憑依代行黄泉代 金髪鬼ギャル編 第六幕
翌朝。
病院の休憩スペース。
高坂は、テレビのニュースをぼんやり眺めていた。
隣には桐谷美咲。
「……まだ連絡ないんですか?」
「ああ」
高坂はスマートフォンを見る。
昨夜、習志野から電話があった。
だが、その後は何もない。
「一体、何なんでしょう」
「俺にも分からん」
高坂はため息をついた。
その時だった。
テレビの画面が切り替わる。
『芸能ニュースです』
桐谷が顔を上げる。
『新人女優として注目を集めている桐谷美咲さんですが――』
「え?」
桐谷の顔が青ざめた。
『昨日、都内のホテルで、謎の男性と密会していたことが分かりました』
「……!」
画面に映し出されたのは――
ホテルの外観。
そして。
ホテルから出てくる桐谷の姿。
少し離れたところに、高坂。
「……これ」
高坂が呟く。
「昨日の……」
桐谷は唇を噛んだ。
「どうして……」
高坂は思い出す。
数日前。
桐谷から連絡を受け、ホテルで会った。
黄泉代の居場所を教えてほしいと言われた。
その時は、それだけだった。
だが。
「記者が張ってたのか……それとも習志野の仕業なのか・・・」
高坂は頭を抱えた。
「いずれにせよ、まずい状況だ」
「最悪だ」
桐谷はテレビを見つめたまま動かない。
「……私、どうすれば」
「まず落ち着け」
「でも……」
「まだ写真だけだ」
「そうですけど……」
その時。
テレビから、さらに最悪のニュースが飛び出した。
『なお、この謎の男性について――』
画面に、モザイクのかかった高坂の写真が映る。
『関係者によりますと、男性は過去に、とあるプロレス団体関係者やプロ野球会とも密接な関わりがあった人物とみられ――』
「……は?」
高坂が固まる。
桐谷も顔を上げる。
「なんで……」
男性の名前は
伏せられていたが
報道上はK氏。
「…………」
高坂は絶句した。
「……マジかよ」
*
数時間後。
ネット上では、すでに騒ぎになっていた。
『新人女優に謎の男性!』
『K氏って誰?』
『サイボーグプロレスと関係?』
『過去にプロレスラーを救った人物か?』
そして。
さらに事態を悪化させたのが――
サイボーグプロレス団体。
その会長。
不動剛だった。
記者たちに囲まれた不動は、質問を受けていた。
「会長、K氏さんについて何かご存じですか?」
「こうさかのことか?」
ざわざわ、記者たちがざわめく。
「はい。先ほど報道された男性ですが」
不動は少し考える。
「ああ」
そして。
余計な一言を口にした。
「俺は、こうさかとよみがわりという男に助けられたことがある」
――沈黙。
記者たちの目が一斉に変わった。
「黄泉代?」
「それはどういう人物ですか?」
「こうさかさんとよみがわりさんとはどういう関係ですか?」
「会長、詳しくお願いします!」
「会長!これ、生放送ですよ!名前言っちゃダメだって言ったじゃないすか!」
練習生たちが慌てて止めに入る。
「なしなし!」
不動が慌てる。
伝説のメカニックは遠目で見て笑っている。
「今の無し!今のは無しだ!」
もう遅かった。
*
病院。
高坂はスマートフォンを見つめていた。
通知が止まらない。
「……あのおっさん」
額に青筋が浮かぶ。
「マジで余計なこと言いやがって」
桐谷が恐る恐る言う。
「高坂さん……」
「何だ」
「これ……」
桐谷がスマートフォンを見せる。
そこには、ニュース記事。
『新人女優・桐谷美咲、謎の男性と密会』
『謎の男の正体は?』
『サイボーグプロレス会長が意味深発言』
『こうさか氏とよみがわり氏とは何者なのか』
「…………」
高坂は頭を抱えた。
「余計なことを」
そして。
「おっさん、マジで地獄落ちろよ……」
*
その頃。
金髪鬼ギャルは、キャバクラの控室にいた。
「ねえ、ニュース見た?」
「見た見た」
「新人女優の桐谷美咲でしょ?」
「ホテルで男と密会ってやつ」
「男って誰なんだろ」
「さあ?」
鬼ギャルは黙って聞いていた。
だが。
その話の中に。
一つの名前が出た。
「よみがわりって人も関係あるらしいよ」
鬼ギャルの手が止まる。
「……よみがわり?」
「そうそう。なんかプロレス関係の人らしい」
黄泉代の表情が曇る。
「あのおっさんか・・・何してくれてんだよ」
「てか、プロレスラー引退したんじゃねぇのかよ・・・」
黄泉代は頭を抱えていた。
*
夜。
病室。
高坂は黄泉代のベッド脇に座っていた。
「……聞いてるか?」
もちろん返事はない。
「お前の名前まで出てきたぞ」
高坂は苦笑する。
「とんでもないことになってる」
そして。
少し黙る。
「……でも」
高坂は黄泉代を見る。
「俺は、お前が戻ってくるって信じてるからな」
その時。
スマートフォンが鳴った。
今度は、習志野だった。
「……はい」
『高坂さん』
「今度は何だ」
『話さなければならないことがあります』
「・・・もう全部知ってるんだろ」
「・・・」
「黄泉代のことか?」
『はい』
「だったら早く言え」
電話の向こうで、習志野が黙る。
そして。
『この件が済んだら、とっとと消えろ』
習志野は言った。
「……なんだと!」
『いいな、分かったな。』
「おい、ちょっとまっ」
ブツッ
『……』
そこで電話が切れた。
高坂は立ち上がった。
そして。
ベッドを見る。
黄泉代の顔色が――
昨日より明らかに悪い。
「……黄泉代?」
呼吸が浅い。
「おい!」
看護師を呼ぼうとした、その時。
黄泉代の指が動いた。
「……!」
高坂が手を握る。
「黄泉代!」
そして。
眠ったままの黄泉代が。
かすかに呟いた。
「……帰さなきゃ」
「え?」
「……あの子を……」
高坂は凍りついた。
「誰を……?」
黄泉代は答えない。
ただ。
一筋の涙が頬を伝った。
*
同じ頃。
結衣は、ホテルの一室にいた。
目の前には――
復讐相手。
東極会の若頭補佐。
「……今日は、随分大人しいな」
男が笑う。
「何か考え事か?」
「ううん」
鬼ギャルは笑った。
「ちょっとね」
「何だ?」
「私さ」
男の方を見る。
「最近、変な夢を見るんだ」
「夢?」
「知らない男が出てくるの」
男が笑う。
「どんな男だ?」
「……分かんない」
結衣は胸に手を当てる。
なぜか。
涙が出そうだった。
「でも――」
彼女は呟く。
「その人、私を助けようとしてる」
そして。
彼女は笑った。
いつもの、鬼の笑顔で。
「だからさ」
「……?」
「私も、ちゃんと終わらせなきゃ」
「・・・」
復讐は、もう始まっている。
そして。
その先に待っているのは――
彼女自身が知らない、最悪の真実だった。




