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未来が見えると勘違いされていますが、全部AI先生のおかげです 〜異世界で私だけが自考型AIを使えるので、今日も相談しながら生きていきます〜  作者: 紅茶伝
2章

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第十三話 知らない危険は、先に見つけます


 作業場から離れるにつれて、背後から聞こえていた金属音は少しずつ小さくなっていった


 最初は一定の間隔で森の中まで届いていた音も、やがて風が木々を揺らす音に紛れ、最後には耳を澄ませても聞こえなくなる


 代わりに結衣が気にするようになったのは、道の左右に広がる森だった


 さっきまでなら、見たことのない植物や景色を面白がって眺めていたと思う


 けれど今は、木と木の間に黒いものが見えるだけで一瞬そこへ目が向いてしまう


「……グレアって結局なんなんだろ」


『現時点では判断できません』


「昨日見たっぽいんだよね?」


『作業者の発話については、その可能性があるという段階です。「昨日」「二つ」に相当すると推定した音列についても確定していません』


「そっか」


 結衣は荷台に座ったまま、前を歩くガルドを見る


 ガルドも先ほどから何度も森へ視線を向けている


 ただし剣を抜いているわけではなく、歩き方も普段と大きく変わってはいない


 今すぐ何かが襲ってくると思っているというより、出てくる可能性があるから注意している、くらいなのだろう


「ガルドが慌ててないなら、私もずっと怖がってなくていいかな」


『ガルドが危険への対処能力を有していることと、危険が存在しないことは同義ではありません』


「分かってるけどさ」


 結衣は少しだけ頬を膨らませる


「そういう時は、大丈夫そうですね、とか言ってくれてもいいんだよ」


『根拠が不足しています』


「だと思った」


 それでもAI先生と話していると、森ばかり気にして固くなっていた肩から少し力が抜けた


 荷車はゆっくりと進んでいる


 作業場で教えられた道は、これまで歩いてきた道より少し狭かった


 荷車一台が通れる程度の幅はあるものの、端には草が伸び、場所によっては枝が道の上まで張り出している


 レオルは時折速度を落としながら、エルガを慎重に進ませていた


 結衣もぼんやり乗っているだけではなく、周囲を見る


 自分で危険を見つけられるなら、それに越したことはない


 とはいえ、何を探せばいいのかが分からない


「AI先生、こういう時ってどこ見ればいい?」


『大型動物を警戒するのであれば、茂みの揺れ、枝の破損、足跡、排泄物、鳴き声などが判断材料になります』


「全部見ながら歩くの無理じゃない?」


『そのため、こちらでも映像および音声を継続的に確認しています』


「頼りになります」


『ただしカメラの死角は存在します』


「はいはい、私もちゃんと見る」


 胸元にスマートフォンを入れているため、AI先生が見ているのは基本的に結衣の正面だ


 後ろや真横まで同時に確認できるわけではない


 結衣は時々左右へ顔と身体を向けながら、森を眺めた


 そうしているうちに、荷車が突然ゆっくりと止まった


「ん?」


 レオルが手綱を引いたわけではない


 エルガ自身が歩みを止めていた


 その長い耳が前へ向いている


 ガルドもすぐに気づき、振り返った


 何か短く声をかけると、レオルが周囲を見る


 結衣も荷台から身を起こした


「AI先生」


『音声を確認しています』


 結衣は黙る


 風の音


 葉の擦れる音


 エルガが鼻から息を吐く音


 それ以外は何も聞こえない


「私、分かんない」


『約十一秒前、進行方向左側から低い破砕音を検出しています』


「破砕音?」


『枝が折れた際に生じる音に近似しています』


 結衣の視線が左へ動く


 そこには木々と茂みしか見えない


「動物?」


『断定できません』


 ガルドが同じ方向へ目を向けた


 結衣は伝えた方がいいと思ったものの、肝心の言葉が出てこない


「えっと……左……音……」


 左という言葉をまだ自分で確実に言えない


