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『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドのお仕事の基本5つの法則 ~新人職員アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


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【PDCAサイクル】失敗を成功に変える改善術 1/5

「よぉし! 大地の竜も倒したことだし、来週はさらに難易度を上げて、北の氷結地帯にいる『フロスト・キマイラ』の討伐依頼を受けるぜ!」


昼下がりのギルドの酒場スペースで、ジョッキを高々と掲げたレオの声が響いた。

 昨夜の死闘を乗り越え、「心理的安全性」という心の盾を手に入れた『蒼天の流星』の三人は、すっかり意気投合し、上機嫌で次の冒険の計画を立てていた。


「キマイラか、いいわね! 私の炎魔法の火力を試すには絶好の相手だわ!」

「俺も、今度はもっと頑丈な『ミスリル鋼の盾』を新調していくぜ。竜の踏みつけを耐えたんだ、キマイラの一撃だって防いでみせる!」


ミーナもゴルドも、自信に満ち溢れた笑顔を見せている。

 カウンターからその様子を眺めていたアリサは、ホッと微笑みながらも、かすかな違和感を覚えていた。


(……確かにチームワークは良くなったけど、すぐにフロスト・キマイラに挑んで大丈夫なのかな?)


フロスト・キマイラは、大地の竜よりもさらに動きが素早く、凶悪な魔法を使ってくることで知られている。昨日の竜討伐で、ゴルドの盾は完全に砕け、ミーナは魔力切れを起こし、レオも満身創痍だった。

 いくら連携が取れていても、あの「ギリギリの勝利」のままさらに強い敵に挑むのは、無謀ではないだろうか。


「アリサ。あなたも気づいているようね」


背後から、静かな足音とともにシレーヌが近づいてきた。


「シレーヌ先輩……はい。レオさんたち、すごくいい雰囲気なんですけど、なんだか『勝ったから全部オーケー!』って浮かれているような気がして」

「その通りよ。今の彼らは、結果という強い酒に酔っているだけ。確かに心理的安全性によってチームは崩壊を免れたわ。でも、それはあくまで『マイナスをゼロに戻した』だけよ」


シレーヌは、バインダーに挟まれた昨日の『大地の竜討伐・結果報告書』を指先でトントンと叩いた。


「盾が砕けたこと。魔力が尽きたこと。回復薬の消費が想定の三倍だったこと。これらはすべて、放置すれば次は確実に死に繋がる『失敗の種』よ。勝ったからといって、この失敗から目を背けて次に進めば、いずれ必ず全滅するわ」

「じゃ、じゃあ、あのまま氷結地帯に行かせたら……!」

「ええ。キマイラの氷の牙に、今度こそ文字通り砕かれるでしょうね」


シレーヌの冷徹な言葉に、アリサは背筋が凍る思いだった。

 せっかく心を通わせた彼らが、無謀な突撃で命を落とすなんて、絶対に嫌だ。


「シレーヌ先輩! どうすれば、レオさんたちに今の危険を分かってもらえるんですか?」

「経験をただの『結果』で終わらせず、次への『力』に変換させる魔法が必要ね」


シレーヌは、アリサの『お仕事魔導書メモ』を開き、そこに羽ペンで一つの「円」を描いた。

 そして、その円を四等分するように線を引く。


「P、D、C、A……?」

 アリサがその文字を読み上げると、シレーヌは深く頷いた。


「そう。『PDCAサイクル』。成長の車輪を回す、第4の魔法よ」


シレーヌは四つのアルファベットを指差しながら、滑らかな声で解説を始めた。


「Pは『Plan(計画)』。Dは『Do(実行)』。Cは『Check(評価・反省)』。そしてAは『Action(改善)』よ。冒険者たちのほとんどは、依頼を受けて(Plan)、魔物と戦う(Do)。ここまではやるの」

「あっ……でも、レオさんたちは今、戦い(Do)が終わったばかりなのに、反省(Check)を飛ばして、すぐに次の氷結地帯の計画(Plan)を立てようとしています!」

「その通りよ、アリサ。やりっ放しで振り返りをしない人間は、絶対に成長しない。同じ失敗を繰り返し、やがて運が尽きた時に死ぬわ」


シレーヌは、ギルドのカウンター越しに、楽しそうに笑い合うレオたちを見据えた。


「あなたの仕事は、彼らの熱狂に冷水を浴びせ、無理やりにでも『Check(評価)』と『Action(改善)』の場に座らせることよ」

「冷水を……私が、ですか?」

「ええ。昨日の戦いで何が悪かったのか、次はどうすれば被害を減らせるのか。それを言語化させない限り、彼らに次のクエストの承認印ハンコは押してはいけないわ」


シレーヌの厳しい指示に、アリサはゴクリと唾を飲み込んだ。

 せっかく機嫌が良いレオたちに「昨日のダメだったところを反省しましょう」などと言えば、また不機嫌にさせてしまうかもしれない。心理的安全性が確保されたとはいえ、相手は血の気の多い冒険者だ。


しかし、アリサの手の中にある魔導書の「PDCA」の文字が、彼女の背中を強く押していた。

 嫌われてもいい。彼らの命を守るのが、受付嬢の本当の仕事なんだから。


「……分かりました。私、レオさんたちに『反省会』をさせてきます!」


アリサはバインダーを小脇に抱え、意を決してレオたちのテーブルへと歩き出した。

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