ハプニングは求めていません
冒険はしたいけど、面倒なことは嫌いな主人公です。
食事を終え、木から出る。私が木の割れ目に向かって手をかざし、手を振ると元の木に戻った。
「本当に便利なものだな」
「神様ですから。あ、ちなみに夜寝る時も木か洞窟なんかを探して同じようにするから。中に入っちゃえば、外からは見えないから安心して。さっきはテーブルとかだけだったけど、作るときにどんな部屋にしたいかで変えられるから、ベッドもお風呂もあるからね」
「……冒険したいんじゃないのか?」
「冒険はしたいよ。でも面倒なことは嫌」
お風呂に入れないのも、固い地面で寝るのも、寝ている間も神経尖らせて寝不足になるのも嫌。冒険はしたいけど、嫌なものは嫌。
私の発言にアルはもう慣れたのか、そうかと言っただけだった。
「これぞ雪山って感じだねー」
「あぁ、この時期は特にな」
私たちは最初の山を登ってるところ。
雪山は木の茶色や緑も見られるけど、ほとんどが白い世界。
これが銀世界かぁなんて思ってたのも最初の内。まだそんなに上っていないのにいきなり天気が急変して今は大雪。
「前が真っ白」
「このまま進むのは、普通無理だが……」
「どうしよっか。進んでも良いけど。どこかで一回休んでも良いなぁ」
私は平気だけど、アルは私と違って寒さを感じる。防寒具はしっかり着用しているけど、この大雪じゃ普段より動きづらい。魔法で私みたいに調整も出来るけど、そういうのは本当に危険な場所だけの方が良い。普通の人が暑さや寒さを感じなくなったら、元に戻した時に体がどうなるか分からないし。それから天候を弄るのも、あまり気が進まない。となったら……
「どこかで休もう」
「どこかって……」
アルは視界の悪い辺りを見回す。まぁ、見た感じ白いからどこに何があるか分からないけど、そこは私に任せて。
「大丈夫」
「……レイナが言うなら」
この短期間でアルは私のことを大分理解してきたらしい。私が辺りを見回す間も何も言わなかった。
うーん、どこかに良い場所は……あった。
私は迷うことなく、その方向に進んでいく。アルは何も言わずとも私の後に付いてきている。暫く歩くと洞窟が見えた。入り口は人一人通るのがやっとだったが、そんなの関係ない。私は中に何もいないのを確認すると、手をかざす。木の時と同じように一瞬光る。
中に入れば石造りの部屋。奥には暖炉、手前にテーブルにソファ、キッチン。暖炉の両隣と入ってすぐの所二ヶ所、計四つの扉がある。暖炉両隣が寝室。手前はトイレとお風呂。
それぞれの部屋を説明すると、アルが溜息混じりで呟く。
「下手な民家よりよっぽど豪華だな」
居心地は良いに越したことはないでしょ。
そこでアルが壁に掛かっているある物に気がついたようで近づく。
「ここは?」
「あぁ、これ?」
私もアルの隣に立ち、それに手を掛け思いっきり開ける。
「……えっ?」
アルは驚いた様子でそれを、いやそこから見える景色を見る。そこには大雪が吹き荒れる外の景色が広がっていた。
「外の景色が見えた方が良いかなと思って、窓付けちゃった。あ、これも入り口同様外からは見えないから、安心して」
「……何でも有りだな」
壁に掛かっていたのはカーテン。
カーテンを開ければ窓があり、そこから外の景色が見える。いちいち魔法で外の様子を見るのも面倒だし、これだったらアルも外がどんな様子かすぐ分かる。
私たちは少し早いけど、夕食にすることにした。
山に登る前に倒した兎の魔獣。見た目は小さくて可愛かったけど、触ろうとしたらいきなり巨大化して襲いかかってきた。……巨大化する前に触りたかった。
その肉を使って、夕食はシチュー。今回は買っておいたパンと、温野菜。
買ったパンは少し固めだったけど、味はなかなか。
それをアルと一緒に、火の付いた暖炉の前のテーブルで食べる。ちゃんと、いただきますをしてね。
