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「真実の愛」に翻弄され「お前を愛することはない」と言われた令嬢が本当に欲しかったもの  作者: 北森八雲


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01. 真実の愛を叫んだ7人

 このヴァルドワーズ王国には『真実の愛世代』と揶揄される者がいる。

 そしてそれに該当するのは現国王であるピエール・ヴァルドワーズ、そして王家の傍系であるオーベルヴィリエ公爵家の現当主であるシモン・オーベルヴィリエらの世代であり、かつて彼らが学生だった頃、「真実の愛」を叫んで婚約者の令嬢へ一方的に婚約破棄を突きつけたことから、こんなあだ名が囁かれているのである。


 当時、先王や先代貴族当主の間で優秀な平民を登用しようという動きが高まっていた。かつての王権が強かった頃から時代が流れ、各国とも王家や貴族家の力が弱まり、平民達の力が強くなっていた。魔法を代替する技術が発展し、かつての魔力第一主義が失われつつあることもそれを後押ししていた。

 ヴァルドワーズ王国も例に漏れなかったが、先王や先代当主達は闇雲に平民と対立するよりも、優秀な者を積極的に取り立てることで役立てようと考えた。同時に平民達の不満のガス抜きも図る腹づもりであった。


 そしてその政策の1つとしてこれまで貴族の子女達のみに門戸を開いていた王立学園に平民出身の特待生を入学させる試みがなされた。初めの数年は非常に上手くことが運び、優秀な者を新たに発掘できたとともに、貴族子女達にも良い刺激となり、世代全体の成績が向上した。

 問題は当時の王太子ピエール・ヴァルドワーズや公爵令息シモン・オーベルヴィリエらの世代で起こった。その学年は王太子ピエールの存在により、高位貴族の令息が多い世代であり、また彼らの婚約者である令嬢も多数入学していた。

 そしてこの時に入学した平民の特待生が女子生徒ばかり7人。王立学園に入学できる優秀な者であるから、平民の中では上流家庭に位置するが、それでも所作は生粋の貴族令嬢とは異なる。例えば貴族令嬢であれば表情をあらわにすることははしたないこととされ、常に表情を表に出すことなく柔和な笑みを浮かべているものである。これはともすれば表情のない人形のようだと揶揄されるが、貴族社会は苛烈な足の引っ張り合いが起きがちであり、高位貴族ほど表情を読まれ腹の中を探られるわけにはいかないのである。一方、平民達にはその必要はない。年頃の少女らしく嬉しいときは笑い、悲しいときは泣く。平民との距離が近い下位貴族の子女にとっては平民の所作は見慣れたものであったが、距離の遠い高位貴族の令息にとっては彼女らのくるくる変わる表情は魅力的に映った。そしてもう1つ、異性との距離の違いも彼らにとって新鮮だった。貴族令嬢であれば家族や婚約者以外の男性にみだりに近づくことはない。たとえ誤解でも婚約者以外の男性との不貞が噂されれば、令嬢としては致命的だからだ。二人きりになるなど言語道断だ。しかし平民の少女達は貴族令嬢ほど厳密に距離をとったりはしない。もちろんはしたないと言われない程度の距離感は保つものだが、近づいた貴族令息から「もっとこちらへおいで」などと誘われれば、彼女らは許されたと思い込み、彼女と彼らが不適切な距離になるまで時間はかからなかった。婚約者の令嬢達が諫めても聞く耳を持たず。それどころか令息側は「平民というだけで嫌がらせをするのか!」と激昂する始末。下位貴族の子女達はそんな高位貴族と平民の少女達の痴態を遠巻きに眺めるだけであった。


 そして決定的となったのが彼ら・彼女らが最終学年になったときの建国祭だった。大勢の貴族達が集まる夜会で彼らは婚約者の令嬢に婚約破棄を突きつけたのである。

 よくある恋愛小説の婚約破棄劇では一人の少女を複数の令息が取り囲み、その中で最も地位の高い令息が婚約破棄を叫ぶ。しかし、この場合は違った。7人の令息がそれぞれ異なる平民特待生の少女の腰を抱き、7組の婚約破棄が一斉に行われたのだ。