 結衣はガルドを呼び、左側を指した


「ガルド、あっち」


 それから耳を指す


「音」


 日本語で言ってしまった最後の言葉は当然伝わらない


「AI先生、音ってなんて言えばいい?」


『該当する現地語はまだ特定できていません』


「そっか……じゃあ」


 結衣は指先で小枝を折るような仕草をして、


「パキッ」


 と自分で音を真似した


 ガルドの表情が変わった


「あ、伝わった?」


 彼は左側を指して何か尋ねてくる


 短い言葉の中に「危険」に当たる、すでに覚えた言葉が含まれていた


 それだけは結衣にも分かった


「分かんない」


 首を横へ振り、もう一度茂みを指す


「パキッて」


 こんな伝え方でいいのだろうかと思ったけれど、ガルドには十分だったらしい


 剣へ手を置きながら、ゆっくり左側へ移動していく


 レオルも荷車を止めたまま待つ


 結衣は思わず胸元へ小声で話しかけた


「なんか、すごい原始的な伝え方した気がする」


『意思伝達には成功しています』


「ならいいか」


 ガルドが茂みの手前で止まる


 しばらく動かなかった


 やがて剣から手を離し、地面へしゃがみ込む


「何かあった?」


 結衣も荷台から降りようとしたところで、レオルが手を上げた


 止まれという意味は、もう分かる


「あ、はい」


 結衣は素直に座り直した


 以前ならAI先生へ確認してから反応していた言葉だった


 今は考える前に身体が止まる


 そんな小さな変化を嬉しく思う余裕は、今はなかった


 ガルドが戻ってくる


 レオルと何か話し始めた


 結衣にはほとんど理解できない


 ただ、途中で聞こえた一つの言葉に反応した


「グレア」


 結衣の背筋が伸びる


「今、グレアって言ったよね」


『はい』


「何て話してる?」


『解析します』


 二人の会話は続いている


 ガルドが後方を指し、それから地面を示す


 レオルも荷車から降り、ガルドが見ていた場所へ向かった


 結衣は待つしかない


 やがてAI先生が答えた


『完全な翻訳はできません。ただし「グレア」に加え、移動を示す既知語が複数回使用されています』


「それだけ?」


『新規音列「ラト」が三回確認されました。ガルドは発話時に地面を指しています』


「ラト……」


『意味は未確定です』


「足跡とかかな」


『候補にはなりますが、断定できません』


 結衣は勝手に決めつけないことにした


 ガルドが戻ってくると、今度は結衣にも地面を見るよう手招きした


「行っていいの?」


 ガルドが頷く


 結衣は荷台から降り、二人のそばまで歩いていった


 そこでようやく、ガルドが何を見ていたのか分かった


「……これ?」


 柔らかい地面に、何かが踏んだ跡が残っている


 朝に川辺で見つけたものとは違った


 今回の跡は細長く、先端付近に複数の深い窪みがある


 結衣の手より大きい


 しかも一つではなく、道を横切るようにいくつか続いていた


「AI先生、見える?」


『確認しています』


 結衣はしゃがみ、胸元のカメラが地面へ向くよう身体を傾けた


『複数の足跡状痕跡を確認しました』


「これ、グラウの?」


『以前遭遇したグラウについては、足部を比較に十分な精度で記録できていません。断定できません』


「じゃあグレア?」


『ガルドが痕跡を示しながら「グレア」と発話したことから、関連している可能性は高いと考えられます』


「……そっか」


 結衣は跡を見る


 これを残した何かが、この近くを通った


 そう考えると、急に森が静かに感じられた


 ガルドが地面を指す


「ラト」


「ラト?」


 ガルドがもう一度足跡を指した


「ラト」


「あ」


 今度は分かりやすかった


「AI先生、これ足跡じゃない?」


『現在の用例では、その可能性が高いです』


 結衣は自分の靴跡を指した


「ラト?」


 ガルドが一瞬そちらを見てから頷いた


「はい、ラト」


「やっぱり」


 結衣の顔が少し明るくなった


 怖い状況なのに、新しい言葉が分かったことは嬉しい


「ラトが足跡ね」


『暫定的に登録しました』


