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未来が見えると勘違いされていますが、全部AI先生のおかげです 〜異世界で私だけが自考型AIを使えるので、今日も相談しながら生きていきます〜  作者: 紅茶伝
3章

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17/31

第十七話 私、身分証もお金もありません


 坂の上から見た時にはまだ遠く感じていたナールの外壁が、街道を進むにつれて少しずつ大きくなっていった


 近づいて初めて分かったのは、壁が結衣の想像よりずっと高いことだった


 石を積み上げて造られているように見える下側に対し、上の方には色や質感の違う部分が混じっていて、何度も補修されながら使われてきたのかもしれない


 壁の向こうには坂の上から見えた屋根が並び、そのさらに奥にも建物らしい影が重なっている


「結構大きい町なのかな」


『現在の位置から居住人口を推定することは困難です』


「何人くらいいるかとかも?」


『建造物の総数と居住密度が不明です』


「じゃあ入ってからだね」


 結衣は歩きながら周囲を見る


 ナールへ近づくほど畑は減り、代わりに街道沿いの建物が増えていた


 壁の外にも人は暮らしているらしく、家らしき建物だけではなく、荷車を止められる広い敷地や、屋根の下へ大量の木材を積んだ場所も見える


 何をしている施設なのかまでは分からない


 それでも、草原で一人だった時とは比べものにならないほど、人の生活がすぐ近くにある


 そのことが嬉しくて、結衣は何度も左右へ視線を向けていた


 けれど、門がはっきり見える距離まで近づいたところで、別のものが気になり始める


「……あれ、並んでるよね」


『はい』


 街道の先には人と荷車の列ができていた


 極端に長いわけではないものの、誰も勝手に門を通ってはいない


 大きな荷車の前では数人の男が立ち止まり、門の脇にいる人間と話している


 少しすると荷台の布がめくられた


「荷物見てる?」


『そのように見えます』


「検査とかあるのかな」


『可能性があります』


 胸の中に小さな不安が生まれる


 結衣は無意識にパジャマのポケットへ手を入れた


 何もない


 当たり前だった


 財布どころか、この世界で身元を証明できるものなど一つも持っていない


 スマートフォンならある


 けれど、これを見せて身分証になるとは到底思えなかった


「……待って」


『はい』


「私、町に入れるの?」


『現地の入域条件は確認できていません』


「身分証とか必要だったらどうしよう」


『その可能性はあります』


「お金取られる可能性もあるよね」


『通行税、入域税、関税などが存在する可能性はありますが、現時点では確認されていません』


「全部持ってないんだけど」


『はい』


「はい、じゃないよ」


 急に現実味が出てきた


 町を見つければ安心できると思っていたのに、入口まで来てから入れない可能性に気づくなんて遅すぎる


「先にレオルに聞けばよかった」


『現在でも確認は可能です』


「あ、そうか」


 結衣は少し前を歩くレオルを見る


 聞きたいことは分かっている


 問題は、それをどう伝えるかだった


「AI先生、『町に入るのにお金いる?』って聞ける?」


『「金銭」に相当する語がまだ確定していません』


「そっちからか……」


 結衣は列の先を見る


 ちょうど一人の男が門の前で小さな袋から何かを取り出していた


 手のひらへ乗せたものを、門の脇にいる男へ渡している


「今の何?」


『金属製の円形物体を確認しました』


「硬貨?」


『可能性があります』


「見たい」


 結衣は胸ポケットからスマートフォンを少し持ち上げ、遠くへカメラを向けた


「拡大できる?」


『映像を確認します』


 少し待つ


『直径二センチ前後と推定される円形物体です。金属光沢を確認していますが、材質は不明です』


「やっぱりお金っぽい」


『貨幣である可能性はあります』


 結衣はその場面を覚えておくことにした


「AI先生、今の人が言った言葉も残ってる?」


『記録しています』