「「「「「「「貴様との婚約を破棄する!!」」」」」」」


 婚約破棄を突きつけられた令嬢達はまずこう思ったそうだ。『声が綺麗に揃ってすごいね』と。


 婚約破棄、みんなで叫べば怖くない。


 惨憺たる光景に、愕然として顎が外れた紳士が数名、卒倒した婦人が十数人、その中には王妃も含まれていた。そして婚約破棄を突きつけた令息達はピエール王太子を筆頭として2家の公爵令息の嫡男、3家の侯爵家の嫡男、1家の辺境伯の嫡男とそうそうたるメンバーであった。対する婚約者の令嬢達は王太子の婚約者こそ筆頭侯爵家の令嬢だったが、他は伯爵家以下の娘達で、令息達よりも立場が弱かった。そして令息達が一人の少女ではなく、それぞれ別々の少女と逢瀬を重ねていたのも令嬢達には不幸だった。一人だったら最悪その娘を内々に処理してしまえばいいが、7人となると難しい。しかも彼女らは国策で支援している特待生であるからなおさらまとめて始末するだなんてことはできない。そして対応しなければならない横取り女が7人とばらけたため、令嬢側が足並みを合わせられなかったのである。


 この婚約破棄劇は令嬢側に極めて不利な形で終わった。


「真実の愛、良いではないか。新しい時代の象徴だ。皆で祝おうぞ」


 当時の国王がこんなことを宣ったのである。

 国王は一人息子のピエールを溺愛しており、甘やかして育てていた。そしてそれを止められる王妃が婚約破棄劇の惨状に卒倒してしまい、不在となっていたのが災いした。

 王が祝福してしまったおかげで、令息達の『真実の愛』はなし崩し的に成就し、一方的に婚約破棄を食らった令嬢達はほぼ泣き寝入りとなってしまった。彼女たちは恨みを込めて、婚約者を奪った平民の特待生の少女達をこう呼んだ、『略奪平民女』と。


 当時流行っていた『7人の騎士』という演劇にあやかり、彼らは『7人の婚約はきし』や『7人のうわきし』と等と影で揶揄されることになった。そして彼らと同世代の令息令嬢は『真実の愛の世代』などと囁かれた。もっとも、当事者の令息は高位貴族の出身のため、彼らに面と向かってそのような発言はできず、もっぱら揶揄されたのはたまたま同世代だった関係のない下位貴族の令嬢令息だった。完全にとばっちりであり、気の毒でしかない。


 そして婚約破棄の余波は国中に広がった。婚約破棄を告げられた令嬢達は新たな婚約者を見つけなくてはならなかったが、見つかればいい方で、中には「婚約者の心を繋ぎ止められない役立たずの娘なんぞいらぬ」と修道院に送られる気の毒な令嬢もいた。当の婚約破棄をしかけた令息の家も王家と公爵家2家は一人息子だったが、他の家は弟妹がおり、彼ら彼女らの婚約も宙に浮いた。何せその家には略奪平民女とその女に真実の愛を囁いた次期当主がいるのである。そんな家と関係を結びたいというまともな家はなかった。地位のある侯爵家や伯爵家には『真実の愛とはよござんすな。我が家には理解できませんわ』とつっけんどんに断られたため、その下の子爵家や男爵家に権力にものを言わせて婚約をねじ込まれる事態が勃発した。その結果、下位貴族達の婚約にも無駄に組み替えが生じ、玉突き式にあぶれて婚約相手を失った下位貴族の子女が泣きを見ることになってしまった。

 国内貴族達のゴタゴタをよそに、婚約破棄をしかけた『真実の愛』の当事者達は当時の王に祝福されたことで堂々と睦み合い、愛を囁き合っていたのだから、本当に理不尽である。

7組一斉の、婚約破棄。絵で見てみたい(地獄)

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