 ガルドがグレアらしき足跡を指して何か続ける


 今度は文章が長い


 結衣は途中で理解することを諦めた


「AI先生、お願い」


『解析します』


 結衣はガルドに少し待ってもらいながら、AI先生の返事を待つ


『確度は高くありませんが、「グレアの足跡」「新しい」「こちらへ行った」に近い内容である可能性があります』


「新しいって……いつくらい?」


『そこまでは翻訳できません』


「だよね」


 結衣はガルドを見る


 時間を聞きたい


 けれど聞き方が分からない


「どう聞けばいいかな」


『現在把握している語彙だけで正確な質問文を構成することは困難です。身振りを併用してください』


「じゃあ……」


 結衣は足跡を指したあと、空の太陽を指す


 それから少し考えて、自分の手首を見る


 時計はない


「これじゃ分かんないか」


 ガルドが結衣の仕草を見ていた


 少し考えたあと、太陽を指す


 続いて今の位置からほんの少しだけ横へ手を動かした


「近いってこと?」


 結衣が首を傾げる


 ガルドが何か短く言った


「セト」


「セト?」


『初出です』


 ガルドは足跡を指し、また、


「セト」


 と言う


「新しい?」


『状況上、その可能性があります』


 結衣は自分の足元に残ったばかりの靴跡を指す


「セト?」


 ガルドが頷く


「はい」


「じゃあ、新しいでよさそう」


『暫定登録します』


 こうして意味が分かってしまえば、次からはもう「セト」という音を一生懸命覚える必要はない


 結衣の中では、新しいという意味と結びついた


 けれど、その意味が分かったことで別の問題が生まれた


「新しい足跡なんだ……」


 さっきより声が小さくなる


 ガルドも警戒している


 なら、かなり近くにいる可能性がある


 結衣は立ち上がり、森を見る


「AI先生、さっきよりちゃんと見てて」


『監視を継続しています』


「私も見る」


 ガルドとレオルが短く相談したあと、再び移動することになった


 ただし今度は結衣も荷台から降りたままだった


 乗っている方が楽ではある


 けれど何かあった時にすぐ動けるよう、今は自分の足で歩きたかった


 レオルがそれを見て荷台を指したものの、結衣は首を横へ振る


「いいえ、歩く」


 知っている言葉だけなら、もうAI先生へ聞かなくても言える


 レオルは少し不思議そうにしたものの、それ以上勧めることはなかった


 道を進む


 結衣はいつもよりガルドの近くを歩いた


 近づきすぎて邪魔にならない程度に距離は取っているけれど、何かが出てきた時に一人だけ離れるのは嫌だった


 数分ほど進んだところで、胸元から突然声がした


『結衣、止まってください』


 身体が反射的に止まる


「なに?」


『進行方向右側、約二時方向の低木に不自然な動きを確認しました』


 結衣には二時方向と言われても、一瞬では分からなかった


「どこ?」


『正面から右へ約六十度です』


 それなら分かる


 結衣はゆっくり右を見る


 木の根元近くに低い茂みがある


 風はほとんどない


 それなのに、一部だけ葉が揺れた


「……いた?」


『生物の存在を示す可能性があります』


 心臓が一度強く鳴った


「ガルド」


 声を抑えながら呼ぶ


 ガルドが振り返る


 結衣は右側を指した


「危ない」


 そして茂みを示す


 これだけなら自分で言える


 ガルドの表情が変わった


 すぐに剣へ手が伸びる


 レオルも荷車を止めた


 結衣は一歩だけ後ろへ下がる


「AI先生、まだ見える?」


『対象そのものは確認できません』


「動いたら教えて」


『了解しました』


 ガルドがゆっくり前へ出る


 茂みとの距離を詰めすぎないまま剣を抜いた


 金属が鞘を擦る音が森の中へ小さく響く


 結衣の喉が緊張で乾く


 茂みは動かない


 十秒ほど何も起こらなかった


 もしかしたら見間違いだったのではないかと思い始めた、その時だった


『動きました。右方向へ移動しています』


「右!」


 結衣が叫ぶ


 ほぼ同時に茂みの奥から黒い影が飛び出した


