5 物語の続きを
シンクロニシティ・レッスンは、エンタテイメントというよりは、どこか文学的な匂いがする作品だ。孤独な青年が、どこか別な場所にいる見知らぬ青年と同じ時間を共有していることに気がつき、そして実際に彼と出会い、日常が少しずつ変わっていく、というストーリーで、主人公が出会うキーパーソンの青年が何者かというのが大きなキモだ。以前から鎔先生は、司がそのキーパーソンの青年に似ている、と言っていたのだが、
「津和くんが、メルザイオスのバックストーリーを作ったじゃない。その中で、司くんは異世界の学者だっていう設定だったわよね?」
「はい」
「それで思ったの。シンクロニシティ・レッスンに出てくるあの青年は実はこちらの世界の観測のために現れていたんだって。主人公とはたまたま波長が合って、それで何度もでくわしていたのだけど、あるときあちらの世界で異変が起きて、王様がドラゴン退治をすることになって、青年は主人公に助けを求め、そこから波瀾万丈の大冒険が始まる、ってのはどう?」
「却下です」
俺は即座に言った。すると、鎔先生は声をあげた。
「えー、何で?面白そうだと思うけど」
「ダメです。それじゃ、今までの話の雰囲気がぶち壊しじゃないですか!」
シンクロニシティ・レッスンはどちらかというと静かな雰囲気の作品だ。それがいきなり賑やかな娯楽活劇みたいになったら、今までの読者が逃げてしまうだろう。
俺がそう説明しても、先生はピンとこないようだった。いい案だと思ったのに、と言い続けている。……これ、本気で言っているのだろうか。もしそうだとしたら、亡くなったご主人がストーリーを担当していたのは、ものすごい正解だった気がする。
俺は、シンクロニシティ・レッスンの話はまた別の日にしましょう、と伝え、グッズの制作の話題に入った。それがもともとの今日の用件だった。鴫沢レンの誕生日グッズの告知用サンプルが出来てきたので、それを見せつつ、その次の周防章の誕生日グッズの打ち合わせをする。ちなみに、鴫沢レンの誕生日グッズの発売については、昨日のレンの配信で告知済みだ。
鴫沢レンのグッズの告知用サンプルを見て、先生は目を輝かせた。
「ああ、素敵ねえ……!いつも思うのだけど、自分が描いた絵がこういう風に形になるのって、ほんと、嬉しいわ!それに、今回、とっても豪華。このタペストリーなんて、ほんと、描いた自分が言うのもなんだけど、見栄えがするわ……!」
誕生記念フルセットの中に入っているタペストリーを手で撫でながら、先生は言う。
「でも、これの発売日って、四週間後なんでしょう。デビューしてまだ三ヶ月くらいしか経ってないのに、こんなに出して大丈夫?」
「逆に最初だから少し豪華にしたというのもあります。後は、鎔先生の人気と、鴫沢レンの人気も見込んでというのはありますね。昨日の告知配信でも、鎔先生のイラストのグッズが買えるのが嬉しい、とか、ナイトレイヴンの新しいコラボグッズと思って買う、みたいなコメントが多数ありましたから」
「そうなのね。周防くんのも同じ内容になるのかしら」
「そうですね。セット内容は同じです」
周防のグッズについて一通り打ち合わせをした後、鎔先生は満足そうに笑みを浮かべながら、
「良かったわ、今までの経験が生かせて。雑誌の付録とかでいろいろ描いてきたもの。ぬいぐるみを作る、なんてことになったら私は役に立てそうにないけど」
「その場合は、先生にデフォルメ案の確認をしてもらうことになりますね。でも、ぬいぐるみを作るのはまだまだ先のことになりますか」
「ぬいぐるみってそんなに作らないものなの?」
「誕生日で作るというのはないかな、と考えています。ぬいぐるみは原価が高いんで、もっと特別な記念のときですかね。先生はぬいぐるみ、お好きですか」
「ええ。昔、集めてたわ。夫があんまりいい顔をしなかったから、途中で買わなくなったけど。引っ越しが終わったからまたちょっと買ってみようかしら。さっきもかわいいぬいぐるみを見かけて。この事務所の前で、男の人が持ってたのよ。三十代くらいの人が、両手で大事そうに。ああ、ごめんなさい、話がそれたわね」
それから先生は巧や司の誕生日を確認し、そこから今後の仕事のスケジュールを確認して打ち合わせは終わった。
事務所から帰っていく先生を見送るべく、俺は先生と一緒に事務所の玄関ロビーまで出て行った。
と、先生が声を上げる。外を指さしながら、
「ほら、あの人。さっき言ったでしょう、かわいいぬいぐるみを持ってる人がいたって。あの人よ」
「え?」
俺はその方を見た。そして驚きで固まった。
そこには、真中がいた。手には、見覚えのある黒白のアリクイのぬいぐるみを持っていた。