「お金渡す前後で何か同じ言葉使ってない?」


『照合します』


 街道を進みながらAI先生の返事を待つ


『現時点では貨幣そのものを指す語は特定できません。ただし、門側の人物が金属片を受け取る直前に使用した短い発話について、今後の比較対象として保存しました』


「じゃあ今は分からないか」


『はい』


 結衣は少し考え、別の方法を探す


 言葉が分からなくても、実物を指せば聞けるかもしれない


「レオルに、あの丸いの指して聞いてみよう」


 ちょうど列の最後尾へ着いたところで、レオルたちも止まった


 前には二台の荷車と、徒歩の人が六人ほどいる


 結衣はレオルのそばまで行き、前方で支払いをしている人を指した


「レオル」


 レオルがそちらを見る


 結衣は自分の指で小さな円を作り、前の人が渡した金属片を示す


「これ、何?」


 もちろん日本語のままでは通じない


「AI先生、『あれ何?』は?」


『対象を指示しながら質問する表現であれば、これまでの用例から構成できます』


「教えて」


 短い発音を聞き、結衣は一度口の中で繰り返した


 以前より、AI先生から教わった音を真似すること自体には慣れてきた気がする


 それでも完全ではないので、一度だけ訂正してもらってからレオルへ使った


 前方の硬貨らしきものを指し、


「あれ、何?」


 レオルが視線を追う


 少し考えてから、腰に下げていた小さな袋へ手を入れた


「え?」


 出てきたのは、小さな金属片だった


 レオルが手のひらへ乗せて見せてくれる


「やっぱりお金?」


 結衣は思わず顔を近づけた


 丸い


 完全な円ではなく、わずかに形が歪んでいる


 表面には何か模様のようなものが刻まれているものの、見たことのない意匠で、文字なのか記号なのかさえ分からない


 レオルがその硬貨を示して一語を発音した


「今のが名前?」


『対象を提示した直後の単語であるため、貨幣またはこの硬貨の種類を示す可能性があります。ただし一例のみでは確定できません』


「じゃあまだ覚えなくていいか」


 結衣はレオルの手のひらと門を交互に指す


 次に自分を指してから、両手を空にしてみせた


「私、ない」


 これは以前AI先生から教わった否定に近い表現を使いながら、身振りも加えた


 レオルは結衣を見る


 硬貨を見る


 門を見る


 そして何かを理解したらしく、短く笑った


「なんで笑うの」


 レオルが何か話す


 途中で自分を指し、次に結衣を指した


 最後に門を示す


「AI先生?」


『解析します』


 これまでの会話と照合する時間が少し入り、やがて答えが返る


『確度は中程度です。「自分と一緒なら問題ない」に近い内容である可能性があります』


「……レオルと一緒なら入れるってこと?」


『その可能性があります』


 結衣はレオルを指す


 自分を指す


 門を指す


「一緒、入る?」


 知っている単語と身振りを組み合わせただけだった


 レオルはすぐに頷く


「はい」


「ああ……」


 結衣の肩から力が抜けた


「よかったぁ……」


『入域条件そのものはまだ確認できていません』


「今は入れそうって分かっただけで十分」


 とはいえ、どうしてレオルと一緒なら大丈夫なのかは気になる


 レオルが結衣の分まで支払うという意味なのか、それとも同行者として何か別の扱いになるのか


 聞きたいけれど、今の語彙では難しい


「門で見てれば分かるかな」


『観察を推奨します』


 列が少し進んだ


 結衣たちの前にいるのは、小さな荷車を引いた夫婦らしき二人だった


 門のところまで進むと、腰に剣を下げた男が二人へ声をかける


 荷車の中を軽く確認したあと、何か尋ねた


 男性が答える


 続いて小さな硬貨を数枚渡した


 門の男が受け取り、二人を通す


「やっぱり払ってる」


『金銭の授受と入域には関連がある可能性が高いと考えられます』


「何枚だった?」


『映像上では三枚確認しています。ただし二名分の入域料金とは限りません。荷車、積荷、その他の要素に対する支払いの可能性もあります』


「なるほど……」


 結衣は少し感心する


 自分なら三枚払ったのを見て、一人一枚か二枚くらいなのかなと適当に考えていたかもしれない


