間違えた救い
朝日が昇る。
崩れた研究施設。
その中央に。
春人は一人で立っていた。
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「……終わったな。」
黒瀬が呟く。
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写世の構成員たちは動きを止めている。
彼らも分かっていた。
自分たちの信じていたものが。
少しずつ崩れていることを。
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詩乃は静かに空を見上げていた。
もう怯えていない。
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俺は春人を見る。
「あなたは。」
「これからどうするんですか。」
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春人は答えない。
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しばらくして。
小さく笑った。
「不思議だな。」
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「私は何十年も。」
「人を救う方法を探していた。」
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「なのに。」
「最後に私が救われたのは。」
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「私が否定した方法だった。」
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俺は何も言わない。
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春人はゆっくり振り返る。
「翔。」
「君は。」
「もし目の前の人間が。」
「必ず不幸になる未来を持っていたとしても。」
「その人生を尊重するのか。」
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難しい質問だった。
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でも。
答えは決まっていた。
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「はい。」
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春人は少し驚く。
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「たとえ。」
「その人が苦しむとしても。」
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「その人が選んだ人生なら。」
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「俺は隣にいる。」
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春人は目を閉じる。
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「甘いな。」
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「そうかもしれません。」
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「でも。」
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「あなたも最初は。」
「そうだったんじゃないですか。」
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春人の記憶。
一瞬。
俺の能力が反応する。
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見えた。
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若い春人。
父。
母。
三人で研究している。
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笑っている。
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まだ。
写世なんて存在しなかった頃。
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春人は本当に。
人を助けたいと思っていた。
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「……あの日。」
春人が呟く。
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「私は。」
「一人の少女を救えなかった。」
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「その時。」
「決めたんだ。」
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「もう二度と。」
「誰も失わない世界を作ると。」
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黒瀬が言う。
「父さん。」
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春人が振り返る。
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「零。」
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「お前には。」
「謝らなければならない。」
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黒瀬は黙っている。
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「私は。」
「お前を息子として見ていなかった。」
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「失敗しない能力者として。」
「見ていた。」
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黒瀬の拳が震える。
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「……遅いよ。」
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春人は頷く。
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「ああ。」
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「本当に。」
「遅すぎた。」
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その時。
突然。
施設の奥で爆発音。
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「何!?」
高坂が叫ぶ。
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瓦礫の中から。
一人の男が現れる。
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「感動的な親子劇だな。」
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全員が警戒する。
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男は拍手しながら歩いてくる。
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「だが。」
「忘れていないか?」
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「写世は。」
「春人一人の思想じゃない。」
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黒いコート。
冷たい目。
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「私は。」
「春人の研究を完成させる者だ。」
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春人の顔色が変わる。
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「……お前。」
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「まだ生きていたのか。」
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男は笑う。
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「先生。」
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「あなたは優しすぎた。」
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「だから。」
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「私が。」
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「本当の救済を完成させる。」
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男は俺を見る。
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「黄泉代翔。」
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「君の能力は。」
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「世界を変える。」
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「人類から。」
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「苦しみを消すためにな。」
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俺は睨む。
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「苦しみを消した世界に。」
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「人間はいるのか?」
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男は笑う。
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「試してみればいい。」
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空に響く警報。
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村全体が赤い光に包まれる。
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高坂が叫ぶ。
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「まずい!」
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「黄泉谷全体が。」
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「能力実験場になっている!」
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春人は初めて焦った顔をした。
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「違う。」
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「これは。」
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「私の研究じゃない。」
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男は笑う。
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「そうです。」
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「あなたの失敗を。」
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「私が成功に変えるんですよ。」
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俺は拳を握る。
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新たな敵。
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そして。
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春人との共闘が始まる。




