憑依代行黄泉代 死者憑き高坂編 第一幕
「……なに?!!」
男が呟いた。
高坂は俯いたまま、動かない。
いや。
正確には――
笑っている。
椅子に縛り付けられていた男が。
ゆっくりと顔を上げる。
「……」
高坂の目から。
白目が消えた。
「――え?」
男たちが後ずさる。
高坂は何も言わない。
ただ。
足に巻き付けられたロープを――
引きちぎった。
ブチッ。
「な……」
次の瞬間。
高坂は立ち上がり、
椅子ごと身体を捻った。
――ブンッ!
「ぐあっ!」
椅子が男の腹に叩き込まれる。
そのまま高坂は回る。
一回。
二回。
三回。
縛られた椅子ごと身体を高速回転させ、周囲の男たちを次々となぎ倒していく。
「ぐわっ!」
「おい、待――」
「うわぁっ!」
男が吹き飛ぶ。
別の男も床に転がる。
その姿は。
まるで――
鬼神。
床に倒れた男が、震えながら呟いた。
「……이것이……」
高坂が振り返る。
「……」
男の顔が青ざめる。
「지옥의 나라시노인가……」
その直後。
「何の騒ぎだ!」
扉が開く。
「なんだこれは!!」
新たな男たちが、ぞろぞろと入ってくる。
床には仲間たち。
そして。
その中心に。
一人の男が立っている。
「……あいつだ!」
「殺せ!」
一斉に襲いかかる。
「……」
高坂は横を見る。
そこには。
大柄な男。
高坂は椅子ごと身を捻り。
「――おらぁっ!」
巨漢へ叩きつける。
ガァンッ!
椅子が砕ける。
同時に。
高坂を縛っていた縄も切れた。
「……これで自由だ」
高坂は呟いた。
その足元には、パイプ椅子。
それを拾い上げる。
「……よし」
次の瞬間。
暴れる。
振り回す。
叩く。
突く。
蹴る。
押し倒す。
その姿は――
暴れ牛。
「こいつ、何なんだ!」
「人間じゃない!」
「止めろ!」
止まらない。
高坂はただ前へ進む。
そして。
ふと、廊下の先を見る。
「……ボスはどこだ」
高坂は走り出した。
「待て!」
男たちが追いかける。
階段を駆け上がる。
二階。
三階。
そして。
最上階。
そこでは一人の男が、部下たちに囲まれていた。
大きな葉巻に、丸々と肥えた身体。
まさに、マフィアのボス。
「外へ出るぞ」
「はい」
ボスが歩き出す。
その瞬間。
「――おい!」
背後から声。
ボスが振り返る。
「……!」
高坂が走ってくる。
そのまま。
飛んだ。
高坂の身体が宙に浮く。
空中で――
一回転。
両腕を大きく広げる。
「な――」
そして。
鋭い手刀が。
ボスの両肩へ。
――ズンッ!!!!
「――っ!」
ボスの身体が大きく揺れる。
口が開く。
咥えていた葉巻が。
宙を舞った。
高坂は着地する。
そして。
一切振り返らず。
そのまま走った。
扉を蹴り開ける。
夜の街へ。
逃げる。
ただひたすら。
走る。
その背中は――
まるで。
地獄をさまよう悪魔のようだった。




