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救いの形

「この力は……呪いなのか」


鏡に映る自分を見る。


俺は最近、何度も同じことを考えていた。


誰かの人生を借りる。


誰かの感情を知る。


誰かの痛みを背負う。


それは本当に救いなのか。


それとも。


ただの自己満足なのか。


翌日。


高坂から連絡が来た。


「黄泉代」


声が重い。


「黒瀬が動いた」


「何をした?」


「依頼を受けた」


「また?」


高坂は頷く。


「しかも今回は……」


少し間を置く。


「お前が断った依頼だ」


依頼者の名前。


三浦航。


第13話で黒瀬が憑依したミュージシャン。


俺は驚いた。


「まだ続いてるのか?」


「違う」


高坂が言う。


「彼の周囲がおかしくなっている」


三浦航は、以前とは別人のように成功していた。


曲は大ヒット。


ライブは満員。


世間は彼を天才と呼んだ。


でも。


本人は。


笑っていなかった。


会いに行く。


楽屋。


そこにいた三浦さんは、俺を見るなり言った。


「あなたは……あの時の」


「はい」


「助けてくれるんですか?」


その言葉。


俺は違和感を覚えた。


「どうしてそう思うんですか」


彼は俯く。


「だって」


「俺にはもう、俺の才能なんて必要ないから」


「どういう意味ですか」


三浦さんは震える声で言った。


「黒瀬さんがいる時」


「俺の身体は完璧に動いた」


「何も怖くなかった」


「失敗もしなかった」


拳を握る。


「でも」


「終わった後、思ったんです」


「俺は……どこにいるんだろうって」


俺は黙った。


それは。


昔の俺自身だった。


誰かの身体になった時。


完璧な演技ができた。


でも。


そこに黄泉代(おれ)はいなかった。


その夜。


黒瀬が現れた。


「話は聞いたか」


「黒瀬」


俺は睨む。


「彼を返せ」


黒瀬は笑った。


「返している」


「彼は成功した」


「夢を叶えた」


「違う」


俺は言った。


「彼の夢じゃない」


黒瀬の表情が変わる。


「何だと?」


「お前の夢だ」


沈黙。


黒瀬は小さく笑った。


「……君は何も分かっていない」


「俺は昔」


「目の前で大切な人が壊れていくのを見た」


黒瀬は語り始めた。


昔。


彼には妹がいた。


才能があった。


歌手を目指していた。


しかし。


何度も失敗した。


周囲から否定され。


夢を失い。


最後には。


自分自身を否定した。


「俺は思った」


黒瀬は言う。


「本人に任せるから苦しむんだ」


「なら」


「俺が代わればいい」


俺は聞く。


「それで妹さんは幸せだったのか?」


黒瀬は黙る。


「……」


「もし」


俺は続ける。


「妹さんがもう一度、自分で歌いたいと思っていたなら?」


黒瀬の目が揺れる。


その瞬間。


俺のスマホが鳴った。


高坂から。


「黄泉代」


「まずい」


「何だ?」


声が震える。


「お前の父親の痕跡を見つけた」


俺と黒瀬は同時に反応した。


「どこだ」


向かった場所。


古い研究施設。


そこには。


父親が残した資料があった。


一冊のノート。


表紙には。


『憑依能力について』


俺は震える手で開く。


そこには父親の字。


『この力は、人を救うものではない』


『使う者の心を映す鏡だ』


ページをめくる。


最後の一文。


俺は息を止めた。


『もし君がこの力を持ったなら』


『どうか、自分自身を失わないでほしい』


黒瀬が呟く。


「君の父親は」


「君を知っていた」


俺はノートを握る。


初めて。


父親から言葉をもらった気がした。


その時。


施設の奥から声がした。


「やはり、ここにいたか」


振り返る。


そこにいたのは。


白衣を着た男。


「その力は危険だ」


男は言う。


「長い間、研究してきた」


「憑依者は世界を変えられる」


男は笑う。


「君たちはまだ分かっていない」


「その力は」


「人類を作り替えるためのものだ」


俺は立ち上がる。


黒瀬も隣に立つ。


初めて。


同じ敵を見る。


「黄泉代」


黒瀬が言う。


「一時休戦だ」


俺は頷く。


「……ああ」


俺たちは知らなかった。


この出会いが。


憑依能力の本当の歴史へ繋がることを。


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