憑依代行黄泉代 死者憑き高坂編 第十一幕
韓国マフィアが、習志野へ歩み寄る。
習志野は膝をついていた。
息が荒い。
「……くっ」
立とうとする。
だが、足に力が入らない。
「習志野!」
不動が叫ぶ。
韓国マフィアが青龍刀を握った。
「終わりだ」
刀が振り下ろされる。
「そこまでだ!!」
その声とともに、会場の入口が開いた。
ぞろぞろと男たちが入ってくる。
「……!」
先頭にいたのは――
黄泉代だった。
その後ろには旗井組の面々。
「高坂!」
黄泉代が叫ぶ。
だが。
高坂がゆっくり振り返る。
その顔を見た黄泉代が止まった。
「……」
「……高坂?」
違う。
その目。
その表情。
そこにいるのは――
「高坂……じゃない?」
高坂は静かに笑った。
「黄泉代」
「……」
「娘の件はありがとう」
「……」
「だが、今回はお前が出る幕じゃない」
「お前……」
習志野は旗井組へ振り返る。
「原!」
「哲!」
「荒井!」
「川辺!」
「はい!」
習志野が指を差す。
「お前らは場外を頼む!」
「了解!!」
旗井組の男たちが散開する。
その瞬間。
会場の奥から――
「うおおおおお!!」
大量の男たちが押し寄せてきた。
「……!」
黄泉代が息を呑む。
韓国マフィアの増援。
客席はすでに空っぽだ。
逃げ遅れた観客はいない。
リングを囲むのは――
マフィアと旗井組。
完全な戦場だった。
その時。
習志野が口を開く。
「お前ら、よく聞け!!」
マフィアたちが足を止める。
「あの日、俺をやったのも――」
習志野は目の前の男を見る。
「只野をやったのも」
「……」
「こいつらだ!!」
マフィアの男が眉をひそめる。
「なぜ、俺達だと?」
「若頭補佐が俺を刺したアイスピック」
習志野が腹部に手を当てる。
「どこかで見たことがあった」
「……」
「忘れもしねぇ」
習志野の目が鋭くなる。
「お前らの客人ともめた、あの日のバーだ」
「それが何だ?」
「あのアイスピックは――」
一拍。
「日本には存在しねぇ」
「……!」
男たちの顔色が変わる。
「只野がやられた日」
「現場にも同じアイスピックが落ちてた」
「……」
「若頭補佐の件も」
習志野は笑う。
「全部、お前らの筋書きなんだろ?」
「単なる憶測だ」
「そうかな――」
習志野が指を差す。
「只野が最後に言ってた」
「……」
「『只野組の幹部の中に、スパイが紛れ込んでるかもしれねぇ』ってな」
男の表情が変わる。
「『内部抗争を意図的に起こしてる奴がいるかもしれねぇ』とも言ってた」
「……」
「只野は気づいたんだ」
拳を握る。
「だから――」
「始末された」
沈黙。
「……くだらん」
マフィアの男が吐き捨てる。
「では、サイボーグプロレスはどう説明する?」
「……」
「我々が何をしようとしていると?」
「乗っ取りだろ」
「何を根拠に?」
「なら――」
習志野は男を見る。
「なんでお前らはここにいる?」
「……!」
「只野組にスパイを送り込める奴らだ」
「旗井組にスパイを送り込むなんて簡単だろ」
高坂が不動を見る。
「不動さんは、旗井組の連中をサイボーグプロレスに引き入れた」
「……」
「だから情報を手に入れるのも簡単だった」
「単なる憶測だ!」
「なら、なんだ?」
高坂は男の背後を睨む。
「その後ろのでかいやつは」
そこには身長2mを超える巨漢の姿が。
筋骨隆々。
巨漢が一歩前へ。
「……」
「サイボーグプロレスは金になる」
マフィアの男が笑う。
「あと一息だ」
「……」
「不動と旗井組がいなくなれば」
巨漢が習志野の前に立つ。
習志野を完全に見下ろしている。
習志野の足がふらつく。
「……くっ」
「習志野!」
リング外から声が響く。
「不動さん!」
不動がリングへ向かって走ろうとする。
「今、助けるぞ!」
「待て!」
習志野が叫ぶ。
「習志野!」
「来るな!」
「だが、お前――」
「来たらダメだ!」
不動が止まる。
「アンタがここで戦ったら――」
高坂は息を整える。
「サイボーグプロレスはどうなる?」
「……!」
「ヤクザとマフィアと繋がりがある」
「そんな報道が出たら――」
「……」
「全部終わるだろ」
「だが!」
不動が拳を握る。
「おまえ、フラフラじゃねぇか!」
「……」
「そんな身体で――」
不動の声が震える。
「そんな身体で!!」
「そんな身体でアンタは――」
高坂が言った。
「いつも戦ってた」
「……!」
「どれだけボロボロになっても」
「骨が折れようが」
「肉を切られようが」
「アンタは戦ってた」
高坂は笑う。
「俺は――」
一歩。
前へ。
「アンタの一番弟子だ」
「……習志野」
「だから」
習志野が巨漢を睨む。
「地獄でまた会おうよ」
「不動さん」
不動の目に涙が浮かぶ。
「習志野……」
巨漢が拳を振り上げる。
「死ねぇぇぇ!!」
習志野は構えた。
その瞬間。
不動が叫ぶ。
「習志野ぉぉお!!!!」
拳が――
習志野へ迫る。




