憑依代行黄泉代 死者憑き高坂編 第二幕
夜の街を、高坂は歩いていた。
「……はぁ……はぁ……」
足が重い。
身体が鉛のようだった。
韓国マフィアのアジトから逃げ出してから、どれくらい歩いたのか。
分からない。
「……くそ」
高坂は壁に手をついた。
息が苦しい。
頭もぼんやりしてきた。
意識が――
薄れていく。
「……まずいな」
誰かに見つかる。
そう思った高坂は、ふらつきながらビルとビルの狭間へ入り込んだ。
そこにはゴミ捨て場があった。
「……ここなら」
高坂は、そのままゴミ袋の山へ倒れ込んだ。
そして。
意識を失った。
*
どれくらい経ったのか。
「……ん……」
高坂は目を開けた。
「……ここは?」
見知らぬ天井。
質素な部屋。
小さな机。
最低限の家具。
そして――
「……おまえ」
目の前に、一人の女性が立っていた。
「女……?」
「……」
女性は俯いた。
「おまえが助けてくれたのか?」
「……ごめんなさい」
「え?」
凛の目から、涙が落ちた。
「私……」
「……」
「マフィアを呼んだのは……私なんです」
高坂の表情が変わる。
「……どういうことだ?」
*
凛は話した。
黄泉代に助けてもらった後。
母親が大病を患った。
治療費。
大学の学費。
生活費。
いくらバイトをしても追いつかなかった。
「……家も売ろうと思ってました」
「……」
「そんな時です」
母親の友人を名乗る人物が現れた。
「お金を貸してあげるって」
最初は、救いのように思えた。
だが。
「その人は……マフィアと繋がってました」
ある日。
一枚の写真を見せられた。
そこに写っていたのは――
高坂。
「この男を捕まえるのに協力しろって」
「……俺を?」
「はい」
断れば。
大学中に、
「朝倉凛は借金を踏み倒そうとしている」
という噂を流す。
そう脅された。
「……それで」
「私……」
凛は震える。
「たこ焼きに、ほんの少しだけ睡眠薬を……」
「……」
「ごめんなさい」
凛は泣きながら頭を下げた。
「本当にごめんなさい……!」
高坂は黙っていた。
「でも……」
凛は顔を上げる。
「自分がやったことを、後悔して……」
高坂が倒れた後。
凛は、その後を追った。
そして、マフィアの男たちが高坂を連れていくのを見ていた。
「私のせいで……」
凛は後をつけた。
そして。
高坂が逃げ出したところを見つけた。
「ゴミ捨て場に倒れていて……」
「……そうか」
「それで、家まで運びました」
高坂は凛を見る。
「……ありがとう」
「……え?」
「助けてくれたんだろ」
「でも私……」
「それとこれとは別だ」
「……」
その時だった。
――ドンドンドンドン!
二人が振り返る。
「!」
玄関のドアが激しく叩かれる。
「高坂!」
「いるのは分かってるぞ!」
「開けろ!」
凛の顔から血の気が引く。
「どうしよう……」
また。
涙が溢れる。
「どうしよう、どうしよう……」
高坂はゆっくり立ち上がった。
「……なぁ」
「はい……」
高坂は笑った。
「女が泣いていいのはな」
「……?」
「好きな男の前だけだぜ」
「……!」
「だから」
高坂は窓を見る。
「俺の前では泣くな」
「高坂さん……?」
窓を開ける。
冷たい風が吹き込んだ。
「高坂さん!」
凛が窓の外を見る。
「ここ二階ですよ!」
「知ってる」
「え?」
高坂は――
飛んだ。
「高坂さん!」
凛が窓へ駆け寄る。
下を見る。
「…………」
いない。
「……え?」
地面にも。
路地にも。
高坂の姿はない。
「行っちゃった・・・」
凛は呆然と窓の外を見つめる。




