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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドのお仕事の基本5つの法則 ~新人職員アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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【PREP法】結論から伝える報告術 2/5

「P・R・E・P……プレップ、ですか?」


アリサが羊皮紙に書かれた文字を指でなぞると、シレーヌは静かに頷いた。周囲では、他の職員たちが魔法で通信用の水晶玉を光らせ、次々と情報を集めている。魔力を持たないアリサにとって、その光景はいつも自分を透明人間のように感じさせるものだった。


「そう。魔力を持つ者たちが炎や水を生み出す時、頭の中で魔力構成イメージを組み立てるでしょう? それと同じよ。言葉の魔法にも、必ず守るべき『構成』があるの」


シレーヌはアリサの隣に立ち、羽ペンを手に取って羊皮紙のアルファベットの横にさらさらと文字を書き込んだ。


「Pは『Point』。つまり、結論よ。一番伝えたいこと、あるいは相手に取ってほしい行動を最初に宣言するの。詠唱の始まりね」

「最初に、結論……」

「Rは『Reason』。理由。なぜその結論に至ったのか、根拠を示す。そしてEは『Example』。具体例や事実よ。さっきあなたが言っていた『折れた弓』や『猟師の証言』はここに入るわ。最後に、もう一度Pの『Point』。結論を繰り返して、魔法を完成させる」


結論、理由、具体例、そしてもう一度、結論。

 アリサは頭の中でその四つの言葉を反芻した。


「アリサ、さっきのあなたの報告を思い出して。あなたは『朝の霧が深くて』という状況説明から話し始めたわね。あれは魔法で言えば、無駄に魔力を垂れ流しているだけの状態よ。相手には熱も光も届かない」

「……はい。起きた順番に話さないと、伝わらないと思っていました」


「起きた順番なんてどうでもいいの。相手が知りたいのは『今、どういう状況か』と『自分はどう動くべきか』だけ。……さあ、西の森の件を、この『P・R・E・P』の型に当てはめてごらんなさい」


アリサはギュッと目を閉じた。

 魔力がない自分にも、魔法が使えるのだろうか。半信半疑のまま、頭の中に散らばっていた情報のおもちゃ箱をひっくり返す。

 朝の霧。駆け込んできた猟師。巨大な影。折れた弓。そして――薬草を採りに行った初心者パーティー。


一番重要なことは何だ?

 支部長にどうしてほしかった?


アリサは目を開き、深呼吸をした。胸の奥で、散らかっていた言葉たちがスッと一本の線に繋がる感覚があった。


「P(結論)……西の森に、強力な未知のモンスターが出現した可能性が高いです。初心者パーティーが危険なので、至急、救助隊を派遣してください」


シレーヌが微かに目を細め、先を促すように頷く。


「R(理由)……なぜなら、熟練の猟師ですら武器を壊され、逃げ帰ってくるほどの異常事態だからです」

「E(具体例)……猟師の証言によると『岩のような巨大な影』に遭遇したとのことです。しかも猟師が逃げる途中で、薬草採取に向かった初心者パーティーとすれ違っています」

「P(結論)……したがって、初心者の実力では全滅の恐れがあります。今すぐ西の森へ向かってください」


言い終えた瞬間、アリサは自分でも信じられない思いだった。

 あんなにパニックになって、ダラダラと喋り続けていた内容が、たったこれだけの言葉に圧縮された。しかも、自分が何を伝えたいのかが、恐ろしいほどクリアに分かる。


「……すごい」


アリサの呟きに、シレーヌは初めて、ほんのわずかだけ口角を上げた。


「それが『言葉の魔法』よ、アリサ。これなら魔力がなくても使えるでしょう?」

「はい……! 私にも、できました!」

「喜ぶのはまだ早いと言うべきね」


シレーヌが視線を向けた先では、バルトス支部長が大剣を背負い、救助隊の第一陣をまとめ終えていた。

 彼は顔をしかめながら、苛立った大声で叫んだ。


「おい! 先行部隊は出たが、まだ状況が正確に掴めん! さっきの猟師の件、あの時すれ違った初心者パーティーの名前と人数、それに正確な場所の記録は出たか!?」


ギルド内が再び慌ただしくなる。

 魔法を使える職員たちが水晶玉や書類の山をひっくり返して探し始めるが、情報が交錯していてすぐには出てこない。


「アリサ」


シレーヌの声が、背中を押すように響いた。


「今こそ、魔法を放つ時よ。あなたのその目で見た記録を、一番届く形で放ちなさい」


アリサはバインダーを強く抱きしめた。

 魔力はない。空を飛ぶことも、炎を出すこともできない。

 けれど今、私の頭の中には、誰よりも早く、正確に事態を動かすための「呪文」が装填されている。


「……はい!」


アリサは大きく息を吸い込み、鬼の形相で部下を怒鳴り散らしているバルトス支部長に向かって、真っ直ぐに駆け出した。

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