」


『過去の発話と照合します』


 少し間が空く


『「後で」に相当する可能性が高い表現が含まれています』


「後で?」


 ガルドは結衣を指し、次にレオルを指す


 それから硬貨を指して、同じ言葉をもう一度使った


 結衣はようやく意味を考える


「……後で返せばいいってこと?」


『その意図である可能性があります』


 結衣はガルドを見る


「本当に?」


 通じないと分かっていても聞いてしまう


 ガルドは短く頷いた


 結衣は少し迷った


 借りたくないわけではない


 返せないままになるのが嫌なのだ


 でも今夜安全に眠る場所を確保することと、自分の意地を比べるなら、答えは分かっている


「……分かった」


 結衣はレオルを見る


 胸へ手を当てる


「あとで」


 さっき覚えた言葉を使う


 次にレオルの硬貨を指してから、自分から彼へ渡す仕草をする


「返す」


 最後だけ日本語になった


 それでもレオルは意味を理解したらしく、笑って頷いた


「絶対返すからね」


 結衣は真面目な顔で言った


 レオルには意味までは伝わらない


 けれど、もう一度頷いてくれた


 女性へ硬貨が渡される


 赤茶色の硬貨が二枚だった


「AI先生」


『記録しています』


「一泊、二枚?」


『一室分の宿泊料金である可能性があります。ただし食事、設備利用、人数などの条件が含まれている可能性は不明です』


「食事が一枚で、宿が二枚……」


 少しずつ、この町で生きるのにどれくらいお金が必要なのか見えてきた気がする


「少なくとも毎日三枚くらいは必要ってことかな」


『食事が一日一回で十分であるとは限りません。また宿泊費以外に衣類、衛生、その他の支出が発生する可能性があります』


「……もっといるか」


『はい』


「働かなきゃ」


 さっきより、その言葉が現実味を持って聞こえた


 なんとなく仕事を探すのではない


 食べるため


 寝るため


 服を買うため


 そしてレオルへ返すため


 お金が必要だった


 女性が何かを差し出してくる


 小さな木片だった


「なにこれ」


 受け取って見ると、端の方に穴があり、紐が通されている


 表面には簡単な記号が刻まれていた


「鍵……じゃないよね」


『金属製の鍵構造は確認できません』


 女性が階段を指し、次に木片を指す


「部屋の印?」


『可能性があります』


 結衣は刻まれた記号を見る


「これ文字?」


『これまでに記録した看板の記号と一部形状が類似しています』


「もしかして部屋番号?」


『候補として記録します』


「こういうところから文字も覚えられるんだ」


『意味が確認できれば学習データとして利用できます』


「じゃあこれも撮っとこう」


 結衣は胸ポケットからスマートフォンを取り出し、木片へカメラを向けた


『記録しました』


「ありがとう」


 端末を戻そうとしたところで、宿の女性がスマートフォンを見ていることに気づいた


「あ」


 女性の視線が結衣の手元へ固定されている


 まただ


 休憩所でも、門でも、倉庫のような場所でも同じだった


 この世界には似た物がないのだろう


「……見たい?」


 通じないと分かっていながら尋ねる


 女性はスマートフォンを指して何か言った


「AI先生、今の」


『「それ」に相当する指示表現と、未知語を確認しました。全体の意味は特定できません』


「じゃあまだ分かんないか」


 結衣は端末を女性へ向けて見せる


 渡しはしない


 画面を点灯させると、女性の目が少し大きくなった


 その反応に結衣は少し笑う


「光るの珍しいよね」


 女性が画面を覗き込む


 そこにはカメラ映像が映っている


 結衣が端末の向きを少し変えると、画面の中の景色も動いた


 女性が息を呑むように身体を引いた


「あ、ごめん」


 怖がらせたかと思い、すぐ画面を伏せる


 けれど女性は逃げなかった


 むしろもう一度見ようと少し身体を寄せてくる


「気になる?」


 結衣が画面を戻す


 女性は自分が映っていることに気づいたらしい


 画面を見る


 自分の顔へ触れる


 また画面を見る


 結衣はその様子を見て、思わず頬を緩めた


「カメラ初めて見たらそうなるよね」


 女性が何か尋ねる


「AI先生?」


『未知語を複数含みます。質問形式である可能性は高いですが、翻訳できません』


「残念」


 まだ説明できないことの方が多い


 でも急ぐ必要はない


 この町にいる間に話を聞く機会が増えれば、AI先生が覚える言葉も増えていく


 結衣自身も少しずつ覚えられる


 女性がもう一度スマートフォンを見る


 その時、画面の端に自分の顔が映り込んだ


 結衣も何気なくそこを見る


「……うわ」


『どうしましたか』


「私、ひどい」


 髪は乱れている


 頬には薄く汚れがつき、パジャマにも土が残っている


 森を歩き回ったのだから当然だった


 けれど鏡を見る余裕などなかったせいで、自分がどんな状態なのか今までほとんど意識していなかった


「お風呂入りたい」


『入浴設備の有無は確認できていません』


「せめて身体洗いたい」


 女性が結衣の反応を不思議そうに見ている


 結衣は自分の髪を指し、次に手で洗う仕草をした


「水」


 覚えている現地語で言う


 さらに身体を洗う仕草をする


 女性がしばらく見ていた


 やがて何かを理解したらしく、頷く


「あ、分かった?」


 女性が建物の奥を指した


 何か説明する


「AI先生」


『「水」に関連する既知語を確認しました。また、場所を示す表現が含まれています』


「洗える場所ある?」


『その可能性があります』


 結衣の顔が一気に明るくなった


「ほんと?」


 女性が手招きする


 結衣はついていこうとして、途中でレオルたちを振り返った


 二人はまだ下にいる


 今すぐどこかへ行くわけではなさそうだ


「AI先生」


『はい』


「寝る場所できた」


『はい』


「ご飯も食べた」


『はい』


「身体も洗えるかもしれない」


『はい』


 結衣は思わず笑った


「なんか急に生活できそうな気がしてきた」


 まだお金はない


 文字も読めない


 言葉だって少ししか分からない


 明日から何をすればいいのかも決まっていない


 それでも、今夜眠る場所があるだけで、胸の奥にずっと残っていた不安が少しだけ小さくなった


「よし」


 結衣は女性の後を追う


「次はお風呂……じゃなくてもいいから、洗えるところ確認しよう」


『了解しました』


 数歩進んだところで、結衣はふと自分のパジャマを見下ろした


 身体を洗えたとしても、着替えがない


「……AI先生」


『はい』


「私、洗ったあともこれ着るしかないよね」


『現在確認されている結衣の衣類は、着用中のもののみです』


「だよね」


 少しだけ肩を落とす


 それでもすぐに顔を上げた


「じゃあ明日は服」


『衣類の入手には現地通貨が必要になる可能性があります』


「その前にお金」


『はい』


「その前に仕事」


『はい』


 結衣は途中で苦笑した


「結局そこに戻るんだ」


 女性が振り返って、ついてきているか確認する


 結衣は慌てて歩き出した


「行きます」


 知らない町で迎える最初の夜までに、まだやることは残っている


 けれど今は、それを一つずつ確かめていけばよかった

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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