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会いたかった人

「君の母親は、本当に死んだわけではない」


神崎の言葉が頭から離れない。


高坂は険しい表情で腕を組んでいた。


「絶対に罠だ。」


黒瀬も頷く。


「神崎は人の弱いところを突く。」


「今回は、お前の母親だ。」


俺は分かっていた。


冷静なら行かない。


でも——。


「……それでも行く。」


静かな声で答えた。


翌日。


指定された場所。


海沿いに建つ廃病院。


受付もない。


人の気配もない。


鉄扉を開けると、神崎が一人待っていた。


「来ると思っていたよ。」


「母さんはどこだ。」


神崎は振り返る。


「焦るな。」


「君は母親に何を聞きたい?」


俺は答えられなかった。


会いたい。


でも。


何を話せばいいのか分からない。


神崎は地下へ続く階段を降りる。


その先には、小さな保管室があった。


棚には古いビデオテープや書類。


そして、一台の映写機。


「ここだ。」


神崎は一本のテープをセットする。


映像が映し出された。


若い女性。


写真で見た人。


間違いない。


俺の母親だった。


「翔。」


画面の中の母が笑う。


「もし、この映像を見ているなら。」


俺は息をのむ。


録画されたメッセージだった。


「ごめんね。」


「あなたが大きくなる姿を見られなくて。」


涙が止まらない。


「あなたのお父さんは、とても優しい人。」


「だからきっと、自分を責め続ける。」


「でも、それは違うって伝えてあげて。」


母は少し笑う。


「それとね。」


「あなたが能力を持っていたとしても。」


「怖がらないで。」


俺は顔を上げる。


「その力は、人を支配するためじゃない。」


「誰かの痛みを、一人にしないための力だから。」


映像が終わる。


部屋は静まり返った。


俺は立ち尽くしたままだった。


「……どういうことだ。」


神崎を見る。


「母さんは。」


「能力のことを知ってたのか。」


神崎は頷く。


「知っていた。」


「君の父親よりも早く理解していた。」


「じゃあ。」


「どうして。」


「俺を置いていったんだ。」


神崎は静かに首を振る。


「置いていったわけじゃない。」


「時間がなかった。」


俺は拳を握る。


「病気だったのか。」


「違う。」


「事故か。」


「違う。」


神崎は俺を見る。


「君の母親は。」


少し間を置く。


「能力を使った。」


空気が止まる。


「能力を……?」


「誰のために。」


神崎は答えた。


「君のためだ。」


その瞬間。


頭の奥に激しい痛みが走る。


知らない景色。


泣いている父。


母が赤ん坊を抱いている。


そして。


優しく笑って言う。


『この子だけは守って。』


記憶はそこで途切れた。


「何だったんだ、今の……。」


神崎は静かに言う。


「能力者同士は、強い記憶に触れると共鳴する。」


「今見たのは。」


「君自身の記憶だ。」


高坂が神崎を睨む。


「お前、何を企んでいる。」


神崎は苦笑した。


「企みではない。」


「私は確認したかっただけだ。」


「君の記憶が、どこまで戻っているのか。」


「どういう意味だ。」


俺が聞く。


神崎は少しだけ悲しそうな顔をした。


「君は忘れている。」


「いや。」


「忘れさせられた。」


黒瀬の表情が変わる。


「……やめろ。」


「その話は。」


神崎は黒瀬を見る。


「君は知っているはずだ。」


「黄泉代翔は、一度だけ。」


「幼い頃に能力を使っている。」


俺は凍りついた。


「……え?」


「そんなはず。」


「初めて能力が出たのは高校生の時だ。」


神崎は首を横に振る。


「違う。」


「君は五歳の時。」


「ある人物に憑依している。」


「誰に……。」


神崎は答えない。


代わりに、一枚の古い写真を差し出した。


幼い俺。


父。


母。


そして。


もう一人、小さな女の子。


写真の裏には父の字でこう書かれていた。


『翔と詩織、遊園地にて』


「詩織……?」


俺はその名前を知らない。


でも。


胸だけが、痛いほど覚えていた。


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