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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドのお仕事の基本5つの法則 ~新人職員アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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3/25

【PREP法】結論から伝える報告術 3/5

「支部長!」


怒号が飛び交うギルドの喧騒の中、アリサはバルトス支部長の背中に向かって声を張り上げた。

 振り返ったバルトスの顔には、隠しきれない焦燥と苛立ちが浮かんでいる。


「アリサか! 悪いが、今はお前の長話に付き合っている暇はない! 水晶玉(通信機)班、まだ位置は特定できないのか!」

「申し訳ありません、森の魔力干渉が強くて……!」


魔法を使える先輩職員たちが悲鳴のような声を上げる。頼みの綱の魔法が、今は全く役に立っていない。

 アリサは一瞬怯みそうになったが、ギュッと拳を握りしめ、シレーヌから教わった『言葉の魔法』を脳内で展開した。


――まずはP(結論)。一番伝えたいこと、相手に取ってほしい行動!


「対象の初心者パーティーは三人組の『緑の風』。現在地は西の森の『嘆きの巨木』周辺です。救助隊をそこへ直行させてください!」


凛とした声が、騒然としていたギルド内に響き渡った。

 バルトスの動きがピタリと止まる。彼は目を細め、値踏みするようにアリサを見下ろした。


「……根拠は?」


――次はR(理由)。なぜその結論に至ったのか!


「今朝、私が直接彼らの出発手続きを行い、依頼内容と目的地を確認したからです」


バルトスの表情から、苛立ちがスッと消えた。代わりに、指揮官としての鋭い思考の光が目に宿る。


――そしてE(具体例)。説得力を持たせる事実!


「彼らの依頼は『ヒカリゴケ』の採取でした。西の森でヒカリゴケが群生しているのは、水場に近い『嘆きの巨木』の周辺のみです。今朝六時の出発時刻と、初心者パーティーの徒歩のペースを計算すると、現在ちょうどその地点で作業中の可能性が極めて高いです」


ギルド内が水を打ったように静まり返った。

 魔法の水晶玉を覗き込んでいた職員たちも、唖然としてアリサを見つめている。


――最後に、もう一度P(結論)! 魔法を完成させる!


「ですので、森を闇雲に散策するのではなく、『嘆きの巨木』へ部隊を直行させれば、確実に彼らを救出できます!」


言い切った。

 アリサの心臓は早鐘のように鳴っていた。もし間違っていたら。もし信じてもらえなかったら。魔力を持たない自分の言葉など、ただのノイズとして片付けられてしまうのではないか。


しかし、数秒の沈黙の後。

 バルトスはニヤリと、猛禽類のような獰猛な笑みを浮かべた。


「……素晴らしい。完璧な報告だ」

「えっ……」

「聞いたな野郎ども! 目標は西の森、『嘆きの巨木』だ! 寄り道はするな、一直線に向かって『緑の風』のガキ共を連れ帰るぞ!」

「「「おおおおっ!!」」」


待機していた武装した冒険者たちが一斉に雄叫びを上げ、ギルドの扉から飛び出していく。バルトスもその最後尾に続き、すれ違いざまにアリサの肩をポンと叩いた。


「助かったぞ、アリサ。お前のおかげで命が拾える」


その言葉を残し、支部長は風のように去っていった。

 後に残されたアリサは、呆然と自分の両手を見つめた。


伝わった。動いてくれた。

 あんなに怒鳴り散らしていた支部長が、私の言葉を信じて、数十人の命運を左右する決断を下してくれたのだ。


「……これが、言葉の魔法」


「どう? 魔力がなくても、世界は動かせるでしょう?」

 背後から聞こえた静かな声に振り返ると、シレーヌがいつものように涼しい顔で立っていた。


「シレーヌ先輩……! はい、私、言えました。順番を変えただけなのに、支部長が全然違う反応をしてくれて……」

「それが『型』の力よ。人は、自分が聞きたい順番で情報が入ってこないと、無意識に相手の話をシャットアウトしてしまう生き物なの。逆に言えば、相手の脳が『処理しやすい順番』で言葉を届けてあげれば、どんなに厳しい相手でもスッと受け入れてくれる」


シレーヌはアリサの頭を軽くポンと撫でた。普段は厳しい先輩の珍しい労いに、アリサの頬がパッと赤く染まる。


「さあ、余韻に浸っている暇はないわよ。救助隊が戻ってくるまでに、負傷者受け入れの準備と、治癒士の手配。これも全部、的確な『報告と指示』が必要になるわ。できるわね?」

「はいっ!」


アリサの返事は、先ほどまでのオドオドしたものではなく、確かな自信に満ちたものに変わっていた。


その日の午後。

 アリサは包帯やポーションの在庫確認を終え、同僚の受付係であるカイルの元へ向かった。

 カイルは魔法学校を優秀な成績で卒業したエリートで、いつもどこかアリサを「魔力なしの荷物持ち」と見下している節があった。


「ねえカイル、治癒士の先生たちへの手配なんだけど」

「あー、ごめんアリサ。俺今、別の書類作成で忙しくてさ。後にしてくれない?」


カイルはペンを宙に浮かせたまま、面倒くさそうに顔を背けた。

 いつもなら「あ、ごめんなさい……」と引き下がっていたアリサだが、今の彼女の胸の中には、シレーヌから授かった武器がある。


――試してみよう。日常業務でも、この魔法が通用するのかどうか。


「カイル、3分だけ時間をちょうだい。治癒士の先生への連絡リスト、今のうちに分担しておかないと後でパニックになるわ」(P:結論)

「……なんで?」

「救助隊からの先行通信によると、負傷者が予想以上に多いらしいの。全員が戻ってきてから手配を始めたら、絶対に間に合わなくなるからよ」(R:理由)

「たとえば、重傷の冒険者が三人同時に運び込まれたとするでしょ? カイル一人じゃ応急処置の魔法も追いつかないし、最悪の場合、手遅れになってギルドの責任問題に発展するわ」(E:具体例)

「だから今のうちに、私とカイルで半数ずつ、街の治癒院に応援要請を出しておくべきだと思うの。手伝ってくれる?」(P:結論)


カイルは宙に浮かせていたペンをパタリと机に落とし、目を丸くしてアリサを見た。


「……わかった。リストの半分、こっちに回して」


カイルが素直に手を差し出したのを見て、アリサは心の中で小さくガッツポーズをした。

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