受け継がれた願い
古い研究施設。
父親が残した資料。
そして。
目の前にいる謎の男。
白衣の男は笑っていた。
「ようやく会えたな」
「黄泉代」
俺は警戒する。
「あなたは誰ですか」
男は眼鏡を直した。
「私は
神崎冬馬
君の父親の研究仲間だった男だ」
「研究仲間?」
黒瀬が睨む。
「まさか」
神崎は頷く。
「そうだ」
「我々は、この能力を研究していた」
俺は資料を見る。
そこには大量の記録。
憑依能力。
発現条件。
精神状態。
そして。
過去の能力者たち。
「……こんなに」
俺は呟いた。
「能力者がいたのか」
神崎は笑う。
「いた」
「しかし」
「ほとんどが消えた」
「なぜ?」
神崎は答える。
「自分を失ったからだ」
その言葉。
胸に刺さる。
俺も分かっている。
誰かの身体になる。
誰かの感情を受け取る。
それは簡単なことじゃない。
強い人間じゃなければ。
飲み込まれる。
「君の父親は失敗した」
神崎は言う。
黒瀬が反応する。
「何を知っている」
「彼は愛する人を救おうとした」
神崎は続ける。
「しかし、能力では死を変えられなかった」
俺は息を止める。
母親。
「父は……」
「君の母親を救えなかった」
神崎は言った。
「その結果」
「彼は能力を否定した」
黒瀬が拳を握る。
「力が足りなかっただけだ」
神崎を見る。
「もっと強く使えれば」
「誰も失わずに済む」
俺は黒瀬を見る。
昔なら。
その考えを否定できなかったかもしれない。
でも。
今は違う。
「違う」
俺は言った。
黒瀬が見る。
「何がだ」
「力が足りないんじゃない」
「人間には」
「失うことも受け入れる時間が必要なんだ」
俺は今まで出会った人たちを思い出す。
夢を失った女優。
父親と向き合えなかった男。
人生を諦めた少女。
妻を失った老人。
俺は人生を変えたわけじゃない。
ただ。
その人がもう一度、自分で歩くきっかけを作っただけ。
神崎が拍手する。
「面白い」
「君は父親とは違う答えを出したか」
「父は何を選んだんですか」
俺が聞く。
神崎は静かに答えた。
「君を守ることだ」
その瞬間。
施設が揺れた。
警報。
「侵入者?」
高坂が叫ぶ。
「まずい!」
神崎が笑う。
「来たか」
「誰が?」
俺が聞く。
神崎は答えた。
「能力を兵器として利用しようとしている者たちだ」
扉が開く。
そこにいたのは。
黒い服を着た集団。
先頭に立つ男。
「見つけた」
「最後の憑依者」
俺は身構える。
「誰だ」
男は笑った。
「君の父親を追っていた者だ」
「そして」
「君の能力を回収する者」
黒瀬が前に出る。
「黄泉代」
「今回は俺に任せろ」
俺は驚く。
「お前が?」
黒瀬は笑った。
「勘違いするな」
「まだ認めたわけじゃない」
「ただ」
一瞬、目を伏せる。
「妹のような人間を、また作りたくないだけだ」
戦いが始まる。
黒瀬が敵の一人へ近づく。
すかさず背後を取り人質に取る。
しかし。
能力が発動しない。
「なぜだ……」
敵の男が笑う。
「我々は感情を制御している」
「助けてほしいと思わせなければいい」
その言葉。
俺は気づく。
この能力の弱点。
人の心がなければ。
発動できない。
俺は前へ出る。
「なら」
「俺が話す」
敵を見る。
「あなたたちは、本当に何も望んでないんですか」
沈黙。
一人の兵士の手が震える。
「……」
「帰りたい」
小さな声。
聞こえた。
『助けて』
能力発動。
俺はその兵士になる。
感じる。
恐怖。
孤独。
命令されるだけの日々。
この人も。
誰かに助けてほしかった。
憑依が解ける。
兵士は武器を落とした。
「隊長っ!!??」
戸惑う兵士たち。
できた一瞬の隙で。
黒瀬が兵士たちを制圧。
神崎を見る。
「これが」
「父が残した答えか」
神崎は初めて険しい顔をした。
「違う」
「君はまだ分かっていない」
「憑依能力の本当の目的を」
神崎は一枚の写真を出す。
そこには。
若い父親。
そして。
もう一人。
赤ん坊の俺。
写真の裏。
父親の文字。
『絶対に能力は継がせない』
俺は凍る。
「……え?」
神崎が言う。
「君の父親は」
「君に能力が宿ることを恐れていた」
その瞬間。
新たな疑問が生まれる。
なぜ。
父親は。
俺を守ろうとしたのか。




