現状
「前後不覚になるまで飲みやがって……。」
「申し訳御座いません。」
「これで最後にしろよ。」
「肝に銘じます。」
「じゃあお前の名前は横田甚五郎。殿である武田勝頼様より足軽大将に指名され、今は私と共にここ高天神の守りを任されている。」
「……横田甚五郎。殿が武田勝頼。」
「様を忘れてはならぬぞ。」
「……武田勝頼様。と言う事は私が居るのは……。」
戦国時代。
「足軽大将……。」
「重要な役目を担っている。故に生活態度には気を配っていただきたい。」
「……わかりました。もう1つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「私の名か?」
「……すみません。」
「何を言われても驚かぬ。私の名は岡部元信。元は今川の家臣で故あって武田信玄公に仕える事に相成った。今は殿の下、武田の水軍を率いると共にここ高天神を守る役目を仰せつかっている。」
横田甚五郎「……高天神?」
岡部元信「おぅ対徳川最前線の拠点。ここ高天神を任されている。それは其方も同じだ。」
横田甚五郎「斯様な重き役目を……。」
岡部元信「事の重大さを思い出していただけたかな?」
(エライ所に来てしまった……。)
横田甚五郎「今の状況は?」
岡部元信「徳川に囲まれておる。」
横田甚五郎「と言う事は……。」
長篠後。
横田甚五郎「殿の救援は?」
岡部元信「何度も催促しているであろう?」
横田甚五郎「私が!?」
岡部元信「行き来しているのは其方だぞ。」
横田甚五郎「その結果は……。」
岡部元信「見ての通り。1年近くそのまま。交代の部隊も到着する事が出来ていない。殿も動かれているのは承知している。ただ北条氏政にその行く手を阻まれてしまっている。」
横田甚五郎「武田と北条は……。」
岡部元信「元々は仲が良かった。私が昔居た今川も含めてな。しかし今はバラバラ。今川は地図から消え、武田と北条の仲も上杉の家督争い以降敵対続き。これを見越して家康はここの周りに砦を築き始めた。」
横田甚五郎「その間我らは……。」
岡部元信「ここを守るのに手一杯。とてもでは無いが追い払える状況に無かった。今思えば、その間にこの城に見切りを付けても良かったのかも知れないがな。勿論そのような事はせぬ。ここ高天神は殿より預かった地。殿の撤退命令が無い限り、ここを離れる事は無い。これは今後も変わらない。尤も撤退命令が出たとしても……。」
横田甚五郎「食糧の方は?」
岡部元信「ん!?兵糧の事か?まだ問題は無い。」
脱出するのは不可能ではあるがな。




