憑依代行黄泉代 死者憑き高坂編 第七幕
「지옥으로 돌아가라」
――地獄へ帰れ。
男が呟いた。
次の瞬間。
――ブォン!!
「危ねぇ!!」
不動の叫び声。
高坂の目の前を、巨大な刃が通り過ぎた。
「……!」
青龍刀。
男の手に握られている。
高坂は、その顔を見た。
「……お前」
見覚えがある。
韓国マフィアの男。
かつて――
習志野が一戦交えた男。
その瞬間。
高坂の頭の中に、習志野の記憶が流れ込んだ。
*
――二十年前。
まだ習志野がプロレスラーだった頃。
ある夜。
習志野は後輩たちとバーで酒を飲んでいた。
「……ったく」
隣の席から聞こえてくる韓国語。
酔った男が、習志野の後輩を罵っていた。
「……」
習志野は黙っていた。
だが。
「おい」
立ち上がる。
「その辺にしとけ」
「……あ?」
男が振り返る。
「なんだ、お前」
「俺の後輩に何か文句があるなら――」
習志野が睨む。
「俺に言え」
そこから先は早かった。
掴み合い。
殴り合い。
店員が止めても止まらない。
そして――
数日後。
習志野は拉致された。
「……ここはどこだ」
目を覚ます。
周囲を見渡す。
そこには。
何人もの男。
両手は縛られている。
「お前……」
あのバーで揉めた男がいた。
「……なるほど」
習志野は笑った。
「お前、ただの酔っ払いじゃなかったのか」
男は笑う。
「俺は彼らの客人だ」
「……」
「よくも俺に恥をかかせてくれたな」
男たちが一斉に襲いかかる。
「おらぁぁ!!」
習志野も暴れる。
蹴る。
投げる。
倒す。
しかし――
「……多すぎるだろ」
数が違いすぎた。
何人倒しても。
次から次へと湧いてくる。
習志野は膝をついた。
身体はボロボロ。
息も絶え絶え。
その前に。
一人の男が立った。
手には――
青龍刀。
「……」
男が刃を習志野へ向ける。
習志野は睨み返す。
「やれるもんなら――」
その時だった。
「待て」
低い声。
男たちが振り返る。
一人の男が入ってきた。
スーツ姿。
落ち着いた表情。
そして。
習志野の前まで歩いてくる。
男は――
突然、頭を下げた。
「……?」
いや。
頭を下げるどころではない。
**土下座。**
「申し訳ありません」
男は韓国マフィアに向かって頭を下げた。
そして。
アタッシュケースを差し出す。
「どうか、これで、この場をおさめていただきたい」
マフィアの男がケースを開ける。
中には。
大量の現金。
男は金を確認すると、静かに頷いた。
「……ふんっ、いいだろう」
青龍刀を持った男も、刃を下ろす。
スーツの男は習志野へ歩み寄った。
「坊主、立てるか」
「……あんた」
男は習志野の肩を持った。
「行くぞ」
*
夜道。
二人で歩く。
習志野は身体中ボロボロだった。
「なぁ」
「なんだ」
「あんた、一体誰なんだ……」
男は前を向いたまま答えた。
「旗井吉広だ」
「旗井……?」
「旗井組という、チンケなヤクザの組長だ」
「ヤクザ……」
「東極会という組織に属している」
習志野は黙って聞いている。
「俺たちは長らく、組織内の反乱分子や抗争の防止に注力してきた」
「……」
「元々は東極会の一大勢力だった」
旗井は立ち止まった。
「だが最近は、とある組と敵対関係にあるせいで」
「……」
「急速に勢力を失いつつある」
旗井は自分の身体を見る。
「俺が動こうにも……」
苦笑する。
「もう、この身体だ」
「……」
「だから」
習志野を見る。
「お前に、俺の後を継いでもらいたい」
「……は?」
習志野は目を丸くする。
「なんで俺なんだよ」
「お前がマフィアの客人と揉めていた時――」
旗井が言った。
「俺も、あのバーにいた」
「……!」
「お前がなぜ怒ったのかも知っている」
習志野は黙る。
「あの男は、韓国語でお前の後輩を罵っていた」
「……」
「お前は、それが許せなかった」
「でも……」
習志野が眉を寄せる。
「なんであんたが、俺の後輩が馬鹿にされてたって知ってる?」
旗井は少しだけ笑った。
「・・・俺の母親は韓国人だ」
「……!」
「だから、少しくらいは分かる」
習志野は黙った。
「習志野」
旗井が振り返る。
「お前も――そうなんだろ?」
「…………」
習志野は答えなかった。
答える必要もなかった。
その沈黙だけで十分だった。
二人は。
似ていた。
生まれ育った環境も。
背負ってきたものも。
そして何より――
後輩のためなら、自分の身を顧みない。
そんな無鉄砲さまで。
「……変な奴だな、あんた」
習志野が笑った。
「お互い様だ」
旗井も笑う。
*
こうして。
習志野は旗井組を任されることになった。
当然。
「ふざけるな!!」
不動剛は激怒した。
事務所の一室。
不動の片手には、火のついた葉巻。
「習志野、お前、プロレスラー辞めてヤクザになるってどういうことだ!!」
「すいません」
「すいませんじゃねぇ!!」
「色々事情がありまして」
「知らねぇよ!!」
不動は頭を抱えた。
「旗井のオヤジは、命の恩人なんです・・・」
「……ったく」
習志野は言う。
「不動さん。もう、自分、極道なんで。」
「開き直るな!!」
習志野の目に涙。
「不動さん。お世話になりました・・・」
「・・・」
習志野はゆっくりと事務所を去ろうとする。
不動は葉巻をゆっくりと灰皿に置く。
「習志野!!」
足を止める。
「いつか必ず、戻ってこい。」
「灰になっても、戻ってこい。」
「・・・」
「地獄でも、俺は待ってるからな」
「はい・・・」
「絶対だ、忘れるなよ」
「漢と漢の、約束だ。」
「誰が何と言おうと、お前は俺の"一番弟子"だ。」
鬼の目にも涙。
その数年後。
習志野は旗井組の中で、誰よりも部下から慕われる男になる。
喧嘩が強い。
度胸がある。
無鉄砲。
だが。
誰よりも仲間思い。
困っている者がいれば、必ず助ける。
これが――
後に。
「地獄の習志野」
と呼ばれる男の始まりだった。




