王都での住居探し ②
5日後、再び王都の商業ギルドを訪ねる。担当が2人に増えていた。
「申し訳ありません、シュロモー様。彼がどうしても同行したいと」
「別に構わないが。無理を言ったんじゃないよな?」
顔見知りの男、トゥルネンファミリーのラシムに話しかける。ラシムはトゥルネンファミリーでも幹部級の位置にいる男だ。なんたって商業ギルドでこんな真似を……。住居探しを嗅ぎ付けられたんだろうな。
「無理は言っていませんよ。お久しぶりです、ドゥルーヴさん」
胡散臭い笑顔のラシムに、ため息が出そうになる。
「ドゥルーヴさん、お知り合いですか?」
エリンが俺の袖を引く。
「そうだな、知り合いだ。王都のいろんな情報に詳しい人でな」
ま、裏情報な訳だが。
「そうなんですね。よろしくお願いします」
エリンがニコニコとラシムに挨拶する。
「こちらこそよろしくお願いします。ゼウと申します」
ゼウ、ね。どちらかというと、こいつはティルキなんだが。知恵が働いてずる賢いというか抜け目無いというか。
ラシムも一緒に物件の内見に行く。最初の物件は例の貴族の持ち物とかいう屋敷だった。
「大きすぎるな」
「ですよねぇ」
部屋数は少なくとも10はあるだろう。離れもあるし庭もそれなりに広い。剣などの鍛練を行うには良いんだろうが、あいにく俺はウィザードだ。こんな広い庭は要らない。
中に入るまでもなくこんな大きな屋敷は借りられないと、エリンと意見が一致した。
「そうですか。彼の方はガッカリされるでしょうが、仕方がありませんね」
後の2件も狭かったり隣家との間が無かったりで、希望に沿う物ではなかった。
「やはりあの屋根裏付きの物件か」
「そうですね。あそこなら部屋数もありましたし」
エリンも賛成してくれた為、職員にあの物件を借りられるように伝えてもらう。
エリンが職員と話している間に、目立たないようにラシムに話しかける。
「ゼウ、オルハンに伝えてくれ。トゥルネンファミリーの気遣いは無用。ただし、場合によってはこちらから手を借りる事があるかもしれないと」
「承りました……。こちらの助けが必要で?」
「別口でだな。冒険者ギルドの極秘依頼が……あぁ、『月下のパパディア』が冒険者ギルドにいたな。今は彼らはどこを拠点としている?」
「東部に行っていました。もうすぐ帰ってくると思います」
「『月下のパパディア』の力を借りたい」
「分かりました。連絡しておきます」
エリンと職員が話し終わったようだ。必要物品はカナーン村で揃えられるし、家具は備え付けだ。もっとも必要最低限だからこちらが必要とする物がないとは限らない。
「ドゥルーヴさん、少しお買い物をしていきたいんですけど」
「付き合おう」
「あ、えっと……」
「俺は居ない方が良い?」
「居ない方がというか、その……」
「どうした?」
「あの、お友達と会っていきたくて」
「行ってくると良い。迎えが必要なら伝令鳥を寄越せば迎えに行くぞ?」
「お願いします」
エリンは案内役の職員と行ってしまった。これから商業ギルドで手続きをした後、商業ギルドの職員達と買い物をするのだそうだ。
「で?ゼウ。お前は行かなくて良いのか?」
「今日は非番でしたから」
にこやかに告げられた。
「何を企んでいる?」
「人聞きの悪い事を言わないでください」
「そのニンマリとした胡散臭い笑顔が、全てを台無しにしているぞ?」
「ヒドイですねぇ」
「で?」
「ドゥルーヴ様の冒険者ギルドの件、トゥルネンファミリーとしても放ってはおけないのです」
「敵対関係の組織の仕業か?」
「敵対関係の配下入りを狙う集団の仕業です。そこまでは分かっているのですが、なかなかしっぽを掴ませなくてですね」
トゥルネンファミリーとしても、独自で追っていたらしい。
「ちょうど良いから利用しようってか?」
「とんでもない。ただまぁ、貸しは作れるかもとは思いましたが」
「『月下のパパディア』の力を借りる件でチャラには出来ないか?」
