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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドのお仕事の基本5つの法則 ~新人職員アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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23/25

【SMARTの法則&メタ認知】伝説の受付嬢への道 3/5

開戦から六時間。正午。

 王都の防衛戦は、熾烈を極めていた。


「ポーションの在庫、残り三割です! 前線への輸送ペースを少し落とし、重傷者用に確保してください!」

「こちらの怪我人は右上の箱、【重要かつ緊急】です! すぐに治癒魔法使いを!」


南門の補給テントでは、アリサが声を枯らして指揮を執っていた。

 次々と運び込まれる負傷者、減っていく物資。絶え間なく飛び交う怒号と悲鳴。

 それでも補給線が崩壊していないのは、アリサが『四つのアイゼンハワー・マトリクス』を使って完璧な優先順位をつけ、『PREP法』で迷いのない指示を出し続けているからだ。


(あと半分……! あと六時間耐えれば、市民の避難は完了する!)


アリサが汗を拭い、時計の針を見上げた、その時だった。


「上空に敵影!! 飛行型のガーゴイルの群れです!! 前線の防空網をすり抜けました!!」


見張り台からの悲痛な叫び声。

 空を見上げると、石の体を持つ不気味な魔物たちが十数匹、太陽を背にして補給テントへ向かって急降下してくるのが見えた。


「なっ……前衛を飛び越えて、直接補給線を!?」


テント周辺にいるのは、負傷した冒険者と、戦闘能力のないギルド職員だけだ。

 ズドォォン!! と凄まじい音を立てて、ガーゴイルの一匹がテントのすぐ横に降り立った。土煙の中から、鋭い石の爪が怪我人たちへと振り下ろされようとする。


「危ないっ!!」


アリサは思考より先に体が動いていた。

 近くに落ちていた折れた長剣を拾い上げ、怪我人の前に飛び出し、ガーゴイルに向かって構えたのだ。


(私が守らなきゃ……! この人たちを、守らなきゃ!!)


心臓が早鐘のように鳴り、膝がガクガクと震える。

 魔力を持たない受付嬢が、石の魔物に剣で立ち向かうなど自殺行為だ。ガーゴイルの赤い目がアリサを捉え、無慈悲な爪が振り上げられた。


「アリサ!!」

 遠くでカイルの叫び声が聞こえた。死を覚悟し、アリサが目をギュッと瞑った瞬間。


「――目を閉じない!!」


凛とした声と共に、アリサの体が後ろに強く引き倒された。

 直後、アリサが立っていた空間をガーゴイルの爪が薙ぎ払い、そのまま強烈な『氷の槍』がガーゴイルの頭部を貫いて粉砕した。


尻餅をついたアリサが見上げると、そこには杖を構えたシレーヌが立っていた。


「シ、シレーヌ先輩……!」

「馬鹿者! 自分が何をしているか分かっているの!?」


シレーヌの激しい怒声に、アリサはビクッと肩を震わせた。


「怪我人を庇って死ぬのが、指揮官の仕事かしら!? あなたが死ねば、この補給テントは完全に崩壊し、前線の千人が全滅するのよ!」

「でも、でもっ! 目の前で襲われて、私が助けないとって……!」

「パニックに呑まれて視野が極端に狭くなっているわ。アリサ、あなたの最後の魔法を使いなさい」


シレーヌは、ガーゴイルの増援が空から降りてくるのを氷魔法で牽制しながら、アリサを鋭く見据えた。


「自分の目線カメラを、自分の体から切り離しなさい。……天井から、このテント全体を見下ろすのよ」

「天井から、見下ろす……?」


「今、あなたは『怖い、助けなきゃ』という感情の中にどっぷり浸かっている。それをやめて、上空から自分自身を観察(実況)するの。『あ、受付嬢のアリサが剣を持って震えているな』『魔力もないのに無謀なことをしているな』とね。……これが、自分自身を客観視する最後の魔法、『メタ認知』よ!」


メタ認知。

 それは、パニックや感情に支配されそうになった時、もう一人の自分が「今の自分の状態」を冷静に俯瞰する技術。


アリサは深呼吸をし、目を閉じて、意識だけを空高くへと飛ばした。

 想像する。上空から見下ろした、この補給テントの光景を。


(……見えた。怪我人がパニックになって逃げ惑っている。ガーゴイルは五匹。そして、その中央で、剣もまともに振れない私が、ただ震えて突っ立っている)


客観的に見れば、自分が剣を持って戦うなど「最悪の一手」だ。

 私が持っている最大の武器は剣じゃない。「全体を把握し、言葉で人を動かす力」だ。


目を開けたアリサの瞳から、パニックの色は完全に消え去っていた。


「……シレーヌ先輩。ありがとうございます、私、戻ってきました」


アリサは長剣をその場に捨て、バインダーを拾い上げた。

 そして、空気を切り裂くような声で、周囲の護衛部隊に的確な指示を飛ばし始めた。


「護衛の重戦士部隊! 散開しないでください! 怪我人のテントを中心に『円陣』を組み、盾を上に向けて! ガーゴイルは空からしか来ません!」

「弓兵と魔法使いは円陣の中から、急降下してきた個体だけを狙い撃ち(カウンター)してください! 自分から狙いに行かなくていいです!」


アリサの迷いのない声(PREP法)が、恐慌状態に陥りかけていた護衛部隊の心に芯を通した。

 すぐに強固な円陣が組まれ、突っ込んできたガーゴイルが次々と弾き返され、撃ち落とされていく。


「……見事ね」

 シレーヌが、杖を下ろして微笑んだ。


「言葉の魔法を使いこなし、時間を支配し、チームを守り、失敗から学び……最後に、『自分自身の心』をコントロールする術(メタ認知)を手に入れた。もう教えることは何もないわ」


空からの奇襲部隊が全滅し、テントに再び秩序が戻った。

 アリサは胸に手を当て、自分の心拍がとても穏やかなリズムを刻んでいるのを感じていた。


どんなトラブルが起きても、もうパニックにはならない。

 私には、戦うための「型」がある。


そして、時刻は夕方の五時。

 市民の避難完了と、この十二時間に及ぶ防衛戦の終わり(タイムリミット)まで、あと一時間と迫っていた。

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