↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/64

憑依代行黄泉代 金髪鬼ギャル編 開幕


「彼氏に、浮気したって伝えてほしい」


 依頼人は、そう言った。


 金髪。


 派手なネイル。


 濃いメイク。


 耳にはいくつものピアス。


 どこにでもいない 普通じゃないギャル。


「私、鬼ギャルだから」


「……自分で言うんだ」


「うん。マジで性格悪いよ」


 本人はケロッとしていた。


「だから、私が直接言ったら、たぶん喧嘩になる」


「それで俺に?」


「うん。私になって、別れてきて」


「……分かった」


 黄泉代は頷いた。


 そして、その日。


 黄泉代は彼女になった。


     *


「私、浮気したんだ」


 待ち合わせ場所。


 彼氏の前に立った黄泉代は、淡々と告げた。


「……え?」


「だから別れよう」


「誰と?」


「別に誰でもよくない?」


「いや……」


「てか、もう飽きたんだよね」


 自分で言っていて、胸が痛くなる。


 だが、これも代行だ。


「私、あんたが思ってるほど良い彼女じゃないから」


「…………」


「もう連絡してこないで」


「いや、でも···」


「もう決めたことだからさ」


 彼氏はゆっくりと俯いた。


 そして、小さく呟いた。


「……分かった」


 そのまま背を向ける。


 黄泉代は、その姿を見送った。


「……終わった」


 いつもなら、ここで戻る。


 意識が身体から抜ける。


 そして自分の身体へ戻る。


 ――なのに。


「……あれ?」


 戻らない。


「…………」


 目を閉じる。


 戻れ。


 戻れ。


 戻れ。


 何度念じても、何も起こらない。


「……なんで?」


 黄泉代は自分の手を見る。


 長いネイル。


 細い指。


 金髪。


 鬼ギャルの姿。


「まさか……」


 黄泉代の顔が険しくなる。


「まだ……助かったと思ってないんじゃ……」


 依頼は終わった。


 彼氏とも別れた。


 それでも戻れない。


 ということは。


「まだ、この人には……俺に助けてほしいことがある」


 そういうことなのか。


     *


 夜。


 黄泉代が帰ってこない。


 高坂はスマホを見つめていた。


「……遅すぎるだろ」


 何度電話しても出ない。


 嫌な予感がした。


 高坂は黄泉代が依頼を受けた場所へ向かった。


 そして。


「……お前、何してんの?」


 そこにいたのは――


 金髪鬼ギャル。


「…………」


「黄泉代は?」


 鬼ギャルは、無言で高坂を見る。


「……高坂」


「…………」


 高坂の顔が固まった。


「……まさか」


「俺」


「黄泉代!?」


「うん」


「なんで!?」


「戻れない」


「は?」


「依頼は終わったんだけど、戻れない」


 高坂は金髪鬼ギャルの姿を上から下まで眺めた。


「……本当に黄泉代か?」


「本当に俺だよ」


「いや、どう見ても鬼ギャルだぞ」


「俺だって好きでこんな格好してるわけじゃない」


「いや……」


 高坂は頭を抱えた。


「どうする?」


「どうするって……」


 黄泉代はため息をつく。


「戻るまで、生活するしかないだろ」


「生活って……」


「この身体の持ち主として」


「学校も?」


「たぶん」


「友達も?」


「たぶん」


「家族も?」


「……たぶん」


「マジかよ」


 黄泉代は、自分の金髪を掴んだ。


「まずは、この人が本当に助けてほしかったことを探さないとな」


「それまでずっと?」


「……ずっと」


 高坂はしばらく黙った。


 そして。


「……死ぬなよ」


「死なねえよ」


「いや、身体じゃなくて精神が」


「…………」


 黄泉代は苦笑した。


 こうして――。


 本来なら数時間で終わるはずだった依頼は、終わらなくなった。


 金髪。


 派手なネイル。


 鬼のように気が強い性格。


 そして、浮気した彼女としての生活。


 黄泉代はこの身体で日常を送りながら、彼女が本当に助けてほしかったものを探すことになる。


 ――憑依代行、史上初。


 **長期憑依。**


 そしてこれは。


 黄泉代が経験する、最も過酷な「他人の人生」だった。


 そして。


 黄泉代と高坂はまだ気づいていなかった。


 重大な事実を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。