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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドのお仕事の基本5つの法則 ~新人職員アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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【PREP法】結論から伝える報告術 4/5

夕刻。王都ギルドの重厚な扉が、乱暴に蹴り開けられた。


「負傷者を運べ! 重傷者は奥のベッドへ! 手が空いている者は止血を手伝え!」


血と泥に塗れたバルトス支部長を先頭に、救助隊が帰還した。

 無事に救出された『緑の風』の三人を含む、十数名の負傷者が次々とギルドのロビーに運び込まれる。血の匂いと呻き声が充満し、普段は落ち着いているギルド内が、野戦病院のような大混乱に陥った。


「ポ、ポーションが足りない! 誰か倉庫から持ってきて!」

「だめだ、この傷はポーションじゃ塞がらない! 治癒士の先生はまだか!」


魔法を使えるエリート職員のカイルでさえ、パニックに陥り、治癒魔法の詠唱を何度も噛んで失敗している。

 そこへ、ギルドの扉から足早に入ってくる初老の男の姿があった。街で一番の腕を持つと言われる高位治癒士、オズワルド先生だ。彼は腕は確かだが、非常に気難しく、無能な人間を容赦なく見捨てることで有名な人物だった。


「騒々しい! わしを急いで呼び出しておいて、この有様は何だ!」


オズワルドの怒声に、カイルがビクッと肩を震わせ、すがりつくように駆け寄った。


「オ、オズワルド先生! お待ちしてました! あの、えっと、バルトス支部長たちが戻ってきたんですけど、怪我人がたくさんいて、こっちの人は腕から血が出てて、あっちの人は足を折ってて、それで……!」

「ええい、やかましい! 順番に説明しておる暇などないわ! 全員瀕死に見えるが、わしの魔力にも限界がある。誰から、どんな魔法をかければいいのか教えんか!」


オズワルドが杖を床に打ち付ける。

 カイルは顔面を蒼白にさせ、言葉を詰まらせた。彼の頭の中では、すべての負傷者が「急を要する」状態に見えており、優先順位が全くつけられていないのだ。


――あ、今のカイル、朝の私と全く同じだ。


救急箱を抱えて走り回っていたアリサは、その光景を冷静に見つめていた。

 魔力がないから役に立たない? 違う。今のこの混乱した現場を救うのは、魔力ではなく、情報を正しく伝達する力だ。


アリサは深く深呼吸をすると、オズワルドとカイルの間にスッと割って入った。


「オズワルド先生!」

「なんだ小娘! 魔法も使えん受付嬢が邪魔をするな!」

「今から状況を報告します! 先生は、奥の特別室に運ばれた『緑の風』の三人の治療を【最優先】でお願いします!」(P:結論)


キッパリと言い切ったアリサの声に、オズワルドがピタリと動きを止めた。


「……理由はなんだ。ここに転がっている連中も重傷だぞ」

「奥の三人は、未知の魔物から『魔毒』を受けている可能性が高いからです」(R:理由)


オズワルドの目の色が変わった。魔毒と物理的な傷では、対処法が根本から違うからだ。


「ロビーにいる他の負傷者は、打撲や裂傷などの物理傷がメインです。そちらはすでにカイルたち魔法職員が下級治癒で止血し、命の別状がない状態まで安定させています。しかし、奥の三人は傷口が黒く変色し、高熱を出しており、下級魔法では悪化の一途を辿っています」(E:具体例)

「だから、ロビーの負傷者は私たちに任せ、先生は一秒でも早く、奥の三人の解毒に全力を注いでください!」(P:結論)


言い終えたアリサは、オズワルドの目を真っ直ぐに見つめ返した。

 数秒前まで苛立ちを露わにしていたオズワルドは、ふっと口元を緩め、持っていた杖をくるりと回した。


「……簡潔で、完璧なトリアージ(優先順位づけ)だ。受付の小娘にしておくには惜しいな」

「え……」

「おいそこの若造魔法使い! お前はこの小娘の指示に従って、ロビーの止血を続けろ! わしは奥へ行く!」


オズワルドは呆然としているカイルを一喝すると、迷いのない足取りで特別室へと急行した。

 それからの行動は迅速だった。オズワルドの高度な解毒魔法によって『緑の風』の三人は一命を取り留め、ロビーの負傷者たちも、アリサの的確な指示出しとカイルの魔法によって、一人も欠けることなく処置を終えることができた。


深夜。

 血に染まった床の掃除を終え、ようやくギルドに静寂が戻ってきた頃。


「アリサ……」


モップを洗っていたアリサの背中に、疲れ切った声がかけられた。カイルだ。

 彼はいつも見下していたアリサに対し、気まずそうに、しかし深く頭を下げた。


「ごめん。俺、魔力があるだけで仕事ができてる気になってた。あの時、お前がオズワルド先生に説明してくれなかったら、絶対に助かってない命があった。……お前、すごいな」


カイルのその言葉に、アリサは驚きで目を丸くした。

 魔力エリートの彼から、認められる日が来るなんて思いもしなかったからだ。


「ううん、私一人の力じゃないよ。カイルの治癒魔法があったから、ロビーの人たちを助けられたんだし。私はただ……少しだけ、言葉の魔法を使っただけ」


アリサが照れくさそうに笑うと、カイルもつられたように小さく笑った。

 その様子を、少し離れたカウンターの陰から、シレーヌとバルトス支部長が見つめていた。


「どうやら、ヒヨッコが一つ殻を破ったようだな」

「ええ。魔力という『力』に振り回されるのではなく、言葉という『魔法』で人を動かした。見事なPREPでした」


シレーヌは満足げに微笑むと、手元のバインダーの【新人評価シート】に、サラサラとペンを走らせた。

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