「それはあまりにも……」
「なぜだ?元は裏社会の方でカタを付ける話だろう?」
「それはそうなのですが」
「こちらの手を使っても良いが?」
ラシムが黙り込んだ。
「分かりました」
「ラシムは今後も商業ギルドに居るつもりか?」
「一応商業ギルドの職員ですよ?私は」
「今まで行っても見なかったが?」
「見付からないように必死でしたからね」
要するに俺から逃げていたと。
「お引っ越しのお手伝いはご入り用ですか?」
「不要だ」
何を仕掛けられるか分かったもんじゃない。
「イェルも来るだろうしな」
「ゲッ」
そういやラシムは、いや、ラシムに限らずトゥルネンファミリーの構成員の半数以上は、イェルに苦手意識を持っているんだったか。
「そんなに嫌ってやるなよ」
「嫌ってなど。底の知れないほの暗さを感じるだけですよ」
「底の知れないほの暗さをね」
「毒薬を扱わせたら当代一ですし」
「ずいぶん買ってるな」
「あの方は恐れもあると同時に、憧れでもありますから」
「引っ越しの時に引き合わせようか?」
「ドゥルーヴ様の隣にいたら、恨まれたりしませんか?」
真面目な顔で聞かれてしまった。絶対に無いとは言えないんだが。
「ま、大丈夫じゃないか?」
「そんなお気楽な……」
俺にとってはイェルは、少々俺に対する執着が強いだけの、頼りになる仲間だ。敵と見なした奴への過激すぎる報復は最近落ち着いてきたしな。そう見えるだけかもしれんが。
アカデミーまでの道の確認や、家周りの状態を見て、家の契約をした後エリンを迎えに行ってカナーン村に帰った。
借りる家に必要な寝具や、個人的に持っていきたい書籍や魔導具をマジックバッグに放り込んでいく。
「ドゥルーヴさん、引っ越しの手伝いに行っても良い?」
「あぁ。来てくれると助かる。と言ってもたいした手間じゃないが。家具の配置替えなんかを手伝ってくれるか?」
「ドゥルーヴさんなら魔法で全てやってしまいそうだけど?」
「後は隠し道具の有無」
「何かあった?」
「ラシムが居た」
「ラシム?あぁ、トゥルネンファミリーの。なに?アイツ、ドゥルーヴさんに付き纏ってんの?」
「たまたま偶然らしいな。何年か前から商業ギルドに潜入していたそうだ」
「ふぅん」
気に入らないという態度を隠さないイェルを宥める。
「イェル、引っ越しの手伝いは頼めるか?」
「行って良いの?アイツも居るんでしょ?」
「あぁ。来てもらえると助かる。冒険者ギルドの依頼の件もあるし」
「冒険者ギルドの依頼?」
「違法魔物密売組織の摘発」
「違法魔物……って、魔物を制御出来てるの?」
「知らん。ただ低ランクの魔物なら、制御出来ると思うぞ。エサで釣るとか、檻にでも閉じ込めておけば良いんだし」
「そうだけどさぁ。いつか逆襲されるよ?きっと」
「自分達だけはされないと思っているんだろうさ、密売組織の連中は」
「分かった。潜入でもすれば良いの?」
「イェルの出番はまだ先だ。まずは冒険者ギルド主体で動いている、が、動きが遅くてな」
「どうして?所属の冒険者を動かせば良いじゃん」
「ソイツらの中に内通者が居たらどうする?ただでさえ制約が多いんだ。信頼出来て指示通り動いて、時には自分で判断できる。そんな冒険者はそこまで多くない」
「なるほどね。冒険者ギルド長も大変だね」
「言ってやるな。通常業務に加えて今回の依頼の指示も出さなければいけない。俺に指示をしてくれと頼んできたが、返事は保留にしてきた」
「どうしてさ。ドゥルーヴさんらしくないよ?」
「何の情報もなく指揮なんざ取れるか。ただでさえ俺は王都の冒険者ギルド所属じゃなかったんだ」
「『氷のウィザード様』なら、王都の冒険者ギルド所属じゃなくても従う冒険者は多そうだけど?」
「数は多いだろうが、適材適所の見極めが出来ない。そんな状態で指示など出来ない」
「ドゥルーヴさんはその辺りは譲らないよね」
「当たり前だ。冒険者は使い捨てじゃない。そんな事に命はかけさせられない」




