表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『雑用係の退魔師はいらない』と追放されたので辺境で静かに暮らします──え、封印が解けて大妖が復活? だから言ったのに  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

第14話「鎮めの巫女」

 大妖の涙が、地面に落ちて金色の光を散らした。


『ツムギ……わしは……もう……止まれぬ……』


 玉藻さまの声は、泣いていた。

 理性が暴走を必死に食い止めているが、封印が破れた衝撃で本能が勝りかけている。

 このままでは完全に理性を失い、三百年前と同じ災厄が繰り返される。


「止まれなくてもいいです」


 私は両手を広げた。


「私が、鎮めますから」


 〈鎮めの術〉──それは祖母から受け継いだ、一族秘伝の大封印術。

 通常の封印とは違う。力で押さえ込むのではなく、対象の魂に寄り添い、怒りや苦しみを鎮めることで力を静める術。

 鎮めの一族が「鎮め」と呼ばれる所以。


 だが、九尾の厄災を鎮めるには、術者の全霊力を注ぎ込まなければならない。

 祖母はこの術を使って、命を落とした。


『だめだ、小娘! その術を使えばお前は──!』

「大丈夫です」


 微笑んだ。


「慣れてますから──なんて、もう言いません」


 玉藻さまが目を見開いた。


「怖いです。死ぬかもしれないと思うと、足が震えます。でも──」


 コハクが私のそばに来た。

 小さな体で、私の足にすり寄っている。


「あなたを一人にしたくない。だから──やります」


 両手を地面につけた。

 全身の霊力を練り上げる。七割ではない。十割。全てを使う。


 白銀の光が、封印陣を中心に広がった。

 山の主を鎮めたときの何百倍もの規模。地下空間全体が、白い光で満たされていく。


「鎮めの術──『静謐の揺り籠』」


 光が玉藻さまを包み込んだ。


 攻撃ではない。これは──抱擁だ。

 怒りを受け止め、苦しみに寄り添い、孤独を癒す。三百年分の痛みを、丸ごと受け入れる。


『う……ぁ……』


 玉藻さまの目から、涙が溢れた。

 九本の尾が、暴れるのをやめた。

 巨大な体がゆっくりと小さくなっていく。


 大妖狐の姿が薄れ、その中から──一人の女の姿が現れた。


 長い金髪に、金色の瞳。狐の耳と九本の尾を持つ、人の姿をした玉藻。

 涙を流しながら、私の目を見つめている。


「玉藻、さま……」


『小娘。いや──ツムギ。お前は、馬鹿か』


 玉藻さまは人の姿のまま、私の前に膝をついた。

 その金色の瞳には、もう暴走の気配はない。深い深い慈愛だけがあった。


『こんな老狐のために、命を懸けるなど』

「老狐じゃないです。私の大切な──」

『わかっておる。わかっておるよ、ツムギ』


 玉藻さまの手が、私の頬に触れた。

 柔らかくて、温かい手だった。


『お前の術は──初代の鎮めの巫女にも勝る。お前に鎮められて、わしは──ようやく、三百年の怒りを手放せる』


 でも──体が限界だった。


 全霊力を注ぎ込んだ反動で、視界が暗くなっていく。

 膝から力が抜ける。倒れかける体を──。


「ツムギ!」


 ハヤテが受け止めてくれた。


「ば、馬鹿。全部使い切るやつがあるか……!」

「ごめん……ちょっと……やりすぎた、かも……」


 意識が遠のいていく。

 でも、やるべきことがもうひとつ残っている。


「玉藻さま……新しい封印を……」

『不要だ』


 玉藻さまが静かに言った。


『もう暴走はせぬ。お前の術で、三百年分の怒りは鎮まった。──だがこのままでは、わしの力が地上に溢れ出て人間に害をなす。力の大部分を封じる必要はある』

「なら……」

『コハク。おいで』


 コハクが玉藻さまの足元に駆け寄った。

 玉藻さまがコハクに手をかざすと、金色の光が二人を包んだ。


『わしの力の大部分を、この分霊に預ける。そうすれば力は分散され、害にはならぬ。──そして残りの力で、わしは人の姿を保てる』


「人の姿……それは……」


『もう封印の中には戻らぬ。お前のそばで暮らす。──それが、三百年の幽閉の対価だ。文句あるか?』


 文句なんてあるはずがない。


「……ありません」


 笑おうとしたけれど、もう力が残っていなかった。

 意識が落ちていく。


 最後に聞こえたのは、ハヤテの声だった。


「ツムギ。よくやった。──休め」


 温かい腕の中で、私は意識を手放した。


 薄れゆく意識の中で、たくさんの声が聞こえた気がした。


 ──すごい。あの大妖を、鎮めたのか。

 ──あれが、退魔力十二の雑用係……?

 ──違う。あの人は──。


 声は遠くなり、やがて静寂だけが残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