3 練習相手
巧は俺たちの目の前に降り立つと言った。
「異変を感じて来てみれば。何でツカズまでこっちにいるんだよ」
「ごめん、練習開始のぎりぎりまでいいかなって思って、僕が空間の設定をこっちにしていて。時間より早く来たツカズさんが、そのままこっちに入ってきたんだ」
「あー、つまり俺のミスか。制限かけとけば良かった」
「そうだぞ、お前のミスだぞ」
俺の肩の上でキョウが言う。巧は腕を伸ばしキョウの首根っこを掴むと、自身の目の前に持ってきて睨みつけた。
「何でお前までここにいる」
するとアレクシスは軽い調子で、
「それもごめん、キョウがたまたまうちに遊びに来てて。それで、巧さんから、ツカズさんの練習相手の話がきたから行かなきゃって俺が言ったら、ついてくるって言って」
「連れてくるなよ」
ため息混じりに巧は言い、キョウをぱっと放した。キョウは地面に落ちることなく、ふわりと浮かび上がって今度はアレクシスの肩の上に乗った。
巧は困ったように頭を掻きながら、俺たちに、
「あー、まあとりあえず、練習に戻ってくれ」
「ああ。今回はファンタジーアクションゲームをやるわけじゃないからな」
俺の言葉に、巧は少し意表を突かれたような表情になったが、すぐに、
「そうだな。じゃあ、俺は一旦戻って入り直すから。アレクシス、ツカズのことは頼んだ」
「頼まれた」
アレクシスの肩の上でキョウが言うと、巧は、
「てめえには頼んでない!」
と言ってから、空を飛んで消えていった。
それを見送って、キョウもまた空に浮かび上がる。
「じゃあ、俺も行くわ。また今度な」
「うん、折角来てくれたのにごめんね?」
「気にすんな。おうツカズ、さっきの戦いっぷりは見事だったぞ。うちの部隊にスカウトしたいくらいだった。まあ、また会おうぜ」
そしてキョウはその場から姿を消した。ゲームからログアウトするにしても、いろいろな演出方法があるんだな。
二人がいなくなると、空はピンク色から灰色がかった水色に変わる。いつものVEMの空の色だ。
アレクシスは爽やかな笑顔を浮かべ、
「じゃあ、元の場所に戻ろっか。巧さんと司さんとデュオ戦があるから。ただ、申し訳ないんだけど、僕は銃を使った戦闘って最近始めたばかりで、剣と魔法ほどにはやれないんだ。まあ、それだからこそ、腕試しで組ませるのにいいと巧さんは思ったんじゃないかな」
巧はそれから三十分ほどしてから司と一緒にログインしてきた。それまで俺はアレクシスと一緒に狙撃の練習をしてかなり勘を取り戻していたのだが、巧と司のデュオと試合をしてみると、あっさりと負けた。やっぱりいつも試合をやってる奴らの反応は違う。アレクシスは、本人が言っていた通りに銃に慣れていないようだったが、戦闘時の位置取りについてはごく自然にこなしていた。
試合後のロビー画面で、アレクシスは試合に負けたというのに清々しく言った。
「あー、楽しかった!ツカズさん、ありがとう。また会いましょう。巧さんの話だと、巧さんとか司さんが見られないときは、僕と練習することになるらしいから」
声だけでもわかる爽やかさだった。というか、俺は普通に一人でVEMにログインして練習するつもりだったが。
俺がそう言うと巧は、
「それでもいいけど、アレクシスは実戦経験豊富だから。どんな奴に当たるかわからない野良で試合をこなすよりも、こいつに見てもらった方がいいだろ。まあ、練習できる時間がわかったら、俺に連絡をくれ。アレクシスが対応できるように調整するから。アレクシス、頼めるよな」
「うん、いいよ、それで。じゃあ、また」
そしてアレクシスはログアウトした。なんか、人間くさいbotだなあ。よく出来てる。
俺は巧に訊いた。
「健吾も、アレクシスに見てもらうのか」
俺が言うと、巧は歯切れ悪く、
「んー、まあそうなるかなあ。社長は俺たちとの練習に専念してほしいし」
すると司が、
「そうなるね。これ以上、ゲームのことで社長の時間をとるわけにはいかないから。ただ、ツカズさん、一つお願いがあるのだけど。このサーバのこととかアレクシスのこととか、他の人には言わないでほしいんだけど」
どういうことだ?




