憑依代行黄泉代 金髪鬼ギャル編 終幕
――すべてが始まる、少し前。
夜の繁華街。
人目につかない小さなバーの個室に、二人の男が向かい合っていた。
一人は――
習志野。
もう一人は――
不動剛。
「……久しぶりだな、習志野」
「お久しぶりです」
不動がグラスを置く。
「まさか、お前とこんな形で会うとはな」
「俺もですよ」
習志野は苦笑した。
「昔は同じリングに立ってたのにな」
「懐かしいな」
不動は笑った。
「お前、昔からプロレスだけは真面目だった」
「不動さんに鍛えてもらいましたから」
「俺の弟子が、今じゃ極道の幹部か」
「まぁ、自分、極道なんで」
「その言い方、昔から変わらんな」
二人は笑った。
だが。
テーブルの上に置かれた一枚の資料を見た瞬間。
空気が変わった。
「……韓国マフィア」
不動が呟く。
「えぇ」
習志野が頷く。
「連中、高坂たちに目をつけてるようです」
「黄泉代もか」
「もちろん」
習志野は煙草に火をつける。
「代行業そのものが、連中にとっては邪魔なんですよ」
依頼を受ける。
人の人生に介入する。
時には、裏社会の人間まで巻き込む。
その存在は。
いずれ韓国マフィアと衝突する可能性があった。
「なら、潰すのか?」
不動が言う。
「いや」
習志野は首を横に振った。
「俺達が潰す前に、韓国マフィアが動く」
「じゃあ、どうする」
「世間に晒す」
「……?」
「高坂たちを」
不動が眉をひそめる。
「馬鹿言え。そんなことしたら、あいつらが危険になるぞ」
「逆です」
習志野は資料を指で叩いた。
「注目を集めるんです」
「……」
「高坂たちが何者なのか。誰と関わっているのか。世間が騒ぐくらいに」
「そうすれば?」
「韓国マフィアは手を出せない」
不動は黙った。
確かに。
裏で消すことはできても。
世間に知られた人間へ手を出せば、警察やマスコミまで動きかねない。
「だから――」
習志野は笑った。
「桐谷美咲のスキャンダルを利用する」
「……おい、習志野」
「・・・」
「とっくの昔に別れてるとは言え、俺の娘だぞ」
「知ってます」
「なら、余計に――」
「だからです」
習志野は言った。
「お嬢さんの所属事務所……黒い噂があるようです」
不動は黙った。
芸能界で囁かれていた。
所属タレントへの不透明な契約。
裏社会との繋がり。
そして――
桐谷美咲自身にも、いずれ危険が及ぶ可能性があった。
「スキャンダルを出す」
習志野が言う。
「世間の注目を集める」
「そして、娘さんを引退させる」
「そういうことです」
「おまえ・・・」
不動は目を細める。
「……しかし、我ながら酷い親だな」
不動は苦笑した。
「娘の人生を、親父が勝手に終わらせるのか」
「終わらせるんじゃない」
習志野は答えた。
「守るためです」
不動はしばらく黙っていた。
やがて。
「……分かった」
そう言った。
「やろう」
*
「だが」
不動が言う。
「条件がある」
「何です?」
「お前のところの連中だ」
習志野が顔を上げる。
「怪我をして働けなくなった奴ら」
「……」
「抗争で身体を壊した奴もいるだろ」
「ああ」
「そいつらを、俺のところで引き取る」
「……プロレス団体で?」
「サイボーグプロレスだ」
不動は笑った。
「裏社会じゃなくても、働ける場所くらい作ってやる」
習志野は黙っていた。
「レスラーじゃなくてもいい」
不動が続ける。
「スタッフでもいい。トレーナーでもいい。警備でもいい」
「……」
「俺のところで面倒を見る」
「お前がいなくなっちまったら、今までお前が面倒見てた奴らは露頭に迷っちまうだろうが。そしてこれからも、そういうやつらの受け口が必要だろ。」
習志野は、静かに頭を下げた。
「ありがとうございます」
「よせよ」
「でも――」
習志野は顔を上げる。
「助かります」
不動は笑った。
「お前は相変わらず、義理人情に厚いな」
習志野も笑う。
「まぁ」
一拍。
「自分、極道なんで」
「そこは関係ねえだろ」
二人は笑った。
*
その後。
すべての計画が動き始めた。
桐谷美咲と高坂の密会。
パパラッチ。
週刊誌。
不動の「余計な一言」。
世間の注目。
そして。
韓国マフィアが動けなくなった。
高坂たちは知らない。
自分たちが守られていたことを。
桐谷も知らない。
父親が、自分の未来のためにわざとスキャンダルを仕掛けたことを。
そして。
黄泉代も知らない。
習志野が最後まで、自分の娘のために動いていたことを。
*
夜。
誰もいないプロレス会場。
リングの中央に、不動が立っている。
そこへ習志野が入ってくる。
「覚えてますか?」
「何を?」
「俺が初めて、このリングに上がった日」
「ああ」
「俺、ボロボロだったでしょう」
「弱かったな」
「ひどいなあ」
二人は笑う。
「でも」
不動が言う。
「根性だけはあった」
「不動さんが鍛えてくれたからですよ」
「……そうか」
習志野はリングを見つめる。
「俺、ここが好きだったんですよ」
「知ってる」
「だから」
少しだけ寂しそうに笑う。
「最後に、、、」
「いや、これで十分です」
不動は黙って頷いた。
「習志野」
「はい」
「お前もサイボーグにしてやるからな」
「絶対に・・・生きて戻ってこいよ」
習志野は笑う。
「……考えときます」
「絶対だぞ」
「はい」
そう言って。
二人はリングを後にした。
誰も知らない場所で。
誰にも知られることのない約束を交わして。
それが――
子たちの裏で起きていた、親たちの物語だった。
◆
歓声。
熱気。
リングにはまばゆい光。
控室。
機械によって支えられた一人の巨漢の男。
その後を屈強な男たちがついていく。
廊下をゆっくりと歩いて行く。
「さぁ、行くぞ。おまえたち!どこまでも!」
「はい!!」
「・・・俺達の行き先は」
「片道切符の地獄行き!!!!」
「よっしゃ行くぞおらぁーーー!!!」
◆
観客席の後ろの方。
黒いスーツにサングラスの男。
スマホを耳に当てている。
「네, 여보세요. 작전은 순조롭습니다.」
不穏な空気が漂っていた。




