全部背負わない
声が聞こえる。
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痛い。
怖い。
助けて。
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村中の人々の感情が。
一気に流れ込んでくる。
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能力を発動した瞬間。
俺は理解した。
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御影の装置は。
人の願いを集めている。
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「翔!」
高坂の声。
遠い。
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身体が動かない。
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頭の中に。
知らない人生が流れ込む。
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畑を守る老人。
病気の母を心配する少年。
家族を失った女性。
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全部。
全部。
助けてほしいという願い。
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昔なら。
俺は迷わなかった。
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全部受け止める。
全部救う。
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そう思った。
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でも。
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今は分かる。
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それは救いじゃない。
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「翔!」
黒瀬の声。
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「戻ってこい!」
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でも。
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声が遠ざかる。
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白い世界。
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そこに。
もう一人の俺がいた。
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「また背負うのか。」
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俺と同じ顔。
でも。
目が暗い。
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「何を言ってる。」
俺は聞く。
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「全部助けたいんだろ?」
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「だったら。」
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「全部お前が持てばいい。」
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その言葉。
昔なら正しいと思った。
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誰かが苦しんでいるなら。
自分が代わればいい。
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役者だってそうだった。
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自分が目立たなくても。
誰かの物語を支えればいい。
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でも。
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俺は思い出す。
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透。
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彼は。
誰かになることだけを続けて。
自分を失った。
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「違う。」
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もう一人の俺を見る。
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「俺は。」
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「誰かの人生を奪うために。」
「演じるんじゃない。」
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「理解するためだ。」
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世界が揺れる。
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現実。
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俺の身体から黒い影が溢れていた。
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「危険だ!」
黒瀬の声。
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「このままでは。」
「黄泉代自身が消えてしまう!」
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御影が笑う。
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「素晴らしい。」
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「やはり君は最高の能力者だ。」
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「全ての人間を救える。」
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俺は顔を上げる。
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「違う。」
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御影の表情が止まる。
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「俺は。」
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「一人で救うんじゃない。」
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「その人自身が。」
「自分の人生を歩けるように。」
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「隣に立つ。」
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その瞬間。
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村の人々の声が変わった。
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「……怖い。」
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「でも。」
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「自分で歩きたい。」
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小さな声。
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一人。
また一人。
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願いが変わっていく。
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助けて。
から。
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助けてほしい。
でも。
自分で進みたい。
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へ。
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御影が叫ぶ。
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「なぜだ!」
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「苦しみから逃れたいはずだ!」
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俺は答える。
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「苦しいから。」
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「誰かを大切にできる。」
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「悲しいから。」
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「思い出を守れる。」
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「全部消したら。」
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「人間じゃなくなる。」
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装置がひび割れる。
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その時。
春人が動いた。
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「御影。」
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「終わりだ。」
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御影が振り返る。
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「先生?」
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春人は静かに言う。
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「お前は。」
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「昔の私と同じだ。」
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「人を救いたいと思いながら。」
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「人を信じていない。」
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御影の顔が歪む。
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「違う!」
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「私は人間を救う!」
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春人は首を振る。
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「違う。」
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「お前は。」
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「人間が失敗する未来を見るのが怖いだけだ。」
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御影は言葉を失う。
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その隙に。
黒瀬が装置へ向かう。
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「親父。」
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「零、あとは頼む。」
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黒瀬は頷く。
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「零。」
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「ありがとう。」
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黒瀬が装置を止める。
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しかし。
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最後の出力。
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装置は暴走する。
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「まずい!」
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巨大な光。
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俺の前に。
詩乃が立った。
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「黄泉代翔。」
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「今度は。」
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「私が助ける番。」
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「あなたは。」
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「一人じゃないよ。」
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光が全てを包む。
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