↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/64

生まれる前の願い


「君は。」


春人の言葉が響く。


「最初から選ばれていた。」


---


その言葉に。


胸の奥がざわついた。


---


「違う。」


俺は言った。


「俺は。」


「特別なんかじゃない。」


---


春人は少し驚いた顔をする。


---


「なぜそう思う?」


---


俺は答える。


「俺はずっと。」


「何者でもなかったからだ。」


---


エキストラ。


落ち続けたオーディション。


名前すら覚えられない日々。


---


もし。


最初から特別だったなら。


あんなに悩まなかった。


---


春人は静かに笑う。


「君らしいな。」


---


「付いて来い。」


俺たちは黄泉谷の奥にある古い研究施設跡へ向かった。


そこは。


父が最後にいた場所。


---


地下へ続く階段。


錆びた扉。


その奥に。


一つの部屋があった。


---


中央には古いカプセル。


そして。


大量の記録。


---


高坂が資料を拾う。


「これ……。」


「全部、翔のことだ。」


---


俺は震える。


---


『黄泉代翔』


『出生前検査』


『能力反応』


---


「出生前……?」


---


春人が答える。


「君の母親は。」


「能力の影響を受けていた。」


---


「待て。」


俺は遮る。


「じゃあ。」


「俺は生まれた時から……。」


---


春人は首を振った。


「違う。」


---


「君の父親は。」


「それを恐れた。」


---


---


記録には父の言葉が残っていた。


---


『この子に能力を背負わせてはいけない。』


---


『普通の人生を歩ませたい。』


---


『誰かの痛みを背負う人生など、親が望むものではない。』


---


俺は黙って読む。


---


父は。


俺に力を与えたかったわけじゃない。


---


ただ。


守りたかった。


---


---


「じゃあ。」


俺は聞く。


「なぜ能力が発現した。」


---


春人は答えた。


「君が。」


「誰かを助けたいと願ったからだ。」


---


---


五歳の記憶。


観覧車。


詩織。


---


あの日。


俺は初めて。


心の底から願った。


---


『助けたい』


---


その願いが。


眠っていた能力を目覚めさせた。


---


---


「能力は。」


春人が言う。


「血ではない。」


「願いだ。」


---


「だから。」


「君は選ばれたんじゃない。」


---


「君自身が。」


「選んだんだ。」


---


---


その時。


施設全体が揺れた。


---


「なにか来る!」


黒瀬が叫ぶ。


---


扉の向こう。


足音。


---


現れたのは。


写世の兵士。


そして。


一人の女性。


---


俺は息を止める。


---


「……母さん?」


---


写真でしか見たことのない顔。


でも。


分かる。


---


母だった。


---


しかし。


様子がおかしい。


---


彼女の目には。


何も映っていない。


---


春人が呟く。


「成功したのか。」


---


黒瀬が睨む。


「何をした。」


---


春人は答えない。


---


女性がこちらを見る。


そして。


静かに言った。


---


「翔。」


---


「久しぶり。」


---


俺の身体が固まる。


---


「……嘘だ。」


---


母親は笑う。


---


「会いたかった。」


---


その瞬間。


胸の奥で。


能力が反応した。


---


分かる。


---


この人は。


母さんだ。


---


でも。


同時に。


違う。


---


「あなたは……誰だ。」


---


母親の表情が一瞬だけ歪む。


---


春人が言う。


---


「彼女は。」


---


「君の母親の記憶を持つ存在だ。」


---


「つまり。」


---


「君の母親であり。」


「君の母親ではない。」


---


俺は言葉を失う。


---


春人は続ける。


---


「これが。」


「私が追い求めた救済だ。」


---


「失った人間を。」


「もう一度、作り直す。」


---


---


俺は母を見る。


---


「違う。」


---


涙がこぼれる。


---


「母さんは。」


---


「そんな形で戻ってきてほしかったんじゃない。」


---


---


母の瞳が揺れる。


---


ほんの一瞬。


本当の感情が戻ったように見えた。


---


そして。


小さな声。


---


「……翔。」


---


「逃げて。」


---


---


その言葉と同時に。


施設の照明が落ちた。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。