救うということ
「ようやく会えた。」
村の入り口。
月明かりの下。
その男は穏やかに笑っていた。
春人。
写世の創設者。
黒瀬の父親。
そして。
父の親友。
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「あなたが……。」
俺は言葉を失う。
写真の中では、父と笑っていた人。
なのに。
今は。
多くの人から人生を奪おうとしている。
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春人はゆっくり歩いてくる。
「翔。」
「君の父親によく似ている。」
「……父を知っているなら。」
俺は拳を握る。
「なぜ戦ったんですか。」
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春人は少し寂しそうに笑った。
「戦った?」
「違う。」
「私は救おうとした。」
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「救う?」
黒瀬が睨む。
「人の人生を奪っておいて?」
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春人は黒瀬を見る。
「零。」
「君も昔は分かってくれていた。」
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黒瀬の表情が変わる。
「……もうその名前で呼ぶな。」
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春人は悲しそうに目を伏せた。
「君の妹を救えなかった時。」
「私は決めたんだ。」
「もう二度と。」
「誰かが苦しむ姿を見まいと。」
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俺は聞く。
「妹?」
黒瀬が黙る。
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春人は続けた。
「零の妹は病弱だった。」
「何度も苦しんだ。」
「何度も助けを求めた。」
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「だから私は。」
「能力で苦しみを消そうとした。」
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黒瀬の拳が震える。
「違う。」
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春人を見る。
「お前は。」
「妹を見ていたんじゃない。」
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「救えなかった自分を許したかっただけだ。」
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沈黙。
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春人の表情が少し崩れる。
「……君も。」
「翔と同じことを言うんだな。」
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俺を見る。
「君は優しい。」
「だから危険だ。」
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「優しい人間ほど。」
「他人の苦しみを背負って壊れる。」
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「だから。」
春人は手を差し出した。
「私と来い。」
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「君なら分かるはずだ。」
「憑依能力の本当の使い方を。」
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「全ての人間を。」
「苦しみのない人生へ導く。」
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俺は首を横に振った。
「それは救いじゃない。」
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春人の目が細くなる。
「なぜ?」
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俺は答える。
「苦しみがあるから。」
「人は誰かを思いやれる。」
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今まで会った人たちを思い出す。
失敗した人。
傷ついた人。
後悔した人。
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「森川さんは。」
「大切な人を失った。」
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「でも。」
「悲しんだ時間があったから。」
「今も奥さんを愛している。」
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「三浦さんは。」
「失敗したから。」
「自分の音楽と向き合えた。」
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「美咲さんは。」
「自信がなかったから。」
「自分の演技を見つけた。」
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俺は春人を見る。
「その人の苦しみは。」
「その人の人生の一部だ。」
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春人は静かに聞いていた。
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「……君も父親と同じだ。」
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「違う。」
俺は言う。
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「父さんより。」
「俺はもっと欲張りだ。」
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春人が眉を動かす。
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「俺は。」
「苦しみも。」
「悲しみも。」
「全部持ったまま。」
「その人に幸せになってほしい。」
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静寂。
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突然。
春人が笑った。
「なるほど。」
「だから君は。」
「完全には壊れなかったのか。」
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「でも。」
春人の目が鋭くなる。
「現実はそんなに優しくない。」
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指を鳴らす。
写世の構成員たちが動く。
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「見せてあげよう。」
「君が守ろうとしているものが。」
「どれほど脆いか。」
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その瞬間。
村の奥から悲鳴が聞こえる。
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走る。
そこには。
村人たちが倒れていた。
そして。
一人の少年が立っている。
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「……誰だ。」
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少年は笑った。
「初めまして。」
「僕も。」
「憑依能力者です。」
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春人が言う。
「彼は。」
「君とは違う答えを出した能力者だ。」
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少年は笑う。
「僕は。」
「誰かの人生なんて。」
「最初から必要ないと思っています。」
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「だって。」
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少年の目が光る。
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「僕が全部、代わりに生きればいいから。」
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