憑依代行黄泉代 金髪鬼ギャル編 開幕
「彼氏に、浮気したって伝えてほしい」
依頼人は、そう言った。
金髪。
派手なネイル。
濃いメイク。
耳にはいくつものピアス。
どこにでもいない 普通じゃないギャル。
「私、鬼ギャルだから」
「……自分で言うんだ」
「うん。マジで性格悪いよ」
本人はケロッとしていた。
「だから、私が直接言ったら、たぶん喧嘩になる」
「それで俺に?」
「うん。私になって、別れてきて」
「……分かった」
黄泉代は頷いた。
そして、その日。
黄泉代は彼女になった。
*
「私、浮気したんだ」
待ち合わせ場所。
彼氏の前に立った黄泉代は、淡々と告げた。
「……え?」
「だから別れよう」
「誰と?」
「別に誰でもよくない?」
「いや……」
「てか、もう飽きたんだよね」
自分で言っていて、胸が痛くなる。
だが、これも代行だ。
「私、あんたが思ってるほど良い彼女じゃないから」
「…………」
「もう連絡してこないで」
「いや、でも···」
「もう決めたことだからさ」
彼氏はゆっくりと俯いた。
そして、小さく呟いた。
「……分かった」
そのまま背を向ける。
黄泉代は、その姿を見送った。
「……終わった」
いつもなら、ここで戻る。
意識が身体から抜ける。
そして自分の身体へ戻る。
――なのに。
「……あれ?」
戻らない。
「…………」
目を閉じる。
戻れ。
戻れ。
戻れ。
何度念じても、何も起こらない。
「……なんで?」
黄泉代は自分の手を見る。
長いネイル。
細い指。
金髪。
鬼ギャルの姿。
「まさか……」
黄泉代の顔が険しくなる。
「まだ……助かったと思ってないんじゃ……」
依頼は終わった。
彼氏とも別れた。
それでも戻れない。
ということは。
「まだ、この人には……俺に助けてほしいことがある」
そういうことなのか。
*
夜。
黄泉代が帰ってこない。
高坂はスマホを見つめていた。
「……遅すぎるだろ」
何度電話しても出ない。
嫌な予感がした。
高坂は黄泉代が依頼を受けた場所へ向かった。
そして。
「……お前、何してんの?」
そこにいたのは――
金髪鬼ギャル。
「…………」
「黄泉代は?」
鬼ギャルは、無言で高坂を見る。
「……高坂」
「…………」
高坂の顔が固まった。
「……まさか」
「俺」
「黄泉代!?」
「うん」
「なんで!?」
「戻れない」
「は?」
「依頼は終わったんだけど、戻れない」
高坂は金髪鬼ギャルの姿を上から下まで眺めた。
「……本当に黄泉代か?」
「本当に俺だよ」
「いや、どう見ても鬼ギャルだぞ」
「俺だって好きでこんな格好してるわけじゃない」
「いや……」
高坂は頭を抱えた。
「どうする?」
「どうするって……」
黄泉代はため息をつく。
「戻るまで、生活するしかないだろ」
「生活って……」
「この身体の持ち主として」
「学校も?」
「たぶん」
「友達も?」
「たぶん」
「家族も?」
「……たぶん」
「マジかよ」
黄泉代は、自分の金髪を掴んだ。
「まずは、この人が本当に助けてほしかったことを探さないとな」
「それまでずっと?」
「……ずっと」
高坂はしばらく黙った。
そして。
「……死ぬなよ」
「死なねえよ」
「いや、身体じゃなくて精神が」
「…………」
黄泉代は苦笑した。
こうして――。
本来なら数時間で終わるはずだった依頼は、終わらなくなった。
金髪。
派手なネイル。
鬼のように気が強い性格。
そして、浮気した彼女としての生活。
黄泉代はこの身体で日常を送りながら、彼女が本当に助けてほしかったものを探すことになる。
――憑依代行、史上初。
**長期憑依。**
そしてこれは。
黄泉代が経験する、最も過酷な「他人の人生」だった。
そして。
黄泉代と高坂はまだ気づいていなかった。
重大な事実を。