 でも荷車もある


 荷物もある


 何に対して払っているのかは、まだ分からない


「じゃあ他の人も見よう」


 次は徒歩の男だった


 荷物は背中の袋だけで、武器は持っていない


 門番らしい男と短く話したあと、小さな金属片を一枚渡して通った


「一枚」


『確認しました』


 その次は剣を持った二人組だった


 結衣は少し注意して見る


 門番と何か話す


 片方が腰から小さな物を取り出して見せた


 硬貨ではない


「何あれ?」


『板状の物体です。材質は不明です』


 門番がそれを確認する


 そして――二人は何も払わずに通った


「あれ?」


 結衣は目を瞬いた


「払ってないよね」


『金銭の授受は確認できませんでした』


「じゃあ、あの板みたいなの何?」


『現時点では不明です』


「身分証?」


『候補の一つです』


「やっぱりそういうのあるんじゃん……」


 せっかく安心したのに、また少し不安になる


 ただ、レオルは落ち着いている


 ガルドも特に気にしていない


 二人が慌てていないことを確認し、結衣もなるべく落ち着くことにした


 列がさらに進む


 いよいよ次がレオルたちだった


「……ちょっと緊張する」


『心拍数の上昇を確認できる機能は現在使用していません』


「別に数値で確認しなくていいから」


 結衣は胸元を軽く押さえた


 門を近くで見ると、遠くから眺めていた時よりずっと大きかった


 分厚い木製の扉が左右へ開かれ、その外側には金属の補強が何本も入っている


 門の内側には人が立てる場所があり、そこにも数人の武装した人間がいる


 全員が同じ服装ではないものの、胸元に似た印の付いた布を身につけていた


「兵士かな」


『統一された識別標識と武装から、警備を担当する集団である可能性があります』


 ガルドが先に進む


 門番の一人が声をかけた


 ガルドが何か返す


 結衣には速すぎて分からない


 ただし途中に「ナール」と、以前から何度も聞いている「行く」に近い言葉が混じっているのは拾えた


「AI先生、聞いといて」


『記録しています』


 門番がガルドの腰の剣を見る


 次にレオルへ視線を移す


 レオルが何かを取り出した


「あ」


 さっき剣を持った二人が見せていたものと似た、小さな板だった


「レオルも持ってる」


『形状には差異がありますが、同種の用途を持つ可能性があります』


 門番が確認する


 それから荷車を見る


 何か質問する


 レオルが答える


 今度はガルドも一言加えた


 会話は問題なく進んでいるように見える


 結衣は少し安心しかけた


 その時だった


 門番の視線が結衣へ向いた


「……来た」


 思わず小さく呟く


 頭から足元まで見られる


 薄いピンク色のパジャマで町の門に立っているのだから、見られるのは当然だった


 さらに胸ポケットのスマートフォンにも視線が止まる


「めっちゃ見てる……」


『結衣の服装および端末を確認している可能性があります』


「分かってる」


 門番がレオルへ何か尋ねた


 レオルが結衣を指して答える


 結衣には自分の名前だけが聞き取れた


「ユイって言った」


『はい。固有名詞として結衣を示しています』


 そのあとに続く説明は分からない


 門番が少し眉を寄せた


 結衣の不安が戻ってくる


「AI先生、何て話してる?」


『現在解析中です』


 レオルがさらに何か説明する


 森の方向を指した


 ガルドも短く話す


 門番が結衣を見る


 そして直接、何かを尋ねてきた


「え」


 結衣は完全に固まった


 聞いたことのある単語が一つも拾えない


「ごめんなさい、分かんない」


 日本語で答えても当然通じない


 門番がもう一度、少しゆっくり話した


「AI先生、お願い」


『解析しています』


 数秒が妙に長く感じる


『質問文と推定されます。これまでの用例との比較では、「どこから来た」に近い意味である可能性があります。確度は六十八パーセントです』


「どこから……」


 結衣は困った


 東京と言っても通じない


 日本と言っても通じない