「っ!」


 結衣は思わず後ろへ下がった


 けれど影はこちらへ向かってこない


 木々の間を横切り、そのまま森の奥へ走っていく


 一瞬しか見えなかった


 四本脚


 低い身体


 灰色というより黒に近い毛


 そして、走るたびに背中付近で何か硬そうなものが光った


「AI先生!」


『映像を記録しました』


「グレア?」


『現時点では判定できません』


 ガルドが何か叫んだ


 その中に、はっきり聞き覚えのある音があった


「グレア!」


 結衣は森の奥を見る


「……あれが?」


 ガルドは追わない


 剣を構えたまま、影が消えた方向をしばらく見ている


 レオルも近づいてきた


 二人が短く言葉を交わす


 今度は結衣から尋ねた


「AI先生、何て言ってる?」


『解析します』


 会話を聞きながら少し待つ


『「一つ」「逃げた」に近い意味を持つ可能性のある発話を確認しました。ただし完全な翻訳ではありません』


「一匹だけだったってこと?」


『その可能性があります』


「でも昨日は二匹かもしれないって言ってたよね」


『作業者の発話をそのように推定しています』


「じゃあもう一匹いるかもしれない?」


『否定できません』


「それ一番嫌なやつ……」


 逃げてくれたことに安心しかけた気持ちが、すぐ戻ってしまった


 ガルドも同じことを考えているのか、剣をまだ収めない


 レオルが周囲を見渡す


 そして結衣が初めて見る動きをした


 右手を胸の前まで上げ、指先を軽く開く


「あ」


 結衣は思わずその手を見る


 小さな光が生まれた


 前に見たものと同じだった


 何も持っていないはずの指先の近くで、橙色の光が一瞬揺らぎ、すぐに小さな炎になる


「やっぱり出せるんだ……」


 レオルは炎を大きくしなかった


 手のひらより小さい程度に保ったまま、森の奥へ向ける


 何のためなのか結衣には分からない


「AI先生、撮れてる?」


『記録しています』


「何してると思う?」


『不明です。照明目的としては周辺照度が十分に高いため、別の用途である可能性があります』


「追い払うとか?」


『可能性はあります』


 レオルが炎を見せたまま何か大きな声を出す


 森へ向かって呼びかけているようにも聞こえる


 結衣には一つも分からなかった


 しばらく待っても、何も出てこない


 やがてレオルが手を閉じる


 炎が消えた


 煙も、燃え残りもない


「……やっぱり変だよね」


『既知の燃焼現象のみでは説明困難です』


「熱はあるのかな」


『映像のみでは測定できません』


「触るのは嫌だよ?」


『接触を推奨していません』


「ならよかった」


 ガルドがようやく剣を鞘へ戻した


 ただし完全に警戒を解いたわけではない


 レオルも荷車へ戻りながら、結衣へ何か話しかける


 今度は知らない言葉がいくつも混ざっていた


 結衣は最初の数秒だけ頑張って聞いて、すぐ諦めた


「AI先生、お願い」


『解析します』


 レオルの発話が終わる


『確度は中程度です。「グレア」「危険」「この先」「一緒に行く」に近い内容が含まれていると推定します』


「一人にならない方がいいってことかな」


『その可能性があります』


 結衣はレオルを見る


 自分を指し、次にレオルとガルドを指した


「一緒に行く」


 今知っている言葉だけを使って伝える


 レオルが頷いた


「はい。一緒に行く」


「あ」


 結衣は少し目を見開いた


 今の言葉は分かった


 AI先生が訳す前に、自分で分かった


 短い言葉だったし、さっき意味を教えてもらったばかりの表現も混ざっている


 それでも嬉しい


「分かった」


 結衣はもう一度頷いた


「私も一緒に行く」


 どこまで正確に伝わったのかは分からない


 けれどレオルは笑って頷いてくれた


 結衣もつられて少し笑う


 AI先生に訳してもらわなければ、まだ長い話は分からない


 知らない単語だって山ほどある


 さっきのガルドと作業者の会話なんて、自分一人なら「グレア」という音以外ほとんど理解できなかっただろう


