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黄泉代という名前

『自分の父親を助けてほしい』


高坂から送られてきた依頼。


俺は、その名前を見て動けなくなった。


依頼人。


黄泉代蓮。


「……黄泉代?」


高坂を見る。


「珍しい名字だな」


「お前と同じだ」


「そうだな」


俺は画面を見つめる。


自分と同じ名字。


それだけなら偶然かもしれない。


でも。


胸の奥が妙にざわついた。


依頼人と会った。


場所は、とある病院。


そこにいたのは、二十代後半くらいの男だった。


「黄泉代さんですか」


「はい」


「すみません」


彼は深く頭を下げた。


「父を助けてください」


父親の名前は、


黄泉代清志。


六十歳。


数年前から病気を患っている。


しかし、問題は病気ではなかった。


「父は……」


蓮さんは言葉を選ぶ。


「昔のことを何も話してくれないんです」


「昔?」


「僕が小さい頃のこと」


彼は拳を握った。


「父は、僕の母のことも話そうとしません」


病室に入る。


そこにいた男性を見た瞬間。


俺は息を止めた。


どこか。


自分に似ている気がした。


目元。


表情。


理由は分からない。


でも。


初めて会った気がしなかった。


「あなたが……黄泉代さんか」


清志さんは言った。


「変わった仕事をしているらしいな」


「知ってるんですか?」


「少しだけ」


その言葉に違和感を覚える。


「父さんは、昔何をしていたんですか?」


蓮さんが聞く。


清志さんは黙った。


「……忘れた」


「嘘だ」


蓮さんの声が震える。


「父さんは、いつも何か隠してる」


その瞬間。


俺は気づいた。


この人は。


助けを求めている。


でも。


何を助けてほしいのか。


本人にも分かっていない。


その夜。


俺は清志さんと二人で話した。


「聞いてもいいですか」


「何を」


「なぜ、過去を隠すんですか」


長い沈黙。


そして。


彼は言った。


「怖いんだ」


「怖い?」


「思い出すことが」


その言葉を聞いた瞬間。


胸に響いた。


俺も。


憑依するたびに感じる。


他人の記憶。


他人の人生。


それは時に、幸せだけではない。


苦しみも。


後悔も。


全部入ってくる。


「あなたは」


俺は聞く。


「何を忘れたんですか?」


清志さんは目を閉じた。


「……人を救えなかったことだ」


その瞬間。


聞こえた。


『助けてほしい』


今までとは違う。


弱い声。


長い間、閉じ込めていた願い。


そして。


俺の中にも。


――知りたい。


この人を救いたい。


光が走った。


目を開ける。


俺は清志さんになっていた。


身体は老人。


しかし。


流れ込んできた記憶に。


俺は息を失った。


若い頃の清志さん。


彼は医者だった。


そして。


事故現場で一人の少年を助けようとしていた。


必死だった。


でも。


救えなかった。


その少年の名前。


それは。


「黄泉代……」


俺は呟いた。


記憶の中。


清志さんが助けようとした少年。


その名前は。


俺と同じ名字だった。


さらに記憶が流れる。


病院。


泣いている女性。


赤ん坊。


そして。


清志さんの声。


『この子をお願いします』


そこで。


記憶が途切れた。


憑依が解ける。


俺は呆然としていた。


清志さんを見る。


「あなたは……」


言葉が出ない。


蓮さんが不思議そうに見る。


「どうしたんですか?」


俺は答えられなかった。


帰り道。


高坂が言った。


「何か分かったのか?」


俺は黙って歩いた。


そして。


小さく呟く。


「俺の名前」


「もしかしたら……」


家に帰る。


古いアルバムを開く。


そこには幼い頃の俺。


そして。


見覚えのない女性。


恐らく母親なのだろう。


その隣に。


知らない男。


父親。


写真の裏を見る。


そこには一言だけ。


書かれていた。


『黄泉代へ』


スマホが鳴る。


高坂から。


『次の依頼』


俺は画面を見る。


でも。


もう内容は頭に入らなかった。


なぜなら。


写真に写っていた人物。


その顔を。


俺は知っていた。


そこにいたのは。


若い頃の。


俺の父親だった。


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