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憑依代行黄泉代 死者憑き高坂編 第八幕


 旗井組に入った習志野。


 組長・旗井吉広のお気に入りだった。


 だが――


 古参の幹部たちにとっては違った。


「……プロレスラー?」


「そうらしいで」


「ヤクザの世界を何も知らん素人やないか」


「オヤジも何を考えてるんや……」


 まともに相手にされない。


 習志野が何か意見を言っても、


「まあ、まだ入ったばかりやからな」


「そのうち分かる」


 そう言って流される。


 だが。


 それどころではなかった。


「それより、只野組の件や」


 部屋の空気が重くなる。


 東極会内部で、急速に勢力を拡大している組織。


 ――只野組。


 新興勢力でありながら、恐ろしい速度で組員を増やしていた。


 他の組の組員を引き抜く。


 時には金で買収する。


 組員同士を争わせ、内部抗争を誘発する。


 その手段を選ばないやり方から、


 いつしか他の組からはこう呼ばれていた。


 「何をするか分からない連中」


 それが只野組だった。


「このままやと、うちも食われるで」


「すでに何人か、引き抜かれとる」


「……くそっ」


 習志野は黙って聞いていた。


 自分を拾ってくれた旗井。


 その期待に応えたい。


 だが――


 何もできない。


 自分は素人。


 組の事情も分からない。


 古参の連中も、自分の話など聞いてくれない。


「……」


 じれったかった。


 あまりにも。


     *


 その夜。


 習志野は一人で歩いていた。


「……」


 足が止まる。


「……俺は何やってんだ」


 拳を握る。


「助けてもらったくせに」


 旗井の顔が浮かぶ。


「何も返せてねぇじゃねぇか」


 習志野は顔を上げた。


「……だったら」


 歩き出す。


「俺から行くしかねぇだろ」


     *


「習志野さん」


 後ろから声がした。


「……ん?」


 振り返る。


 そこにいたのは、一人の若い組員だった。


「どこ行くんです?」


「只野組」


「……」


 男は少し黙った。


「何しに?」


「話をしに行く」


「一人で?」


「こんな真っ昼間から?」


「ああ」


「無茶ですよ」


「知るか」


 習志野は歩き出す。


 すると。


「……俺も行きますよ」


 習志野が振り返る。


「お前も?」


「はい」


「怖くねぇのか?」


「怖いですよ」


 男は笑った。


「でも……」


 一歩、習志野の隣に並ぶ。


「習志野さん一人に行かせる方が、後で後悔しそうなんで」


「……」


 習志野はニヤリと笑った。


「変な奴だな」


「習志野さんに言われたくないっす」


 二人は歩き出した。


     *


 只野組。


 事務所の扉を開ける。


「……」


 静かだった。


「誰もいねぇのか?」


 奥へ進む。


 そこに――


 一人の男がいた。


 古びたソファ。


 その上に寝転がっている。


 Tシャツ姿。


 髪はぼさぼさ。


 組長の事務所とは思えないほど、だらしない。


 男は二人を見ると――


 面倒くさそうに顔だけを向けた。


「……誰だ?」


 習志野が言う。


「旗井組の習志野だ」


「……へぇ」


 男は欠伸をする。


「何しに来たの?」


「お前が只野か」


「そうだけど」


 男――只野は、またソファに身体を沈める。


「で?」


「……」


 習志野は拳を握った。


「お前んとこのやり方が気に入らねぇ」


「そう」


「組員を引き抜く」


「うん」


「他の組同士を争わせる」


「そうだね」


「東極会をめちゃくちゃにするつもりか」


 只野は少しだけ笑った。


「めちゃくちゃ?」


 身体を起こす。


「違うよ」


 そして。


「作り直してるんだよ」


 習志野の目が細くなる。


「……何?」


 只野は笑った。


「古い奴らがしがみついてる組織なんて、一回壊した方がいいだろ?」


 習志野は一歩前へ出る。


「ふざけんな」


「……」


「人間を駒みてぇに扱いやがって」


 只野は習志野を見る。


 そして。


 初めて。


 笑みを消した。


「……お前」


「?」


「面白いね」


 只野がソファから立ち上がる。


「プロレスラーなんだって?」


「ああ」


「じゃあ――」


 只野は首を鳴らした。


「俺と一つ、遊んでいく?」


 習志野の口元が上がった。


「望むところだ」


 ただならぬ殺気。


 隣にいた男が小さく呟く。


「……習志野さん」


「なんだ?」


「俺、、、ちょっと外出てます」


「あぁ、出てろ。その方が良い」


 男が外に出る。


「・・・」


「じゃ、やるか・・・」


 二人の拳が同時に鳴った。


 ――こうして。


 旗井組の「地獄の習志野」は。


 最初の一歩を踏み出した。


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