 そもそも異世界から来ましたなんて、どう説明すればいいのか分からない


「森から来たって言う?」


『直近の移動経路について尋ねている場合は事実ですが、出身地を尋ねている場合は異なる回答になります』


「そうだよね……」


 門番は待っている


 結衣はレオルを見る


 レオルも何か言おうとしたが、結衣はその前に自分で答えてみることにした


 後ろを指す


 遠くの森を指す


「森」


 これは道中でAI先生から教わり、何度も聞いた言葉だった


 次に自分を指す


「歩く」


 そしてレオルとガルドを指す


「一緒」


 文章にはなっていない


 でも今の自分に言える言葉をつなげる


「森、歩く。レオル、ガルド、一緒。ナール、行く」


 言い終わってから、自信がなくなった


「……これ通じる?」


『文法的な正確性は保証できません。ただし既知語の組み合わせとして意図を推定できる可能性があります』


「もう言っちゃったよ」


 門番は結衣を見たあと、レオルを見る


 何か尋ねる


 レオルが笑いながら答えた


 ガルドも頷く


 門番の表情が少しだけ緩んだ


「あれ、大丈夫そう?」


『敵対的反応は確認できません』


「よかった……」


 ところが、まだ終わっていなかった


 門番が再び結衣を見る


 今度は手を出すような仕草をした


「え?」


 結衣も反射的に手を出す


 門番が首を横に振る


「違う?」


 門番はさっきレオルが見せた板状の物を指した


「あ」


 結衣の顔が固まる


「身分証だ」


『その可能性が高いと考えられます』


「持ってない」


 結衣は両手を見せる


「ない」


 覚えた否定表現を使う


 門番の眉が少し上がった


 何か尋ねられる


「AI先生?」


『完全な翻訳はできません。ただし、先ほどの板状物に関連する質問である可能性があります』


「だから持ってないんだって……」


 結衣は自分のポケットを見せる


 パジャマのポケットには何も入っていない


 胸元にはスマートフォンだけ


 門番がそこを見る


 嫌な予感がした


 案の定、指を差される


「……これ?」


 結衣はスマートフォンを胸ポケットから出した


 門番が目を細める


 黒い画面を見る


 裏返した時にはカメラ部分へ視線が移った


 周囲にいた別の門番まで少し近づいてきた


「AI先生、今しゃべらない方がいいかも」


『了解しました』


 結衣は端末を両手で持ったまま、どう説明すればいいのか考える


 身分証ではない


 武器でもない


 でも、それを伝える言葉がない


「これ、違う」


 さっきの板を指し、それからスマートフォンを指す


「違う」


 門番は完全には納得していないようだった


 レオルが横から何か説明する


 ミラの前でAI先生が話したことを、レオルも知っている


 何を説明しているのか分からないけれど、門番はレオルと端末を何度か見比べた


 やがて、こちらへ手を伸ばしかける


 結衣の身体がわずかに固まった


 スマートフォンを渡すのは怖い


 この世界で唯一、AI先生とつながっていられるものだった


「……ごめん」


 結衣は反射的に端末を胸元へ引いた


 門番の手が止まる


 空気が少しだけ変わった


 ガルドが結衣を見る


 レオルも何か言う


「AI先生、どうしよう」


『状況を悪化させないため、拒絶の意思を示しつつ敵対的ではないことを伝える必要があります』


「それをどう言えばいい?」


『「大切」に相当する語はまだ確定していません。「渡せない」に近い表現も十分な用例がありません』


「じゃあ……」


 結衣はスマートフォンを胸へ当てる


 少し考えてから、門番へ頭を下げた


「ごめんなさい」


 当然、日本語は通じない


 それでも声を荒らげず、端末を渡したくないことだけは態度で示す


 レオルが門番へ話しかけた


 今度は少し長い


 結衣の名前が出る


 森を示す言葉も聞こえた


 さらに知らない単語が続く


 門番は何度か質問し、レオルが答える


 ガルドも一度だけ口を挟んだ


 結衣は何もできず、そのやり取りを待った


「AI先生、分かる?」