 でも、AI先生が意味を絞ってくれる


 言い方を教えてくれる


 それを聞いて、実際に使って、相手の反応を見る


 何度か繰り返した言葉なら、自分でも少しずつ分かるようになる


 それでいいのだと結衣は思った


 いきなりこの世界の言葉を話せるようになる必要なんてない


 今日より明日、明日よりその次の日に、少しずつ増えていけばいい


「AI先生」


『はい』


「さっきのグレア、ちゃんと残しといてね」


『映像、音声、遭遇位置、周辺状況を記録しています』


「次に見たら分かる?」


『外見的特徴が十分に一致すれば、同種である可能性を提示できます』


「じゃあ次は、私より先に見つけて」


『可能な範囲で監視します』


「お願いします」


 結衣は胸元のスマートフォンを軽く押さえ、それから前を向いた


 荷車が再び動き始める


 今度はガルドが少し前を歩き、レオルが手綱を握りながら周囲を見ていた


 結衣はその二人から離れないように歩く


 グレアが消えた森の奥は、もう静かだった


 けれど結衣はさっきまでとは少し違う目で木々の間を見るようになっていた


 ただ怖がっているだけではない


 枝が揺れていないか、何かが動いていないか、自分でも探している


 見落としたものはAI先生が補ってくれる


 AI先生に分からないものなら、レオルやガルドの反応を見る


 そして言葉が分からなければ、また翻訳してもらえばいい


 一人で全部できる必要はない


 そう思えるだけで、森の中を進む足取りは少しだけ軽くなった


 しばらくすると、木々の隙間から明るい場所が見え始めた


「……あれ?」


 結衣は目を細める


 森が途切れている


 その向こうには、これまで歩いてきた細い道とは比べものにならないほど広い道が横へ伸びていた


 土の上には何本もの轍が重なり、人の足跡も数えきれないほど残っている


 そして遠くから、かすかに聞こえてきた


 人の声だった


 一人や二人ではない


 何人もの声が、風に乗って届いている


 結衣の顔がゆっくり明るくなる


「AI先生」


『はい』


「今度こそ……人がたくさんいる?」


『複数の人声を検出しています』


 結衣は思わずレオルを見る


 聞きたいことはすぐ決まった


 けれど、それを現地語でどう言えばいいのかは分からない


「AI先生、『この先に人がたくさんいるの?』って、どう言えばいい?」


『現在までに解析した語彙と構文から、短い表現を生成します。発音を案内します』


「お願い」


 AI先生が短く区切りながら音を教える


 結衣は一度小さな声で真似してみた


『二語目の発音を修正してください』


「こっち?」


『はい。先ほどより近いです』


「よし」


 結衣は少し緊張しながらレオルへ近づいた


「レオル」


 振り返った彼へ、森の向こうを指す


 そして、AI先生に教えてもらったばかりの言葉を、間違えないようゆっくり口にした


「この先、人、たくさん?」


 レオルが一瞬目を見開いた


 今までの単語をつないだだけの会話より、少し文章らしくなったからかもしれない


 やがて彼は笑い、頷いた


「はい」


 それから森の向こうを指す


 続けて一つの言葉を口にした


「ナール」


 結衣は瞬きをした


「……ナール?」


 ずっと目的地だと思っていた言葉


 レオルがもう一度、森の向こうを指す


「ナール」


 遠くから人の声が聞こえる


 広い道が見える


 けれど、まだ建物そのものは見えていない


 結衣は胸の奥に期待が膨らむのを感じながらも、すぐに決めつけるのはやめた


「AI先生」


『はい』


「ナールって、町の名前なのかな」


『その可能性は高まりました。ただし現時点では、集落、地域、街道上の施設など他の可能性も残ります』


「じゃあ、行って確認しよう」


 結衣は森の向こうを見つめる


 答えはもう、それほど遠くなさそうだった

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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