アルは昼食の時のような困惑した様子もなく食べていく。食べ終わっても雪はやむ様子もなく、夜が近づいた為か先ほどより外が暗くなっている。
今日はこれ以上進むのが止めてここで休むことにした。
食事を食べ、暖炉の前にいたとはいえ、私より疲労が溜まっていそうなアルに先にお風呂に入るよう声を掛ける。けど、女性より先に自分が入るわけにはいかないと言ってその場から動かなかった。
真面目というか、紳士というか。
私もここで言い合いをしても仕方ないと思い、ありがたく先にお風呂に入らせてもらう。
タイル作りの洋風な浴室は広い作りにしてある。もちろんシャワーも付いている。
「ふぅ」
特に疲れていたわけじゃないけど、湯船に入ると自然と息が漏れる。
やっぱりお風呂って良いよね~。
ゆっくり湯に浸かりながら、この後のことを考える。
とりあえず、アルの言ってたカルフィアに行って目的を果たしたとして、次はどうしようかな。雪山ばっかりだし、他に何か珍しい物がないかアルにでも聞いてみようかな。観光スポットとか……はないか。
あまり長湯してもアルに申し訳ないので、そこそこで浴槽から出る。部屋に戻ればアルは何をするわけでもなく、ソファに座り暖炉の火を見つめていた。
「お風呂どうぞ」
「……あぁ、ありがとう」
アルは私の横を通り浴室へ向かっていった。
私はアルがさっきまで座っていたソファに腰掛ける。同じように暖炉を見るが、私がお風呂に入る前と変わらず暖かい火が燃えている。
今までのことを振り返っていたのか、今後の事を考えていたのか、又は両方か。国からここまで、時間にしてみればまだ一日も経っていない。
アルには悪かったかなぁ。でも悠長にしている場合じゃなかったし。
考えさせる時間もなかったと、今更ながらに今日の事を振り返って思う。それでも彼は私と共に行くことを選んだ。助けられた恩っていうのもあるんだろうけど、国から出られた今、アルを縛るものはない。私から離れることで報復を恐れているようには思えない。たぶん、ここにいるのは彼の意思なんだろうと思う。彼は裏切らない。確証はない。けれど、きっと。
そういえば、何か忘れているような………………あ
「アル、シャワーのつか」
「え?」
「あ」
パタン
「……ごめん」
「……いや」
私は勢いで開けた扉を閉めて、既にアルの姿は見えないが扉に背を向けて謝った。
「あ、えーと、大丈夫湯気でそんなに見えなかったから」
「あー、そうか」
「……」
「……」
「……」
「……それで、なんで俺が入ってる浴室の扉開けたんだ?」
うん、状況をそんなに冷静に言わないで下さい。
別に痴女じゃないから。それにさっきアルに言った言葉も本当だから。殆ど見えなかったし。
「えっと、シャワーの説明をと思って」
「シャワー?あぁ、この正面に付いてるやつか?」
中に入って説明するわけにもいかないので、なんとか口頭で説明する。少ししてサーとシャワーからお湯が出る音が聞こえた。
「使えたみたいだね。じゃ、私はこれで」
「あぁ」
お風呂でのハプニングなんて求めてないよ。いや、本当に。
神様やって五千年以上経つけど、人間だった時はまだ十八歳ですよ。しかも、そんなに人間関係広くなかったし、彼氏なんていなかったし、そもそも初恋があったかもうろ覚え。
そんな私にいきなりイケメンの裸(殆ど見えなかったけど)は衝撃が強すぎます。
その後、お風呂から出てきたアルを直視出来なかったのは仕方ない。
「えっと、さっきはごめんね」
「いや、別に」
「……」
「……もう寝るか」
「……そうだね」
私たちはそれぞれの部屋に入り、私はすぐにこだわりのキングサイズのベッドに横になる。
うん、寝て忘れよう。というか、アル本当にごめん。
神様やってるけど、恋愛なんて関係なかったんで、そこら辺は免疫があまりない感じです。
内心はどうあれ冷静に対応していきます。




