父の痕跡と消された過去
古い写真。
そこに写っていた男。
若い頃の父親。
そして、その隣にいる女性。
俺の母親。
知らないはずなのに。
なぜか胸が苦しくなった。
「……何なんだよ」
写真を握る。
俺は、自分のことを何も知らない。
父親のことも。
母親のことも。
そして。
なぜ、この能力を持っているのかも。
翌日。
俺は高坂に頼んだ。
「調べてほしい」
「何を?」
「俺の家族について」
高坂は少し驚いた顔をした。
「今まで興味なかったのか?」
「怖かったんだと思う」
自分でも意外だった。
「知ったら、何かが変わる気がして」
高坂は黙った。
そして。
「分かった」
そう言った。
俺はもう一度、黄泉代清志さんの病室へ向かった。
「また来たのか」
清志さんは少し笑った。
「聞きたいことがあります」
俺は写真を出した。
彼の表情が変わった。
「……それをどこで」
「家にありました」
長い沈黙。
そして。
清志さんは目を伏せた。
「そうか」
「あなたは、俺を知っていますか?」
その質問に。
彼はすぐ答えなかった。
「君は」
清志さんは言った。
「昔のある人に似ている」
「誰ですか?」
「君の父親だ」
息が止まる。
「……俺の父?」
清志さんは頷く。
「君の父親は、人を助けようとしていた」
「でも」
拳を握る。
「救えなかった」
聞けば聞くほど。
分からなくなる。
なぜこの人は父を知っているのか。
なぜ俺の名字を知っているのか。
そして。
なぜ俺は、この人の記憶の中にいたのか。
「黄泉代君」
清志さんが言う。
「君は能力を持っているね」
俺は固まった。
「……知ってるんですか」
「昔から知っていた」
「なぜ?」
清志さんは答えた。
「君の父親も、同じ力を持っていたからだ」
頭の中が真っ白になる。
「俺の父親が?」
「そうだ」
「じゃあ……」
俺は言葉を失う。
「この力は、一体何なんですか」
清志さんは窓の外を見る。
「人の痛みを知る力だ」
「人の人生を借りる力ではない」
「その人の苦しみを、自分のことのように感じる力だ」
その時。
胸の奥が熱くなった。
能力を使った時。
なぜいつも感情まで流れ込むのか。
なぜただ身体を借りるだけではないのか。
少しだけ分かった気がした。
「でも」
俺は聞く。
「父はどうして、この力を使わなくなったんですか」
清志さんは目を閉じた。
「使えなくなった」
「なぜ」
「大切な人を救えなかったからだ」
その言葉。
胸に刺さった。
俺にも分かる。
もし。
目の前で大切な人を救えなかったら。
もし。
この力があっても届かなかったら。
俺は耐えられるだろうか。
その夜。
高坂から連絡が来た。
『調べた』
添付された資料。
そこには、俺の父親について書かれていた。
名前。
経歴。
そして。
最後の記録。
『行方不明』
俺は画面を見つめる。
「父さん……」
その時。
知らない番号から電話がかかってきた。
恐る恐る出る。
『黄泉代君ですね』
知らない男の声。
『あなたのお父さんについて知りたくありませんか』
俺は黙る。
『会いましょう』
『あなたと同じ力を持つ者について、話があります』
電話が切れる。
高坂を見る。
「怪しいな」
「ああ」
「行くのか?」
俺は少し考えた。
今までなら。
怖くて逃げていたかもしれない。
でも。
もう違う。
俺は。
誰かの人生を背負う覚悟をしてきた。
なら。
自分の人生から逃げるわけにはいかない。
「行く」
翌日。
指定された場所へ向かう。
そこにいたのは。
一人の男。
年齢不詳。
そして。
俺を見るなり言った。
「やっと会えた」
「黄泉代の息子」
「君が――」
男は笑った。
「次の憑依者か」
俺は息を飲む。
「あなたは……誰だ」
男は答えた。
「俺か?」
少し間を置く。
「俺は、君の父親の元相棒だ」
そして。
男は続けた。
「君の父親は死んだんじゃない」
「消えたんだ」
「この力の秘密を知ったためにな」