『部分的に解析しています。レオルは結衣と森で出会ったこと、結衣が自分たちと同行していることを説明している可能性があります』


「それで入れるかな」


『判断できません』


「ですよね……」


 やがて門番が大きく息を吐いた


 レオルを見る


 何か短く言う


 レオルが頷いた


 そして腰の袋から硬貨を取り出した


 一枚ではない


 数枚だった


「あ」


 結衣はすぐ意味に気づいた


「私の分?」


『可能性があります』


 門番が硬貨を受け取る


 そのあと結衣を指し、レオルへ何か告げた


 レオルが再び頷く


 最後に門番が道を空けた


 結衣は一瞬動けなかった


「……いいの?」


 レオルが手招きする


「入っていい?」


 レオルが笑いながらもう一度呼ぶ


 今度は分かった


 行く


 結衣はようやく息を吐いた


「入れる……」


『門側から通行を許可する動作が確認されています』


「よかったぁ……」


 力が抜けそうになるのを堪えながら、結衣はスマートフォンを胸ポケットへ戻した


 門番の横を通る時、少しだけ緊張する


 けれど止められない


 一歩進む


 さらにもう一歩


 頭上を大きな門が覆う


 外から見ていた光景が少しずつ後ろへ流れ、代わりに壁の向こう側が見えてくる


 最初に目へ入ったのは建物だった


 木と石を組み合わせた家が街道の両側へ並び、その前を何十人もの人が歩いている


 奥からは誰かの呼び声が聞こえ、車輪が石混じりの道を転がる音が重なる


 食べ物らしい匂いもした


 煙の匂いもある


 どこかでは金属を叩く音が響いている


 今まで聞いていた人の声とは密度がまるで違った


 結衣は足を止めそうになった


「……すごい」


 レオルたちは少し先へ進んでいる


 慌てて追いかけようとして、それでも結衣はもう一度だけ周囲を見た


 知らない文字の書かれた板が建物から下がっている


 店なのか家なのかも分からない場所へ人が出入りしている


 腰に剣を下げた人が歩いているかと思えば、そのすぐ横を大きな籠を抱えた女性が通り過ぎていく


 子どもらしい小さな二人が道の端を走り、大人に何か言われて戻っていった


 ここには生活がある


 森の休憩所や街道で想像していたものが、今は自分の周囲全部に広がっている


「AI先生」


『はい』


「私、本当に異世界の町に入ったんだね」


『異世界であること自体は科学的に確認できていません』


「今そこ訂正する?」


『確認されている事実としては、既知の地理情報、言語、生物、文化との一致が確認できない地域です』


「もうそれでいいよ」


 結衣は笑った


 少しだけ目元が熱い


 でも今度は拭わなかった


 怖かった


 草原で目を覚ました時も、森を歩いた時も、知らない動物を見た時も、人に会うまでずっと怖かった


 今だって分からないことばかりで、お金もなければ身分を証明する物もない


 それでも、自分はここまで来た


「よし」


 小さく息を吸う


「まずレオルにお金返さないと」


『現地通貨を所持していません』


「分かってる。だから何か方法探すの」


『了解しました』


「あと服」


『はい』


「泊まるところも」


『必要です』


「ご飯も」


『必要です』


 言うほど増えていく問題に、結衣は途中で眉を下げた


「……町に入ったら入ったで大変じゃん」


『解決すべき事項は複数あります』


「でもまあ」


 結衣は少し先で待ってくれているレオルとガルドを見る


 それから胸元のスマートフォンへ軽く触れた


「一個ずつでいいか」


『はい』


「じゃあAI先生、まずこの町のこと知ろう」


『情報収集を開始します』


「お願いします」


 結衣は二人のところまで小走りで追いついた


 門の外から眺めていたナールは、もう遠くに見える目的地ではない


 知らない言葉が飛び交い、知らない物が売られ、知らない人たちが暮らしているその場所へ、結衣は自分の足で踏み込んでいった

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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