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Sideアーデルハルト

彼視点の、主に過去の話です。

俺は部屋に入り、もう何度目かわからない衝撃を受ける。


部屋は先ほどいた部屋に比べれば狭いが、それでもベッドに簡易テーブル、椅子、クローゼットまで付いている。ベッドに触れてみるが、そこら辺の安宿に比べてとても柔らかく寝心地も良さそうだ。大きさも俺が寝ても少し余るほどの大きさだ。

クローゼットを開けてみると何着か男物の衣類が入っていた。これもこの部屋を作る時に作ったのか、既に作ってあったのかはわからないが、とにかくレイナが準備したんだろう。


俺は粗方部屋の中を確認した後、ベッドに横になった。思った通り寝心地は最高だ。だが、簡単には眠れそうになかった。体も精神的にも疲れているはずなのに、頭は冴えており眠気はまだ来なさそうだった。




「神……か」


自然と言葉に出てしまった俺の声は静かな部屋に響いた。


改めて思うと激動の一日だったな。

たぶん俺の人生で最大の転機だったに違いない。

正直レイナの言うことは疑っていない。神だというのも本当だろう。

俺は昨日まで失われていた左腕を目の前に掲げ、指を曲げてみる。細やかな動きは失う前と何ら変わらない。むしろ良くなっているような気がするのは気のせいじゃないはず。

レイナから女神の加護を受けた俺の体はとても軽く、だからといって力が弱まったとか筋力が衰えたといったことはなくむしろ逆の状態で……。

レイナの言う通りこの体であれば、世界を旅するのになんら問題はないだろう。


……レイナがいれば全く問題はないように感じるが、それこそレイナが心配する部分だと思う。

レイナはあれ程の力を持っていながら、万が一を想定して俺に力を渡した。レイナが危機に陥ることは滅多なことではないだろうが、俺はそうではない。一瞬の隙があれば人は簡単に死ぬ。

もちろん、簡単に死ぬようなヘマはしないが、それでも絶対ではない。それを分かって力を渡したんだろう。


力を受け取った時俺は驚いた。だが同時に恐怖も感じた。

こんなに強大な力を、ただの人である俺があっさりと手にしてしまった。この力は使いようによっては恐ろしい力になる。

過ぎた力を手にした人がどうなるか。

力、名誉、金に執着する者の有様を俺は知っている。その結末も。

あの時のことを思い出し、口元に笑みが浮かぶのが自分でも分かる。それが良い意味のものでないことも。




俺が十八の時、騎士団の副団長の座を得た。

既に両親は他界していたが、同じ騎士団の仲間が祝福してくれた。

騎士団の中には貴族が多いから、俺みたいな平民が副団長ということに不平を持つ者もいた。俺も気にしなかったわけじゃないが、騎士団長が、ジラレス団長が俺のことを認めてくれていたから気にしたのも最初の内だけだった。

団長は俺が副団長になる前から目を掛けてくれていた。

……今にして思えば、あれはただ可愛がってくれていただけではなく、見定めていたのかもしれない。


利用出来るか、出来ないかを。


その時の俺はそんなことわからず、はっきりいえば有頂天になっていたと思う。

団長は自分を信頼してくれている、実力で副団長にもなった。

だからあの時も大丈夫だと思った。



あの日、俺はいつものように巡回していた。

そこで目にしたのは、店の従業員らしき男に対し暴言を吐いている貴族らしき男の姿。俺が近づいている内に、とうとう手まで出している。これは立派な犯罪だ。いくら貴族とは言え、犯罪は犯罪だ。


俺は駆け足で近寄り間に入る。貴族の男はいきなり現れた俺に驚いた様子だったが、俺が騎士団の者だと分かると、さっきの態度そのままに話し出す。だが、内容はあまりにも自己中心的なものであり、一応店の者にも話を聞いてみるが、やはり酷いものだった。

俺はその場で貴族の男に対し、どれほど自分が愚かなことをしているのかを説いてみせた。貴族の男は自分は由緒正しい血筋だとか身分がと喚いていたが、周りの声に出さないまでも嘲笑うような視線に気付き顔を赤くして、まるで悪党の下っ端のような台詞を吐いてその場を離れていった。

店の者にも感謝され、そのまま巡回を終えた後、俺は今日のことを報告するべく団長の元に向かった。




だが俺を待っていたのは賞賛の声ではなく冷たい声と、牢屋だった。

身に覚えのない罪状を読み上げられる。

そんなことは知らないと、団長へ訴えるがその目は声と同様に冷たく、残念だよと短く言うと俺に背を向けた。

牢屋で何故こうなってしまったのか考えた。

あの貴族の男が関わっていることはすぐにわかった。だがそれだけ、最後の答えが出ない。


いや、本当は既に答えは出ていたのかもしれないが、あの時の俺はそれを認めるのが恐かった。認めてしまえば今の俺を成しているものが壊れてしまう気がした。


そこにあの貴族の男、ガルレイドがやって来た。ニヤニヤと気持ちの悪い顔で俺を見下した。

嬉しそうに俺の今後を話していく。俺はそれをどこか他人事のように聞いていた。弁解させてもらう場などもないだろうと思った。男は表情の変わらない俺に段々イライラしてきたようだったが、すぐに良いことでも思いついたように気持ちの悪い笑みを深める。


その一言に俺はギリギリで保っていた一線を越えた。


「ジラレスも可哀想にな。もう少し使えると思っていた駒をこんな短期間で失ってしまうとは。せっかく副団長にしたというのに」


その時、俺がどんな顔をしていたのか分からない。しかし、それで男は満足したように去っていった。



あれから、色んなものを憎んだ、恨みもした。でも、最後に行き着くのは己の不甲斐なさと愚かさだった。

狂えれば楽だったのかもしれないが、それは俺のなけなしの誇りが許さなかった。辿り着く先に光など見えなかったが、俺はどこかでまだ何かを信じていたのかもしれない。



「まさか、神に救ってもらうとは」


思わず口に出してしまったが、言葉にすると陳腐な物語のようだ。

奴隷に落ちた男に神が救いの手を伸ばし、力を与える。

物語であれば男はどうしただろうか、あの二人に復讐するか、国に復讐するか、それとも平凡な生活に戻るか。

そのまま神と一緒に旅に出るなんて、物語でもそうないだろう。

この先どうなるか分からないが、レイナといれば退屈はしないだろうなと思う。

これまで騎士になる為に努力し、騎士になってからは国の為と生きてきた。これからは自分の為に生きても罰は当たらないだろう。


ようやく眠気が来たことで、俺は目を閉じて眠る体勢をとる。

俺は常人が手にするには大きな力を手にしてしまったが、レイナいや神が隣にいる限り人であることを認識できる。

俺が力に溺れる事があれば、レイナは思いっきり殴って目を覚まさせてくれそうだ。

あの神は簡単に仲間を見限ることはしない。本人が言っていたのだから。


「私とずっと一緒にいてくれる仲間じゃなきゃ」


ずっとがどれ位かはわからないが、それも面白そうだと思う俺がいる。

明日も雪山を進まなければいけない。俺は睡魔に逆らうことなく意識を手放した。





ちなみに彼はお風呂のことは気にしてません。

他に驚くこと多かったですし…(^^;

次は主人公に戻ります。


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